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7月7日の憂鬱   作者: 塩ウサギ
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第三話 エゴの魔法

悲恋ハイファンタジーのはずが第三話でようやく魔法が出てくるわ、明らかにコメディ枠のキャラがいるわで訳がわからないかもしれませんが私自身も訳がわかりません。最終的にはシリアスにするつもりなので大目に見てください。

「お嬢ちゃん、魔法って興味あらへん?」

私の目の前でカボチャコロッケを啄むカササギはいきなりそう言い放った。

「は…?魔法、って…」

「魔法言うたら魔法や。お嬢ちゃんも人間ならわかるやろ、チチンプイプイだのアブラカタブラだの言うやつや。」

「はあ、それが何か…?」

カササギは長いため息をつき翼を額に当て、呆れたように言った。

「お嬢ちゃん、鈍いなぁ!ここまで言うたら俺が何しようとしてるか普通わかるやろ!」

わからない。そもそもこちらは立て続けに起こったおかしな現象に混乱しているのだ。ただ、漠然と嫌な予感はした。そしてそれは的中した。

「この食い物のお礼に、お嬢ちゃんに魔法の力をやるんや!」

「…はあ?」

私の反応もお構い無しにカササギは喋り続けた。

「ええか、お嬢ちゃんは今1つの命を救ったんやで!日本では古来からツルやらカメやらネコやら地蔵やらが恩返ししとるやないか、これはそのカササギ版やねん!餓死寸前の鳥を救っておいて恩返しは受け付けません、なんて世の中では通用せえへんで!今の時代ギブアンドテイクが主流やからな!」

「あなた3日間ドングリ食べてたとか言ってなかったっけ」

「しゃらっぷ!とにかくこれは恩返しやからな!受け取りやがれ!」

…受け取りやがれ、なんて言うものを恩返しなんて呼ばないと思う。おまけにカボチャコロッケを自分から与えた覚えはない。

「魔法って言ったって、どんな感じなのさ…」

「よくぞ聞いてくれた!」

カササギは姿勢をピッと正した。

「お嬢ちゃんにやるのは、『エゴの魔法』や」

「エゴの…魔法?」

「せや。この魔法を使えば自分の願いが叶う。それも個数制限無しでな。ただし」

カササギは意味ありげに間を置いて続けた。

「お嬢ちゃんしか持ってない願い限定や」

「…それって、どういうこと?」

「自分以外の人間が同じこと願っとったら叶わんってことや。例えば、お嬢ちゃんがテスト中にどうしてもわからん問題があって、その答えを知りたいと願うとするやろ?でもそう思ってる奴が自分以外にもおったら、願いは叶わんっちゅうことや」

「つまり、自分1人の為にしか使えない魔法ってこと?」

「せや、ご名答!」

カササギは顔の前で翼をばたつかせた。どうやら拍手のつもりらしい。

…その力を使ったら、由梨ちゃんは私を好きになってくれるかもしれない。最初に思い浮かんだのはそんな考えだった。しかし、カササギはそんな私の考えを見透かしたかのように言った。

「まあ確かに自分1人の為にしか使えへん魔法やけど、人の心をどうこうする為に使うのはお勧めせえへんで。好きな人は自分の力で手に入れてナンボや」

私は思わず目をそらした。確かに魔法に頼って由梨ちゃんを手に入れたところで、その先にあるのは罪悪感だけだろう。じゃあ、この能力はどうやって使えば良いのだろうか。使い道なんて全くわからない。

「あの、私魔法なんていらないんだけど」

「…いらんの?そりゃ困ったな。もうお嬢ちゃんにやっちまったわ」

カササギは全く困っていないような口振りで言った。

「…はああああ!?」

「まあまあ、落ち着きや!あって困るもんでもないで!」

「いらないよこんなの!普通の高校生が使い道のない魔法貰ったところでどうしろって!?」

「使わなければええ話やろが!人の厚意は素直に受けとらんか!もうええ、俺帰るからな!」

「あっ!ちょっと!」

私の制止もむなしく、カササギは夏の夜空に飛び去ってしまった。さっきまでの騒がしさが嘘のように辺りは静まり返っていた。

──どうか夢でありますように。微かに残ったカボチャの匂いを嗅ぎながら、私はそんなことを思った。


夢でありますように。そんな願いは次の日の朝、無惨に打ち砕かれた。隣の席に座るように指定された転校生は、やけに馴れ馴れしく私に話しかけてきた。

「よお。昨日はカボチャコロッケおおきに」

「…何でこんなベタな展開…」

時は朝のホームルーム。先生がいきなり転校生を紹介し出したのだ。

「転校生の笠木(かさぎ)ヒカル言います。今日からよろしくお願いします」

姿形こそ完全に男子高校生のそれだったが、その関西弁には聞き覚えがあった。あいつ、昨日のカササギだ!

私は思い切り彼を睨んだが、全く効果が無い。それどころか、ニヤニヤ笑ってピースまでしてきた。後から問い詰めたところ「笠木ヒカル」というのは偽名らしく(そりゃそうだ)、彼の本名はデネブ。私への恩返しが終わるまではこの学校に居座るつもりらしい。それ以外は教えてくれなかった。

「あんたさぁ…まさか私が魔法使うまでこのままでいるの?」

ホームルームが終わり、一時間目が始まるまでの10分休みを利用して私は彼に話しかけた。

「『使わなければええ話や』とは言うたけど、どうせなら使ってほしいからな。そのためには俺のアドバイスも必要やろ」

「いらない…出てけ…」

「まあまあそう言うなって。何か無いんか?欲しいモンとか」

無いわけではない。その「欲しいもの」が魔法で手に入れるわけにはいかないものだから困っているのだ。

「高校生って物欲そんなに無いんか…食い物とかは?」

「あんたと一緒にしないでもらえる?」

「じゃあ知りたいこととか!これならどうや!」

「そんなこと…」

言いかけて気付いた。ある。

私は昨日、由梨ちゃんの好きな人が誰なのかを聞いていない。というか、聞けなかった。傷付くのが怖くて、聞くことが出来なかったのだ。

「…好きな人の好きな人が誰か、とかも分かる?」

「願ってる人の数次第や。とりあえずやってみ?」

「やるって、どうやって?」

笠木ヒカルことデネブはにやりと不敵に笑った。

「心の中で願え。叶うかどうかは分からんで」

私は半信半疑で願った。由梨ちゃんの好きな人を知りたい。知ってどうするかなんてまだ決めてないけど、それでも知っておきたい。

すると、頭の中にいきなりクラスの男子の1人の顔が浮かんだ。教室を確認すると…いた。確かに背が高く、スラッとしている。

「分かったようやな」

デネブは勝ち誇ったようにこちらを見ていた。

「…うん。名前わかんないけど」

「お嬢ちゃん、アホやな」

「あんたに言われたくない」

「失礼やな!」

デネブはニヤニヤ笑いを止め、こちらをじっと見た。

「お嬢ちゃん。お前の一番の願いは何や」

─由梨ちゃんが欲しい。恋心を捨てたくない。苦しみを忘れたい。色々あったけれど、私はその中のどれでもあって、どれでもない願いを言った。


「幸せになりたい」






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