944 大きなデメリットとなりうる
エトワール・ヴィアラッテアにとってはどうでもいいことなのかもしれない。でも、グランツにとってはとても重大なことだ。彼がいくら記憶をなくし、洗脳されているからといって、私がいつかその洗脳を解くとして彼は――
脳裏によぎるいくつかの事柄。でも、それが上手く組み合わさることはなくすかすかと消えていってしまう。
私は額にもう一度手を当て、ズキズキと痛む押さえながら息を吐く。それをアルベドは黙ってみていた。
(やっぱり、ありえないわ。酷いことをしすぎよ……)
これ以上どうするというのだろうか。
罪を重ねて、たくさんの人を苦しめて。でも、彼女は自分の幸せを追求し続ける。誰のことも構わない。ただ自分の欲望のためだけに彼女は走り続けるだろう。
許せないという気持ちと、どうしてそんなことができるのかという気持ちが入り混じっておかしくなりそうだ。ただ一つ分かることは、すべてが元通りになったとしても、すべての人が元通りに幸せな生活を送れないかもしれないということ。
元通りになったところでそれまでの記憶が消えるわけじゃない。全てこの世界の延長線上で、記憶を保ったままものと世界に戻るのだ。
グランツがこれ以上罪を犯さないようにしたいけれど、今の私じゃどうしようもない。どう止めることもできないし、そもそもエトワール・ヴィアラッテアが彼に会わせないようにと策を講じるだろう。何せ、彼はエトワール・ヴィアラッテアにとってかなり優秀で使い勝手のいい子まであり、自分が洗脳している中で最も洗脳にかかっている男なのだから。また、彼を手放すことへのデメリットがあまりにも大きすぎる。魔法を切ることができる魔法。そのユニーク魔法はアルベドやブライトに対して天敵ともいえるもの。彼がいることで、エトワール・ヴィアラッテアは最強の盾を使うことができると。グランツを手放してしまえば、その恩恵を受けることができなくなる。
「……グランツの記憶を早く取り戻さなきゃ」
「まあ、あいつが敵側にいるメリットがないからな。あいつを放っておいてもいいことは何もねえだろ。むしろ、これ以上搾取されないためにも、あいつの記憶を取り戻すことは優先したい……が」
アルベドはそこで言葉を区切った。
「お前も分かっての通り、あの聖女様が手放してくれねえだろう。あいつの存在は大きい。だから力づくで取り戻しに来た。それに、もしあいつと出会ったとしても俺たちのことを覚えている保証はねえ」
「……つまり、さらに洗脳をかけられているってこと?」




