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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第11章:狙われる娘

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222/259

222話:気まずさの膠着

 班別対抗戦について、次回の場所と日程がターニャ師から発表されると、その日一日は終わりだった。放課後の時間になる。


「疲れてる?」


 リヨンが革の鞄に荷物を詰めていると、レーネに問われた。


「……うん、ちょっと」

「そりゃ、疲れるだろう。学院長室での話から数週間経って、なにもないとは言え、命を狙われてるかもしれないんだ。緊張するのが当たり前」


 隣の席で片付けをしていたセアスが付け足す。

 レーネの問いは、その意味だけではないのはリヨンはもちろんわかっていたが、このセアスがリヨンのことを心配して言ってくれているのはわかる。

 レーネも無粋な返答はしなかった。


「そうだよねー。神経使うし。あたしだって、ばりばりだもん」

「ばりばりってなんだよ」

「張り詰めてるってこと!」


 はあ、と返事をしながら、セアスは荷物をまとめあげる。


「じゃあ、また明日」


 リヨンと異なって、セアスはツェットから登校している。車止めに馬車を待たせているからか、颯爽と姿を消した。リヨンとレーネだけになる。


「お母さんの手紙?」


 ふたりだけになると、レーネが直接的に聞いた。


「うん……」


 リヨンは溜息とともに肯く。


「毎日来るの?」


 首を振る。


「毎日何通も」

「うえー」


 レーネがとんでもなく嫌そうな顔になった。


「父さんがそんなに連絡してきたら、あたしだったら病んじゃう」

「……わたしも病みそう」


 リヨンは苦笑する。けれど、聞いた言葉を思い出す。


「でも、一応大丈夫。めんどくさくて手紙の扱いに困ってるけど、返答は決まってるから」


 シェイラ師に話を聞いてもらってよかったと思っている。


「へえ、すごい。リヨン、強くなったね」

「あんまり変わらないよ」


 レーネが丸い目を見開きながら言うのに対して、リヨンはほほ笑む。


「少し話を聞いてもらって、関わり方を教えてもらっただけ。……あとは、ターニャ師もいてくれるし、それに大好きな親友もここにいてくれるから」


「やーっ! もう、リヨン、大好きっ」


 レーネが、がばっとリヨンに抱きつく。リヨンも抱きつき返す。


「いつも……ありがとう」

「水臭いなあ」


 離れると、レーネは照れた顔でそう言う。


「気分転換に、メアナさんのところに行ってから帰るね」

「わかった。なんかあったら、ちゃんといいなよ。ロータさんも協力してくれるって言ってるし」


 庶務員のロータは、母からの増える手紙をとても心配してくれている。

 いつでも止めて送り返してやると言っていた。その気持ちだけでもありがたい。


(大丈夫)


 命を狙われているというのは、未だにどこか覚束ないところがあったけれど、母との距離は、なんとかできるような感覚を得ていた。



〜*〜



「なにも起きないですね」

「……そうだな」


 シェイラとイディオンは、ふた並びで学院内の廊下を歩いていた。木床にふたり分の足音が響く。

 一日ばらばらに動いて、合流してのすり合わせの時間だった。


 事務的な会話は、問題なく交わすことができる。それが今のシェイラにはありがたい。


 シェイラが泣いてしまってから、ふたりの気まずさは、いよいよ膠着しはじめていた。どちらともに切り出せなくなって、仲直りの糸口を見つけられずにいる。たまに視線が合うと、互いにぱっと外してしまう。


(このまま……)


 イディオンと仲たがいしたままだったら、どうなってしまうのだろう。


 そんな不安が、シェイラを圧迫している。日に日に、強くなって、瞑想の呼吸を忘れるほどになっている。だから、この時間は貴重だった。



「少し……、情報を整理する時間を取れませんか?」



 モルリオールの時みたいに、とシェイラは尋ねる。


 鼓動がはやくなった。拒否されたら、どうしよう。理由は、不審に思われないだろうか。

 またつめたい目を向けられるのがこわくて、見上げなかった。視線は下げたまま、返答を待つ。


「……いいよ」


 数秒、間が合ってからの返答だった。シェイラは顔を上げる。縹色はこちらを見なかったけれど、どこかその応答に、安心のある爪弾きを感じてしまう。


「ありがとうございます。そしたら、どこか空いてる教室をおかりしましょう」

「わかった」


 目についた教室に入る。つながり合う長卓に、互いの視線が交わらない場所を選んで、同じく連なっている椅子に腰かける。半馬身ほどの距離が、自然と空く。



「イディさんは、なにか調べていてわかったことがありますか?」



 ルーマンに来てからこの方、ふたりは話すことができてない。情報をすり合わせておきたいというのは、本心だった。


「マーロ・スパンのことは調べていると話したよね」

「はい」


 そのやり取りからはじまって、気まずくなってしまったのだから、よく覚えている。


「その男のことについてはわかったよ」


 イディオンはそう言って、男の人生を語った。


 聞き終えた時、シェイラは斎王国の白砂(はくしゃ)を噛んだような後味の悪さを感じる。


「……娘さんと細君を亡くされて、なぜ、同じような境遇のヤルチェさんを……」


「ぼくも同じことを思った。だから、マーロという男が言っていたことをよく思い出してみたんだ。大義があると話していたこと。その前後のこと。それから、ヤルチェ・ラッカーラから聞いたことも」


「ヤルチェさんから聞いたこと?」


 シェイラは顔を上げる。イディオンと目が合った。逸らされるのではなく、強い肯きが返ってくる。


「ああ。祭典後に話を聞いた」


 マーロに殺された女は、奇妙なことを言っていたのだと言う。


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