934 相性は最悪なので
「ステラ嬢」
「……リース」
帰ろうと踵を返したところで彼に止められた。リースの後ろにはエトワール・ヴィアラッテアとルーメンさんの姿が見える。リースに近づこうとしているエトワール・ヴィアラッテアを必死にルーメンさんが止めている感じだ。相変わらずその姿はシュールだし、エトワール・ヴィアラッテアも本当に懲りないなと思う。リースに必死になっているのはまだ彼の洗脳が完全にとけきれていないから。ここらでもう一度洗脳をかけなおさなければと思っているのかもしれない。それにいち早く気付いたルーメンさんがそれを妨害していると。
ルーメンさんがいなかったらエトワール・ヴィアラッテアが暴れちえたと思うと、これでいいのかもしれないが彼への負担もすさまじい。
リースが早く記憶を取り戻してくれて、ルーメンさんの負担が減ればいいのだが……
リースが話しかけてきたことにより、アルベドは眉間にしわを寄せる。せっかく帰る気になったのに呼び止められて不快だという感情をあらわにしていた。リースはそれに気づき、どこか申し訳なさそうな顔をしたが、アルベドにすべてを譲るというわけもなく私のほうを見た。
彼のルビーの瞳は揺れている。私と何かを重ねるような。その重ねている何かまでは分からなかったが、懐かしむような顔をしている。だが、じっと見ていると、彼が苦しそうに唇を噛んでいるのがわかった。
「どうかしましたか。皇太子殿下」
「リースでいいといった。ステラ嬢にはそう呼んでほしいと思ったんだ。何故だか分からないが……」
「許されるというのであれば、リースで」
「ああ……」
「それで、リースなんで呼び止めたの?」
「領地へ……いや、ここから近いのはレイ公爵領か。帰るのだな」
「今日一日いろいろあって疲れましたし。現場検証なり、その場に居合わせた当事者だからまた顔を合わせることはあると思うけど。今は一旦帰る、かな?」
「そうか……宮殿に、と思ったがそっちの婚約者が許してくれそうにないしな」
リースはそう言ってアルベドのほうを見る。アルベドはチッと舌打ちを鳴らし、私を庇うように前へ出た。
リースの記憶がないからと言って、彼との相性は未だ最悪だ。彼が思い出さないというのもアルベドを苛立たせつ一つの理由なのかもしれないけれど。
「そうだな。婚約者である俺が許さねえな。そもそも、宮殿にはまだあの肉塊がいるかもしれねえだろ?そんなところに一日でも長くいたくねえんだよ。こっちは」




