945 救出困難な人
「可能性としては一番たけえだろ」
「そりゃそうかも知れないけど……そう、ね。そうだと思う。グランツの力はエトワール・ヴィアラッテアには天敵だし、言ってしまえば私たちにとっても天敵。だからこそ、グランツを手放すのは惜しいって考えていると思う。もちろん、彼女の目的はだれかれ構わず愛されることだから、彼も自分を愛する駒の一つって見ているかもしれないけど」
アルベドの言う通り、洗脳をかけ直されている可能性はある。
そうなれば、私たちの声はもう届かないも同然だろう。どうすればいいのだろうか。
(まだそうと決まったわけじゃないけど、エトワール・ヴィアラッテアだってバカじゃないんだから、グランツへの対策はしているわよね……)
もしあの時彼を助け出せていれば、こんな結末にならなかったかもしれない。必ずや、彼と剣を交えることになる。彼はきっと私たちに容赦しないだろう。グランツは愛する者のためならどんな手段も択ばない男だと知っている。たとえ人を殺したとしても、彼は自分が守りたいと思ったものを守れればそれできっと満足してしまうのだ。それはとても恐ろしいことだ。けれども、彼の中の意志は変わらないだろう。
愛する人とそれ以外か。彼の中には常に二択しかないんだと思う。
「……まあ、あいつはまだ出てこねえだろ。あの偽物聖女様にとってかなり必要な人間になっているし、切り札として切ってくる可能性が高い。今回手伝わせたにしろ、そうでないにしろ、俺たちと近いうちに敵対することは確実だろう。そのとき、お前はちゃんとあいつと向き合えるか?」
「向き合うしかないんじゃない?向き合う、向き合わない以前に、彼の記憶も取り戻したいと思っているから……けど、それが簡単にいくとは思わないし。それに、それに……グランツの洗脳を解くのはかなり難しいと思う」
「そうだろうな。あいつは頑固野郎だからな」
「アンタに言われちゃったら何も言い返せないわね。それと、危険なのはアルベドもそうじゃない?」
「俺が危険?」
「だって、グランツは私たちのことを忘れているかもしれないけど、ヘウンデウン教のこと……この世界の彼は、アルベド、アンタに家族と祖国を滅ぼされたと思っているんだから、アンタを狙ってくる可能性はあるし、きっとこの間の世界よりもその殺意は増していると思う。背後、気を付けてね」
「確かにそうだな。まあ、簡単に殺されてはやらねえよ」
アルベドはフッと笑ったが、私の背筋には生暖かいものが走った。




