聖騎士ナターシャ
アイデアが上手く文章に出来なくて困っています。何かいい方法みたいなの無いですかね?
「離せよ」
「嫌だ、お兄ちゃんが話すまで離さないから」
二の腕あたりを掴み離さないマリア。突然の行動にルークは焦る。そして、咄嗟に振り払おうとするが、しかしマリアの意思は固く幾ら振っても掴んだ手は離そうとはしない。
「何の事だよ。お前に何を隠してるって言うんだ?」
「分かんない、けど今日のお兄ちゃん何か隠してる」
「...何も隠してねぇよ」
「嘘、絶対何か隠してる」
「隠してねぇって」
「嘘」
「隠してねぇって言ってんだろッ!」
「絶対嘘!」
激しさを増す二人の会話。次第に行き交っていた通行人達の目を引いていく。
「大体、何でお前に嘘なんて付かないといけないんだよ!」
「お兄ちゃんがあんな風に様子がおかしくなるのは、何時も私を守ろうとして嘘を付いているって事だって分かってるんだよ? お願い教えて、私を何から守ってるの?」
「ッ! ちょっとこっちに来い」
「話をはぐらかさないでよ!」
「良いから来いッ!」
自分にそんな癖がある事に驚愕を露わにするルーク。すると、そこで初めて自分達の周りに野次馬が出来ている事に気づいた。
急いでマリアの手を握るとそのまま、野次馬を割るように走っていく。
「ちょっと!」
「――ナターシャの家に着いたら全部話す。だから今は大人しくついて来い、良いな?」
「......分かった」
このまま目的地に付いたら否が応でも話さないといけなくなる。今嘘をついた所で何の解決にもならない。だけどせめてナターシャの家に着いてからにしよう。
野次馬が見えなくなるまで走ると丁度、目の前に本の絵が書かれた看板が立てられている一際立派な建物が見えてきた。
「ここが図書館か?」
「多分。でも凄いよね、本って高価な物貸し出すなんて」
此処まで走って来たせいで息が絶え絶えのルークとマリア。特にマリアは余り、運動をしていなかったのか少し顔色が悪くなっていた。
確かに図書館は普通大きな国の首都の貴族が住む区域にある物だ。それをこんな場所に建っているのもおかしな話。ここは間違いなく都市ではあるが大都市と言う程、大きな所ではない。それに建設されている場所は普通の平民達が行き来する道。これでは貴重な書物が盗難に遭う可能性がある筈だ。
「本なんか昔絵本を読んでもらったぐらいだな」
「お父さんに読んでもらったけどあんまり上手くなかったな」
「親父はあんまりそう言うのに向いてないからな」
俺もお母さんが死んでから一度だけ親父に読んでもらった事があるが、あれは聞いていられなかった。何と言うか...そう、ひどい。でも、今思い返したら俺達の為に色々頑張ってくれていたんだな。
昔の事を思い出しているとマリアが図書館に入ろうとしているのが見える。
「おい。入るんじゃないぞ」
「え、何で? 良いじゃんちょっとぐらい」
「ダメだ。今は時間が無いんだから」
「えぇー」
マリアの抗議を無視して進んで行く。
確か図書館を曲がって直ぐって言っていた筈――
「――あるか?」
「うーん。......もうちょっと進んで見たらあるんじゃないかな?」
曲がって直ぐに見えたのは普通の店がずらりと並んでいる通り。けっして聖騎士の様な人が住む家の様な建物などは無かった。だが、一つだけ、気になる目に留まった所があった。
それは、店が連なっている場所の途切れえいる所、小さな庭がある家だ。
その家の門は子供が頑張ったら開けられる程小さく、例えるのなら平均的な大人の胸辺りぐらいの高さだ。そんな頼りない門の端には兵士が立っており辺りを見渡しながら警備している様に見える。
――もしかしたら。
「あの家で場所を聞いてみようぜ」
「分かった」
そんな思い出その家に向って歩き出した。
「ナターシャさんの家? あぁ、それなら此処だよ」
「......え?」
「だから此処だよナターシャ様の住居は」
「お兄ちゃん此処だって」
門を警備している兵士に聞いてみた所目の前にある建物があの聖騎士の家だと言う。
有り得ない。いや、可能性は無いとは思っていなかったが本当に此処が聖騎士の家だったとは。
「みんなそうやって驚くよ。此処に住まわれている聖騎士様は他の方々とは違ってこうやって平民区に住んでらっしゃるお方だ」
「そ、そうなんだ。それはまたどうして?」
「俺も最初はそう思って何時だったか聞いてみた事があったんだ。『こんな煩い平民区じゃなくて首都にある上級国民区に住んだ方が住みやすいし贅沢出来るんじゃないんですか?』ってな」
「上級国民区? 何だそれは」
「簡単に言えば貴族様とか金持ちの商人達の住んでいる場所だ。俺は行った事ねぇけどよ、毎日贅沢出来る夢の様な場所らしいぜ。まったく、うらやましい限りだよ」
ルークの疑問にも一方の若い兵士が嫌みったらしく答える。
「それでだ。俺がそう質問したら笑いながら言ったんだ。『あんな鬱陶しい奴らの相手をするより、この都市にいる賑やかな奴らの声を聞いていたい』ってな。ほんとあの方は変わり者だよ」
「あぁ、確かにな。でも俺達みたいな平民でも普通に接してくれるし、図書館を建ててガキ達に勉強も教えてくれてる。あの人は変わり者だけど本当、慈悲深いお方だよ」
「ありがてぇ話だぜ。俺ン所の子供が誕生日の時、態々贈り物を用意してくれたんだぜ? しかも、『子供の誕生日ぐらい早く帰ってやれ』って。......感動したぜ」
「凄い、優しい聖騎士様なんだねぇ」
「おうとも、この国の王様の為に死ねるか? って聞かれると迷っちまうがナターシャ様の為に死ねるか? って聞かれると間違いなくこう答えるね、『喜んで』ってな!」
「間違いねぇ。この一帯に住んでいる人でそう答えない奴なんていねぇ」
そう言いながら大声で笑う兵士達。直ぐ側を通っていた人達も聞いていたらしく家の前を通る度に口々に褒め称えている。
すると突然、家の扉が開いた。
家の中から出てきたのは小さな少女。栗色の髪を揺らしながら門の前へと近づいて来た。
「此処って聖騎士の家なんだよな?」
「そうだぞ。なんだ坊主、俺達の話を信じてないのか?」
「いや、そう言うことじゃねぇんだけどよ。――何でその聖騎士の家に子供が居るんだ?」
「ちょ! 坊主それは――」
ルークが発したその言葉に兵士の顔が一瞬で青ざめた。口々に喝采を浴びせていた人達も何だかいそいそと歩く速度を速める。
「......ほぉ、誰が子供だって?」
ルークはその時、聖騎士は歳をとらない半不老不死と言う事を知らなかったのだ。
「だからお前だよ。何で子供が聖騎士の家なんかに居るんだ? もしかしてナターシャって人結婚してるのか?」
「やめろ坊主! それ以上は「それ以上は何だ? スコット」ひぃ! い、いえ。何でもございません」
スコットと呼ばれる、髭を生やした兵士が何やら言おうとするが、いつの間にか門の直ぐ側まで来ている少女に口止めをされている。その時のスコットの顔は今にも倒れそうな程、顔色が悪く。また、身体中が小刻みに震えており、鎧同士が接触し合ってカンカンと鉄の打ち付け合う音が聞こえる。
「?」
「おいお前、歳は幾つだ?」
「お前って、態度のでかい子供だな。......十八歳だよ」
「私はな――」
会話の途中で少女は軽く跳躍する。自身より高い門を軽く飛び越えルークの目の前に来ると――
「――お前より年上だバカ者がぁぁぁあッ!」
「ぐばぁ!」
少女の小さな腕から繰り出した拳骨はルークの頭の天辺を捉えた。それを、もろにくらったルークは意味の分からない奇声を上げながらその場に倒れ込む、そして、その仰向けに倒れたルークの身体の上に着地すると、服に付いた僅かな土埃を手で払った。
「――で?」
「え?」
「家の中から聞いていた。話を聞く限り、私を探して此処まで来たのだろう、私は何故私を求めて此処までやってきたのかを聞いている」
「あ、はい! ちょっと待って下さい」
周りの空気で目の前にいる少女が聖騎士と察していたマリアはしっかりと敬語を駆使しながらナターシャの下で気絶しているルークのポケットを弄る。そして、くちゃくちゃになった一枚の手紙を取り出し、ナターシャに渡した。
「――そうか、お前達があいつの......メイソン、門を開けろ。スコット、この礼儀知らずのガキを私の家まで運んでくれ」
「「たしこまりました!」」
威勢良く答えた二人の兵士は直ぐに行動にでる。スコットはメイソンに待っていた槍を渡すと倒れているルークを肩に担ぐように持つ、そして、メイソンは腰のベルトに付いてある鍵で門を開けた。
「マリア、で良いな?」
「はい」
「よしマリア、私に付いて来い。一緒にお茶でも飲みながら話そう」
「は、はい」
ナターシャ、マリア、スコットに担がれているルークが入るとメイソンは開いた門を閉じた。マリアが後ろを振り向くと家の前に野次馬が出来ているのが分かる。
「私は基本的、人を家には招かん」
「え?」
「だから、私や警備兵以外の人が入って行くのが珍しくてああやって人が集まってきたのだろう」
「そう言う事ですか」
話しているとスコットが小走りで扉の前まで行くとメイソンと同様に腰に付いてる鍵で扉を開いた。
「ルークは客間にあるソファに寝かせておいてくれ。それが終われば警備に戻ってくれてかまわん」
「たしこまりました!」
「マリア。スコットに付いて行け。私はお茶を入れてから行く」
「メイドさんとか無いんですか?」
「こんな狭い家にメイドなんぞいらん。それより早く行け」
「はい」
家の中には高価な芸術品を飾っているのかと思ったがそうでもなく、いたって普通の家だ。
「お嬢さん、こっちだ」
「あ、はい!」
急いで付いて行く、と言っても家に入って直ぐ左が客室らしく、スコットはそこに置かれているソファにルークを寝かす。
「――よし、お嬢さんも適当な所に座って寛いどきな」
そう言うとそのまま仕事に戻って行った。
「それでは聖騎士様、仕事に戻らせて頂きますッ!」
「ご苦労」
扉の前でお茶を作っているナターシャに声を掛けるとゆっくりと扉を開け、外へと出て行く。鍵を閉める音が部屋に響く。そして、暫くしてからお盆を持って入って来た。
「おとっと」
お盆をテーブルにのせ、ルーク達の対面にあるソファに座った。ティーカップの中には紅茶の様な飲み物が入っている。
「あの、兄が失礼な事をしてしまいすみませんでした」
「あぁ、いや、良い。もとわと言えば私の事を教えていなかったアルクが悪いのだからな」
「お父さ――父の事を知ってるんですか?」
「知ってるとも。昔、剣術を教えていた」
そう微笑みながらティーカップを二人の前に出す。
「剣術......ですか?」
「その事は追々話すとして、私から聞きたい事がある」
「何でしょ」
「......何があったんだ?」
真っ直ぐな紅い瞳が、マリアを捉えている。




