935 疑いの目、疑われる側
「確かに、あの化け物がいる可能性は捨てきれない。どうやら、あの肉塊と言われる怪物は宮殿の地下牢のさらに下から湧いて出てきたらしい」
「本当に湧いて出てきたと思っているのか?」
「一度検証しなければわからないだろう。誰かが意図的にそこに住まわせたという可能性も捨てきれない。だが、確認しないことによっては断定できない。それとも、レイ公爵子息は宮殿の地下にあれがいることを事前に知っていたのか?」
リースは鋭い瞳をアルベドに向けた。
ここで知っていると言ったらアルベドが疑われることになるのだろうか。宮殿の地下にいるとはいえ、それを知っているとなれば不法侵入した可能性が高いと言われても仕方がない。逃げようにも逃げられなくなってしまう。
アルベドはリースの言葉を受けても動じる気配を見せなかった。アルベドがこれしきのことで揺るがないことは知っているのだが、あまりにも冷静に対応するので私も驚いてしまう。
(ま、まあそうよね。そう言われるのは想定ないって感じよね……)
リースもバカじゃない。頭が切れる。だからこそ、アルベドの言葉に少しの引っ掛かりを覚えるのだ。そもそも、アルベドも口を滑らせたわけじゃない。わざと彼に気づくよう仕向けたようだった。しかし、そこで食い違っては結局こちらが疑われるだけで……
私ははらはらと見守っていた。どちらにせよ、二人が意気投合することも理解することもないだろうなと思ってしまったからだ。
(ちょ、ちょっと……本当にもう)
帰ると言ってから結局時間が経ってしまっている。
二人は睨みあっていたが、先に折れたのはリースのほうだった。
「誰かから情報を得た可能性はあるな。何もレイ公爵子息が宮殿の地下に入ったと断言するにはそれこそ情報が不足している。決めつけは悪かった」
「そう言ってくれると助かるぜ。俺が犯罪者に仕立て上げられちまうところだった」
「……罪は何も犯していないんだな?」
「また疑うのかよ。皇太子殿下はよっぽど疑うのが大好きだな」
「そう言うことではない。情報を知っているのであれば共有してほしいと思っただけだ。違法なやり方で情報を得ているのであれば少し問題だが……」
「まあ、疑われても仕方がねえか。俺は闇魔法の人間だからな」
「ア、アルベド……!!」
なんで自らそんなことを口にするのだろうか。
アルベドの顔を見てみれば、どことなくリースを挑発する様で、彼がなんて返すのかその返答を待っているようだった。




