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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【6/6完結予定】  作者: 稿 累華
第11章:狙われる娘

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211話:12歳のリヨン(2)

 リヨンの顔には笑みが浮かんだ。


 足早に、目的地を目指す。生け垣に沿って進む、整備された庭園は上から見ると、学院の校章を模しているらしい。横には食堂でもある講堂もあった。

 リヨンは煉瓦道を進む。脇には、夏の花々が咲き誇っている。庭師のメアナが暑いなか手入れを行っていた。


 横脇にずっと進むと、敷地内にある廃教会があったが、リヨンは真っ直ぐ進む。そこから分かれ道。男子寮と女子寮。リヨンはもちろん、女子寮だ。右の方へと進む。気づけば、リヨンは走り出していた。


 まもなくして、在学中に居としている学寮(コレッジ)が見えてきた。赤煉瓦のなかに、窓や柱の白がかわいらしい。男子寮は、白ではなく黒っぽい灰色だから、白でよかったなと思う。

 横長の二階建ての学寮は、上から見ると真四角になっていて、中央に中庭がある。暑すぎない日は、そこでのんびりするのもリヨンの気に入りだ。……最近は、蚊がいっぱいいるから、いやだけど。


 寮監に挨拶する。

 そして、リヨンは怒られるよりも前に、階段を駆け上がった。寮監からの叱責が聞こえる。二階の談話室。そこに向かう。

 ざわざわ、というざわめきが漏れ聞こえる。どきどきした。顔が緊張する。


(でも、大丈夫)



 ──リヨンはもう、喋れない娘じゃない。



「ただいま」


「おかえり、リヨン!」



 ぱーっと、場が華やかになる明るい笑顔で、レーネが飛びつくようにリヨンをぎゅっと抱きしめた。黒髪が巻き込まれて、ちょっとだけ痛い。そんな痛みでも、レーネならいいやと思ってしまう。


 レーネ・ブロンニ。リヨンの親友。かけがえのない、友だち。



「みんなー! リヨン戻ってきたから、はじめよう!」



 溌剌とした声で、レーネが振り向いて言う。


「{遮音}は?」

「ばっちり!」

「{施錠}は?」

「この通り!」

「いざという時の煙幕は?」

「もちろんここに!」


 元気な女子たちの声がいくつも返ってくる。



「よし、じゃあ、はじめてこ!」



 レーネの声が号令となると、学期末試験終わりを祝した、お菓子宴会(パーティー)のはじまりだった。


 いろいろ炭酸。不思議な粉を入れれば、あら不思議。飲むたびにちがう味の炭酸。ハズレは、弾性鞠(ゴムボール)味。一生忘れられない。

 弾ける花火もろこし(ポップコーン)は定番。いつだったかのオーズの誕生日会でも使用。ひゅ〜っと打ち上がる音があっても{遮音}があるから関係ない。

 へびへび餅菓子(グミ)は、床をうねっているからなかなかつかまらない。教室だと、きゃーきゃー言って男子の目を窺う女子たちも、女子だけになれば狩猟者になる。目をぎらぎらさせて捕まえに行く。味は、食べてからのお楽しみ。


 さらには、光線飴玉(ビームキャンディー)、ほしぞら加加阿(チョコレート)、こがねの月ひら(おせんべい)……とにかくいっぱい出てきた。

 興に乗ったところで、レーネが、夏には使われない暖炉のうえで一言。


「あたしが考えた、新商品の宣伝です!」


 じゃーん、とレーネは、手に収まる棒状のものを出す。



「名づけて、肌美人の口紅蜜(リップキャンディー)!」



 なにそれ、と声が上がる。


「これをなめるように口にすると、なんとその人にあった紅を、唇に付けてくれちゃうんです!!」


 レーネが仁王立ちして言うと、ご意見が上がる。



「子ども騙しじゃん!」

「わたしたち学院生だよ!」

「お菓子で化粧してもねー」



 そんな意見に、レーネは、わかってないなーと指を振ってみせた。


「これはいろんな味があるんだよね。苺味、檸檬味……全部で五種類! 発揮されるのは三十分。でも、その代わり、塗るといいことがある」


 レーネは、小声になって言う。


「紅の色が変わっているあいだ、唇も飴と同じ味になる。飴の効果で唇もうるっとしちゃう」


 つまり、とレーネは数秒溜める。


「好きな人との、はじめての口づけの時におすすめです!」


 そこからは、きゃーきゃー、と女子たちのお祭りは、乱戦となった。全員分あるというレーネの声を聞かずに、奪い合いになる。

 リヨンが外から見守っていると、へろへろになったレーネが出てくる。


「みんな、群がりすぎでしょ」


 リヨンはくすくす笑う。それから、レーネの耳元にいたずらっぽく囁いた。


「あの商品、思いついたのって、ドランといた時でしょう?」


 言うと、レーネは野ウサギのように飛び上がった。顔を真っ赤にして、リヨンを凝視する。


「な、な、なんで……っ?」

「やっぱり」


 リヨンは、またくすくす笑う。


「もしかして、{感応}使った?!」

「そんなことしないよ。親友の大事な心を覗き見るなんて悪趣味、しないもん」

「じゃあ、なんでよー!」

「だって、レーネ、わかりやすいもん。苺味とか、わかりやすくドランの好きな味じゃない」


 ドランは学園時代に一緒だった男子だった。中等部の時は班も一緒だったことがある。記憶がおぼろげだったが、防霧林の園外実習も同じ班だった。

 レーネは、そのドランのことが好きなのだ。

 箒職人である実家を継ぐために、学院には進まないという選択肢を取ったドランだが、レーネはちょこちょこ手紙のやり取りをしているらしい。


「あいつにもばれてるかな……」

「それはないよ」


 ぴしゃっとリヨンは言う。


「ドラン、にぶいもん」

「そうだよね〜」


 落ち込んでいるんだか喜んでいるんだかわからないレーネの声が上がる。


(まあ、両思いだけど)


 リヨンは知っている。ドランがレーネのことを好いていることを。そちらはうっかり{感応}を使って、知ってしまったのだ。

 でも、面白いから黙っておく。それに、リヨンの口出しすることではない。


「応援してるよ」


 思いっきり溜息をつくレーネに、リヨンは、翠の瞳をぱちっとやってくすくす笑う。


(帰りたくないな……)


 また、思う。


 学園を卒業し、学院に進学して一年と数ヶ月。こんな楽しい時間を過ごしてしまうと、帰省するのは、やっぱり気が重たくてたまらなかった。

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