第二話 始まりは夏の日
塩ウサギです。小説内にやたらめったら食べ物の描写が出てきますが私が食い意地張ってるからです。あと、ハイファンタジーとか言っておきながら本格的に魔法が出てくるのは次回からになりそうです。ファンタジー要素はちょっとだけ入れたので許してください。
「私、好きな人がいるの」
ある日の帰り道、由梨ちゃんは突然そう言った。
いや、突然ではなかったのかもしれない。何しろあまりにも衝撃的過ぎて、それまでの会話内容を全て忘れてしまったのだから。
「背が高くてスラッとしてて、誰にでも優しい人なんだ。とても素敵なんだよ」
動揺して言葉も出ない私に気付くことなく、由梨ちゃんは延々とその人について話し続けていた。
分かっていた。由梨ちゃんが女の私を恋愛対象として見ないことくらい。それでも、好きな人に面と向かって「好きな人がいる」と言われることはとても残酷なのだ。自分が彼女に恋をしたことが間違っていたのだ、と誰かに言われているようで。
幸運にも、ハルちゃんは風邪で学校を休んでいた。もしこの場に由梨ちゃんと私以外に誰かがいたら今の私の泣きそうな顔に気付かれていただろう。
「…素敵な人、なんだね」
悔しい。辛い。憎い。逃げ出したい。そんな思いを必死で押し潰した結果、そんな言葉しか出なかった。それでも、由梨ちゃんは笑って頷いた。王子様に恋をするシンデレラのような笑顔だった。由梨ちゃんはどこまでも純粋無垢で、可憐で、そして鈍感な女の子だ。私はそんな彼女に一目惚れをしたのだが、その笑顔にこんなに苦しめられる日が来るなんて考えてもいなかったのだ。自分と結ばれることは無いと諦めていたはずなのに。
いや、諦めたつもりになっていただけかもしれない。私は無意識のうちに可能性を捨てられずにいたのだろう。
「真帆ちゃんはいないの?好きな人」
「…さあね」
「あーっ!ズルいよ、私言ったのに!」
聞きたいと言った覚えは無い。全く、この期に及んでこのお姫様はどこまで私を傷付ければ気が済むのだろうか。ため息をついてから私は言った。
「参考になるかどうか分かんないけどさ、マンホール踏むと良いらしいよ」
「何それ、おまじない?」
「まあそんなもん。マンホールを踏んだら恋愛運が上がるとか何とかって聞いたことある」
「へえ、そうなんだ!じゃあちょっとやってみようかな」
由梨ちゃんはその後、駅までの間マンホールを探しては踏んで歩いていた。1つに束ねられた茶色がかった巻き毛が夏の風に乗って楽しそうに踊っていた。
──流石に罪悪感はあった。そのおまじないは実は逆効果のものだったから。おまじないなんて信じたことはない。でも願わずにはいられなかったのだ。自分の恋が叶うことがなくても、この気持ちを捨てる必要はなくなりますように、と。
私の家は学校から徒歩圏内なので、駅を通りすぎると1人になる。喋る相手がいなくなった途端、さっきのことを誰かに責められているような気分になって、咄嗟に近所のスーパーに入った。お惣菜コーナーに行くと、揚げ物の匂いがしてお腹が鳴ってしまった。何だかやけ食いしたい気分になり、目の前にあったカボチャコロッケを買った。
スーパーの近くの公園のベンチに座り、カボチャコロッケを一口頬張る。…甘い。揚げたてで熱いので夏に食べる代物ではないけれど、失恋の傷を癒す程度には美味しい。
続いてもう一口…と行こうとした瞬間、目の前のカボチャコロッケが消え、代わりに黒い羽根が何枚か近くに落ちてきた。
「…え?」
ベンチの横に気配を感じて見てみると、そこには私のカボチャコロッケを啄む鳥がいた。カラスか、と思ったがよく見るとお腹の部分が白い。
「…カボチャコロッケ返せよ…」
傷心と疲れで頭が回らなかった私は、そこまで執着していなかったはずのコロッケを奪われた感想しか出てこなかった。
「あん?別にええやろ、こちとら3日間ドングリしか食うとらんねん」
「別の木の実食べろよ…」
声に対してそう返事をして、初めて違和感を感じた。…今、鳥が喋った?
「それにしても旨いな、コレ。カササギ界のグルメ王と呼ばれた俺も唸らせるとは、お嬢ちゃんなかなかやね」
「…」
そっと額に手を当てた。熱は無い。とすると疲れか。帰って寝なくては…
「ちょちょちょちょ!!待てや!!鳥が喋っとるのにスルーは無いやろ!!」
「いやいや、失恋が原因で幻聴とか…しかもカラス…我ながら有り得ない」
「幻聴ちゃうわ!!しかも俺カササギやねんけど!!」
ツッコミどころが多すぎて理解が追い付かない。
「…幻聴じゃないとしたら、カササギが何の用?」
「よくぞ聞いてくれたな!」
カササギはえへん、と胸を張って言った。
「お嬢ちゃん、魔法って興味あらへん?」




