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復讐の鐘が鳴る時  作者: 柊なつこ
一章 荒れ狂うは雷の刃
22/28

決裂

遅くなりました。

店に戻り背嚢(バックパック)を受け取ると、適当にミハエルの言っていたムギルと干し肉を買っておいた。そして、出来るだけ自分の泊まっている所から遠くの場所にある宿屋に寝かせる。


「...トリエラ様は納得して下さいますでしょうか」


『ぜってぇしねぇ。あいつは昔から頑固だ、自分の思った事は絶対に貫き通す。だから戦うつもりでいておけよ?』


「...勝てますでしょうか?」


『勝つに決まってるだろアホが...て言いたい所なんだが正直な話わかんねぇ。俺様はお前と契約しているが本来の五割も力を出せてねぇ』


その言葉を聞いてフリージアは驚いた。


先に言っておくが顔には出していない。いや、出せないの間違いなのだ。だが少しだけ目が見開いたのだ事実。これは今のフリージア最大の表情(リアクション)である。


これまでの力が半分? いやご主人様は半分も出せていないと言っていた。


なら考えられるのは一つだ――


「...私の身体が未完成だからですか?」


『いいや。今回はそうじゃねぇ』


違うのか? ならますます分からない。


フリージアの抱いていた疑問は直ぐにガルバルディアによって解けた。


『この世界に来る時にお前俺様の事を喰ったろ?』


「...はい。味はありませんでした」


『だから誰が味の感想言えっつたよ...まぁ良い。俺様はあの時身体もなく魂だけの状態になっていた。魔法を使うには魔力の源が必要。だから、お前に俺様を喰わせてお前の魔力の源に接続して、転移の魔法を使った』


「...つまり?」


『だからそのままこっちの世界に飛んじまったから俺様の力は殆ど虚無牢に置いて来ちまったっつう事だよこのタコ!』


ゴンッ!!


背中の槍が何時も様にしなりフリージアの頭を強く叩いた。


「......理解しました」


『何だその間は? 本当に分かってんのか?』


「...はい。完璧に理解しました」


多分。


『もうちっと頭の構造を弄るんだったな』


ちょっと待てよ。...そうなると一つ分からない事が出てきた。


「...ご主人様」


『んだよ。分かったんじゃねぇのか?』


「いいえ。少し、疑問なのですが、何故御身の全てを食べさせなかったのですか?」


一口と全部単純に得られる力は全部の方が上のはず。


『自分以外の魂を入れるとそれだけで身体の負担になる、それが神の魂なら尚更。あれ以上俺様を口にしていたら。唯の人間のお前身体がもたない。だから一口だけにしたんだよ』


「...ご教授頂きありがとうございます」


『本来の権能は使えねぇがその代わり最高の契約者がいる。それが俺たちの最大の有利な点(アドバンテージ)だ』


ご主人様が私の事を褒めてくれたのか? 何だか身体がぽかぽかしてきた。味わったことのない現象だ。


「...ご主人様」


『...あ。言っとっけど今のはお前を褒めた訳じゃネェ、お前の身体(・・)を褒めたんだからな』


何だろう...ついさっきまで感じていたぽかぽかした暖かさが今のご主人様の言葉でスーと消えていった。

この身体の説明書なんかがあれば原因が分かるのだが...。よし、機会があればそんな事をご主人様にさりげなく聞いてみよう。


店じまいを尻目に落ち着いた物腰で淡々と歩く。


「...宿に着く前に何かまだ私に伝えておくべき情報はございますか?」


無意識にほんの少し強い口調になってしまった。


しかし、当の本人は気付いておらず。また、ガルバルディアにすら気付かれない程の小さいものだった。


『今までの雑魚と少しばかり違うからお前の弱点(・・)を言っておく』


「...弱点? 魔力の枯渇の事でしょうか?」


『そんな分かりきった事じゃねぇよ、確かに魔力を使い切ったら死ぬ。それとは別に魔力を溜めておく機関を破壊されても死に至る』


...あらためてご主人様の知性に驚いた。


確かに、溜めている機関そのものが壊されたら魔力自体溜めれないのだから死ぬ。盲点だった。


「...その為に鎧ですか」


『あぁそうだ。本来、魔力がなくならない限り大抵の傷は直ぐに癒えるからお前には鎧は必要ねぇ。その機関はちょうど胸の中心にある、だから戦う時に相手に悟られず機関を守るのに最適だったんだ』


「...では私が武具を選ぶ時に鎧を選ばなかったらどうしていたのですか?」


『それは有り得ない。お前のその身体は目を覚ました時点でお前が着る着ない関係なくお前の身体に着させる様になっている』


「...それはどう言う事ですか?」


『あれは他の武器や防具と違い生きてんだ(・・・・・)例えお前がその鎧を捨てても独りでに歩き出して絶対にお前の元に返ってくる。そんでもってお前の身体にくっつく。造る時にそう設定にした。弱点を補う為にな』


「...そんな事をして欠点(デメリット)は無いのですか?」


『普通の奴が来ていたら魔力の回復量が魔力の要求量に追いつかないで死んじまう。つまり、お前に関して言えば欠点(デメリット)は無い』


今更になって凄い反則(チート)アイテムと言う事が分かった。成る程こっちは権能が弱い事を補って余りある程の武装がある。


この戦いに負ける要素は無い。


陽が落ちきったと同時に人々が酒を求めて通りを闊歩し始めた。その光景はさながら祭りの様だ。


「...道が混む前に急ぎましょう」


『俺様たちも宴の用意をしようじゃねぇか。おい、鎧を着ろ』


「? ...既に装着しておりますが?」


『そうことじゃねぇよ! 全身に着ろっつてんだよこのボケがッ!』


これは来る。


危機を感じたフリージアは背中の魔槍から拳骨をされる前に身体全体に鎧を再展開した。その速度は凄まじく、ガルバルディアの拳骨よりも早く、黒い液体がフリージアの全身を覆う。


当然魔槍の攻撃も防いだ。


「...展開完了いたしました」


『ッチ! ...まぁ良い。後、トルエラが言う事聞かなかったら、いや絶対聞かねぇとは思うが...あのガキ共からお前に関する記憶を奪っとけ。後々追い駆け回れるのはごめんだからな』


「...そんな事が出来るのですか?」


『あぁ!? お前それ本気で言ってんのか? 俺様の権能は『簒奪』やろうと思えば相手の全てを奪うことが出来るんだぜ? そんな俺様にガキ二人の記憶が奪えないって本気で――あぁーもう良い。相手の身体に触れて魔力を流し奪いたい事を思い浮かべろそれで『簒奪』は発動する。もう直ぐ宿前だろ声も変えろ』


「...分かりました。――ご主人様」


『分かってる。あの野朗、言う事聞かねぇのは分かっていたがこんな手に出るなんてな』


間違いない。間違え様がない程、強い気配がルークとマリアの宿から感じる。


聖騎士の気配だ。


端から戦うつもりなのか。あの子達はそれに賛同したのか。


そんな事を考えていると不意にガルバルディアの言葉を思い出した。


「...余計な事考えるな......」


『そう、余計な事は考えるな。あいつらは俺様の命令に歯向かおうとしている事は明確。なら、お前のやる事は分かってるよな?』


分かっている。私はご主人様の従者、私はご主人様の物。


身体中に魔力を流す。


アレがあの子達の選んだ道なのだ。なら私が何を考えたってどうしようも無い。


鎧の隙間から瘴気が溢れ出す。


私も私の選んだ道を行く。


狙いは宿屋の二階。足に力を入れ、跳躍しようとした時ふとある事を思い出した。


「...アルク......申し訳ありません。首飾り(ペンダント)、渡し忘れました」


『お前はほんっとにバカだな』


瞬間。轟音が辺り一帯に響き渡った。フリージアを不思議そうに見ていた野次馬は吹き飛び、側にある建物のガラスは割れる。人には何が起こったか分からなかっただろう。


事実、一連の光景を見ていた人は驚き口を開いていた。




――自分たちの危機だとも知らずに。




自分でも驚くほどの速さで跳躍(ジャンプ)した。あっと言う間に宿やの建物が目の前にある。それを突き破り、部屋の中に進入する。


「ッな!?」


室内に居たのはルークとマリアの他に聖騎士が一人、小さな少女の格好をしている。その全員が突然の来訪者に驚き、硬直している。


先制攻撃に成功したのはフリージアだった。


背中に背負っていた魔槍を取り出すと思い切り横凪に聖騎士をなぎ払う。


「貴様!」


咄嗟に腰に挿していた短い剣を抜き、身体を守る。しかし、衝撃は殺しきれず壁を貫き、外へと放り出された。


「...貴方が聖騎士を呼んでいると言う事はトルエラ様から聞いていたのでしょう。聞いた上でご主人様の命令に背いた」


その声は綺麗な少女の声ではなく凛々しい青年の声だった。


ルークは狼狽していたが直ぐに目の前にいる人物はフリージアと言う事を直感的に気付く。


「マリアは下がってろ!」


フリージアの質問に答えず手には魔剣が握られていた。


答えは(イエス)か...。


『これは驚いた!。こいつらまだ契約してねぇぞ!』


『ルーク。マリアを守りたいのなら私と契約をしろ!』


「で、でも...ッ!」


『相手は待ってはくれないぞ! 早く!』


『記憶を奪わなくて良いッ!! このガキ共をぶっ殺してトルエラを奪え!』


焦っている。


ここで私が魔槍を一振りしたらルークもマリアも死んでしまう。


「...考えるな」


『そうだお前は考えなくて良い! お前は俺様の言う事だけ聞いていれば良いんだ殺せ!!』


フリージアは驚いている。


ガルバルディアの言葉でも、ルークが契約していない事でもない。


「...ッ!」


身体は動かないのだ。


一瞬、ほんの一瞬だけまるで身体が石になった様に動かなくなった。


『どうした動け! 早くこいつらを殺せ!』


「...分かっています」


その一瞬が命取りになる。


「ッ!」


崩れた壁から聖騎士が現れ、フリージアの背後から攻撃を仕掛ける。しかし、刃が鎧に当たる前にそれは防がれる。


鎧が蠢きだし、黒い腕が鷲掴みにした。


「何?!」


聖騎士の行動が制限されている間に身体を反転させ、魔槍を突き刺した。


「...聖騎士。貴方が現れた事で予定が狂いました」


刃先が当たる瞬間、何かに刃を弾かれる。まるで見えない壁(・・・・・)に防がれた様だ。


「何だ、謝罪して欲しいのか? 生憎化け物に謝る心など持ち合わせていない」


『しくじったなフリージア...ッ! また俺様がお前の身体を使ってこの国を潰す前に早く目の前にいる全員ぶっ殺してトルエラを奪え!!』


「...只今、ご主人様のお手を煩わせる訳にはいきませんので」


回せ、回せ。


魔力を身体に流す。


殺せ、殺せ、殺せ。


アルクの約束も、ルークもマリアも今は何も関係ない。


「...これもご主人様の命令」


「――ッな!」


「逃げろマリア!」


「お兄ちゃん!」









この日、メゾキアは前代未聞の大災害が訪れた。

















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