938 違う方向
「貴様ははっきりしているほうが好きかと思ってな。俺は未だに分からないことが多くある。貴様は答えを知っていそうだが、それを教えてくれそうにない」
「そりゃあ、自分で答えにたどり着いてくれなきゃなあ?な、ステラ」
「ここで私に振るわけ!?」
アルベドが私に話を振ったがために、リースの視線がこちらに向けられる。いたたまれない気持ちでいっぱいになるが、ここはこくりと頷くほかないと思った。
教えることができたらどれほどいいか。でも、それは敵わない。何故なら、それをしてしまえばどちらにもペナルティが起きるからだ。主に私は精神的、肉体的苦痛を受けることになる。それを乗り越えたと手、彼の記憶を取り戻せやしないだろう。やるだけ無駄というやつだ。
リースは私を見ていたが、私も応えられないのだと悟るとアルベドのほうに視線を戻した。
「今回は本当に助かった。貴様たちがいなかったら今頃はどうなっていたことか……」
「リ、リースこそ、自分の誕生日がこんなふうになっちゃって……もし、こんなふうにならなかったらって思ってたんだけど……あの肉塊のこと、とか」
「かまわない。そういう運命だったのだろう。そこに対してとやかく言うつもりはない。ただ、本当にあの肉塊が宮殿の地下にいたとなると、そこが問題というか……だな」
「そ、そうよね。あんなものが宮殿の地下にいたってなると……本当に」
「調べる必要はあるだろう。最も俺の婚約者は調べてほしそうにないようだがな。そこは、上手く言いくるめてでも彼女から……いや、彼女じゃなくてもいい。何かしらの情報を引き出せたらいいと思う。これからますます災厄は酷い方向へと向かっていくだろう。そうなったとき、何もできないようじゃ困るんだ。人の命がかかっているからな。帝国の未来もかかっている」
「リース……」
彼の目には闘志が燃えている。自分がとどうにかしなければならないという責任感も見て取れた。彼は、エトワール・ヴィアラッテアがどうこう以前に、しっかりと皇太子としての役割を果たそうとしているのだ。
そんな彼に私はなにができるだろうか。どんな言葉をかけてあげられるだろうか。
(ううん、彼は言葉をかけずとも自分で考えて行動するわよ。私が彼の心を乱しちゃダメじゃない)
今は、違う場所で頑張るしかない。彼がもし何かしらの拍子に思い出してくれたらそれでラッキーと思うしかないというか。
リースを見つめると、彼はすでに違う方向を見ていた。




