948 スパイ活動の危険性
「ヘウンデウン教がなに?」
アルベドは言い淀む。
グランツのことを気にかけているだけじゃなくて、他にも何か考え事をしているようだった。ヘウンデウン教のことは私よりもアルベドのほうがよく知っているだろう。そもそも、ここに来るまでそんな危険な教団との接触はまずなかったのだから。
でも、アルベドはずっとその教団と戦ってきた。グランツには、彼らの仲間だなんて言われてしまい、へこんだこともあっただろう。彼自身が闇魔法の人間だから――という偏見をぶつけられ、彼まで悪者にされてしまっていた。アルベドは周りの視線を気にしないたちなのだろうが、傷つかないわけじゃないと思う。人は心が傷つく生き物だから。
「ヘウンデウン教……前にも言ったと思うが、この間……いや、前の世界と明らかに形態が違う。組織の形って言ったらいいか?」
「そのことに関しては、ラヴィが調べてくれているんじゃないの?」
「まあ、そうだが。あいつは幹部だからといって何でもかんでも知っているわけじゃねえし。もう一人くらいスパイがいればいいんだが」
「ス、スパイね……スパイ……」
「なんだよその言い方」
「もう一人いたほうがいいっていうのは賛成かもだけど、そんな危険を冒してまでスパイをやってくれる人はいるのかなって思って」
「……はあ、いねえんだろうよ。誰も、自ら死にに行くようなことはしたくねえ」
アルベドはなにを言っているんだと言わんばかりの顔でこちらを見てきた。
そのスパイというものはいないわけではない。ただ、それをアルベドには教えられなかった。
何故ならそのスパイ活動をしてくれている人……ではないのか、それは悪魔だから。元聖女の私が悪魔とつながっているのは倫理的にまずいんじゃないかと思う。ブライトは悪魔や禁忌の魔法を嫌っているのはもちろんのこと、アルベドも悪魔に関してはいい顔をしないのだ。悪魔は聖女に匹敵する力を持つ存在。アルベドは私のことを考えなくとも、悪魔の存在は危険視している。こちらの話が通じない、かといって人間の思考を理解できないわけじゃない。理解できるからこそこちらの思考を先読みして、あの手この手と打ってくる可能性が高いと。そんな存在がうじゃうじゃいたらこちらが不利になるのは明白。
私がベルの話を出してしまえば、アルベドと積み上げてきた信頼がガタンと崩れてしまうんじゃないかと思う。
アルベドは気になるというようにこちらを見て首をかしげる。嘘をつくのは良心が痛むがここは黙って押し切らないと。




