オ買イ物
すみません。遅れました。これから暫く投稿頻度を遅くなりますのでよろしくお願いします。
人だかりがこっちに来るのであれば無理やりにでもミハエルを引き連れてこの場所から移動しなければならないと思っていたが、四本、いいや、口に咥えていた物も合わせて五本か。その五本の焼き鳥を物凄い早さで平らげた為、無理やり連れて行く事をしなくてすんだ。
別に急いで食べて欲しいと頼んだわけじゃないのだが。......もしかしてあれが普通の食べる速度なのか? しかも、五本目を食べ終わった時、全然苦しそうな感じじゃなかった。それどころか、食べたそうな顔で空の串を見ている。
「...人だかりに巻き込まれると身動きがとりづらくなりますからそろそろ行きましょう」
「うん。そうだね」
立ち上がり地面に突き刺した魔槍を引き抜くと突き刺した部分の土を払う為、何回か槍を回す。それを見たミハエルは目をキラキラと輝かせながら大きく拍手してた。
「...行きましょうか」
「僕もいつか、君みたいに出来るようになるかな?」
「...保障は出来ませんが、可能性はあると思います」
知らんけど。
『良いのか? そんな適当な事いってよ』
「...嘘は言っておりませんので」
保障云々は兎に角、買出しと言っても何処に何が置いてあるかなんて全く分からない。
背嚢は...雑貨屋さん? と言うか雑貨屋さんなんてこの世界にあるのか? いや、雑貨屋はあるだろうが、背嚢は雑貨に分類されるのだろうか? もしかして冒険者が使う物を取り扱う店なんてものがあるかもしれない。
......冒険屋? ...もう考えるのはやめよう。分からない事をぐちぐち考えても意味ないしな。
「そうかぁ。僕もあんな事出来るようになるのかぁ」
フリージアの言った事を未だ引きずりながら人だかりの方向に歩き出したミハエルを引き止める。
「...其方ではありません。......物資を買うのに何処か良い店はご存知ですか?」
「...は! 場所? 場所なら分かる! 分かるよ。この町に来た時に一度行った事があるんだ」
「...それは上々。案内をお願いします」
「分かった。こっちだよ」
腑抜けた顔を正し歩き出した。
太陽は頭の真上にさんさんと光輝いている。
猶予まであと半日だ。
「ここだよ」
視線の先には看板も何も無い建物。知らない人が通りかかってもどんな店かは分からないだろう。いや、この建物を店だと言う事自体気付くことは無い。扉が開けっ放しの入り口を潜り店内に入る。
『おぉう...。これまた埃っぽいなぁ』
「余り清掃が行き届いているとは言えませんね」
「うん。正直、僕も最初受付嬢のお姉さんに教えてもらって来た時は思ったよ。でもここ結構品揃え良くってね」
品物が置かれている棚は歪んでおり、今にも崩れ落ちそうだ。床も何だかしゃりしゃりとした感触がある、きっとこの店に来た人の靴に付いた砂が落ちたんだろう。本来ならこんな場所で物なんか買いたくないのだが、あの冒険者集会場のお墨付きらしい。また店を探すのも手間だ。ここで買おう。
「...それで何を買うのですか?」
「えーと。背嚢に火打ち石、あと最低限の医療品と自衛用の武器...食料は場所の所で買うからそんな所かな」
話していると店の置くから地響きを鳴らしながら何かが此方に近づいて来た。その歩く地響きで棚に置いてあった品物がいくつかが地面に落ちる。
「あぁクソ。また落ちやがった」
腰程の高さがある品物棚の裏から頭がポツンと出ているのが分かった。
直ぐにその正体が判明する
「こんにちわ。今日はちゃんと買い物に来ましたよ」
ミハエルはその人物を知っているようで、話しかける。
「ッチ! お前か」
小さな身体に立派な髭を生やした顔。
鍛冶妖精だ。
「ザックさん。背嚢、火打ち石、医療品と後僕にも扱えるような剣ある?」
「お前本当に金あるんだろうな?」
「今回は大丈夫ですよ!」
怪訝そうな表情を浮かべながら値踏みする様な視線で此方を見てきた。
「あぁ...そう言う事かい。ちょっと待ってな」
何かを納得したザックと呼ばれる鍛冶妖精はフリージアから視線を外すとまた奥へ戻っていった。
「...彼に何かしたんですか?」
「え、えーと。ちょっと何ですよ? ほんのちょっと値切りしまして...」
「ちょっとじゃねぇ」
聞こえていたらしく奥から野太い声が響いてきた。
『相当攻めたんだろうな。じゃなきゃ顔を見ただけで不機嫌になったりしねぇ』
「...そのようですね」
少し、時間が経った頃両手に大きな背嚢を持って戻ってきた。
「おら。前お前が買おうとした物だ」
そう言いながら小さな棚の上に放り投げた。重い物が入っていたのか背嚢が落ちた瞬間、鈍い音がした。
「置いておいてくれたんだ」
「片付けるのが面倒だっただけだ。それより! ほら、金貨二枚だ」
結構するんだな。
「...これでよろしいでしょうか?」
金貨を二枚出すと、分捕る様に取っていった。
あいつどんだけ値切ったんだよ。
金貨を確かめると直ぐにまた、奥に引っ込んで言った。
邪龍討滅物語その一 ガルシア・オーレシア
遥か昔、まだ神々が人々を見守っていた頃の話。
その時代にもっとも栄えた国、エーオルが滅亡の危機に瀕していた。
西の山から邪龍が襲ってきたのだ。
その龍の名はノベム。
建物は燃やされ、人は食い殺された。その邪龍は強靭な鱗で覆われており剣や矢を通さず、何より恐ろしいのは色々な形に変化する。
襲われた国はその時代では強国に値する国だった。少なくとも龍が襲ってきても返り討ちに出来るほどには...。
ある時は子犬が邪龍に変わり村を襲った。
またある時は馬が邪龍に変わり町を襲った。
人に動物に物に...
国の力では邪龍を倒す所か追い返す事もできずどんどん国は疲弊していった。
そして、王は最後の手段に出た。
――そう、英雄召喚の儀式だ。
ミハエルの道具と一緒に同じ様なベルトポーチを買っておいた。後でまた仕分けよう。
「次は食料」
「...どんな食べ物を買うのですか?」
この世界に固形食みたいな物があるとは限らない。
「ムギル買おうと思っています」
「...ムギル?」
聞いた事の無い食べ物だ。
「簡単に言ったら凄く固いパン。後あったら干し肉も買おうと思ってる」
パンは保存食なのか? しかも硬い...食べたこと無いな。
「...おいしいのですか?」
「うーん...まずくはないよ。村で暮らしていた時もずっと食べてたし。そう言えばフリージアさんはこれまで何を食べていたんですか?」
人間の内臓です。
喉まで出ていたその言葉をグッと胸の底に押し込めた。
「...パン、です。後お肉」
「僕と同じなんだね。でもフリージアさんって貴族の子供なんじゃなかったっけ?」
「...色々事情があったんです。――ほら、着きましたよ」
店前には干し肉が吊られており、樽の中には一杯に黒色のパンが詰められている。冒険者に配慮しての配置だ。これなら言葉や文字が分からなくても一目見ただけで分かる。
「おばちゃん。これ一杯買うから安くしてよ」
私の隣に居たと思ったのだが、知らない間に店の人と交渉していた。
店の人もミハエルの整った顔に満更でもない様子である。
『顔が良いってのはそれだけで武器になる』
「...そうですね」
顔が綺麗と言う理由で女子生徒の制服を着せられた事あったっけ...。
嫌な思い出だ。
あの頃、太陽が落ちていくのが嫌だった。放課後になればあいつらに暴力を振るわれる。殴られ、蹴られ、それより酷い事もさせられら事もあった。
「ちょっとあんた!」
店の人が血相を変えてフリージアに向って何かを伝えてくる。相当焦ってたのか言葉を発することが出来ず、通りの方に向って指を指している。
そこには担がれたミハエルの姿があった。
『また面倒な事になっちまったな』
「...構いません。――亭主」
「追いかけなくて良いのかい?!」
「...戻るまでこれを預かっていてくれますか?」
「良いから早く追いかけな!」
ミハエルの落とした荷物を拾うと店の人に預け、攫われた方向へと身体を向けた。
大丈夫。ミハエルの気配は分かっている。
地面を大きく蹴ると通る人を避けながら進んでいく。そして、少し走った所で裏路地へ入って行った。
『何かをするには裏路地に限るな』
ガルバルディアの言葉を流しながら建物の壁を蹴りながら屋根へと上り、屋根伝えに走っていく。
「...近いです。二百メートル先で気配が止まりました」
不潔な二人組みが少女を担いで走っている。
「はぁ、はぁ。良かったんですか? ガキなんか攫ってきて」
「良いに決まってるだろ! こんな良い女なんだ。軽く金貨五十はいくぜ」
「へへ! 噂は本当だったんですね! この町にすげぇ綺麗な女が来てるって」
「あぁ、そうだな! ガキとは思わなかったが...。兎に角これで当分遊んで暮らせるぜ!」
スラムに入ってしまえば兵士も手を出せない。それを知っている二人組みは目立たない様に入り組んだ路地を走っていた。そして、この路地も普段兵士も警備しない。つまりこの二人組みはこの少女を攫う事に成功していたも同じと言う事。
逃げ切った。
この二人はそう確信していた。手に入れた金は何に使おう。そうだ、浴びる様に酒を飲もう。いいや、女を抱くのも良い。金貨五十枚だ。色々なことが出来る。
最高だ。
あの少女が来るまでは。
「...彼をお返し下さい」
ミハエルの顔をから血を流しながら気絶している。
「おっと!」
「何で追いつけたんだこいつ!」
「落ち着け! 相手はガキ一人だろうが!! ...よう嬢ちゃん。こんな所に何の用だ?」
「...彼をお返し下さい」
一人の男はこう考えた。
良い女がもう一人増えた。これで金貨百枚だ。もう一人の男も同じ事を考え付いたのか、顔を見合いながら下卑た笑顔を浮かべていた。
「それは出来ないね嬢ちゃん。その代わりに俺達が良い所連れて行ってやるよ」
「...良い所?」
ミハエルの担いでいない方の男が近づいてくる。もう直ぐ、あと少しで手が届く所で手は虚空を切った。
より具体的に言うと手首から先が上に跳んでいった。
「い、いでぁあぇぇぇぇッ!!」
「ッ!! テメェ!」
蹲る男の背中に槍を突き刺し黙らせる。
それを見たもう一人の男は焦りながらミハエルを落とし、腰に挿してあるナイフを取り出した。
そして、仰向けに倒れたミハエルにナイフを向けた。
「動くんじゃねぇ!」
「...」
『何時もみたいに殺してはいおしまいって訳にはいかねぇぞ?』
「...分かっております」
鎧を展開し、その背中から相手に見えない様に鎧を地面に伸ばしゆっくりと近づいていく。
ゆっくり。落ち着いた足どりで。
気付かれないように。
「お前も槍捨ててこっちに来い!」
「...要請を却下します」
「ふざっけんじゃねぇ!! こんなクソアマに殺られてたまるかよ...折角の機会なんだ大金持ちになる......。こんな所で死ねるか...死んでたまるかよ!」
ミハエルの肌に刃が当たり、頬に血が滴る。
血走った目をした男の後ろの地面から黒い二本の触手の様な物が伸びてくる。
「テメェら売って俺は大金持ちになるんだ」
『醜い人間め』
「ッが!」
男の背中に突き刺さった黒い何かは生物の様にしならせながら何度も地面に叩きつける。
もう一本の触手は倒れていたミカエルをそっと抱き上げるとフリージアの側へと運んで行く。
何度も。何度も。動かなくなるまで叩きつけられる。
「あぁぁぁぁぁ嫌だ! やめろ! 何だこれ! やめろっつってんだ! 死にたくダッ!! ――」
次第に手からナイフが離れ、悲鳴も上げなくなる。
触手から投げられた何かは壁に当たると赤い飛沫を上げながら壁にへばり付いた。
『これまた派手にやったなぁ』
目の前に触手にグルグルに巻かれたミハエルがフリージアの前に差し出される。しかし、本人を受け取ろうとするが片手が塞がっている事に気付く。
もう一本触手が伸びている。
――フリージアの背中から。
その背中から伸びた触手は槍を受け取るとそのまま鎧に消え、槍は鎧に引っ付いた。
『良いねぇ此処。お前の手に収まっているのも良いがやっぱりこうすっぽり収まるのが一番いいな』
「...何か違いがあるのですか?」
『あぁー簡単に言ったら。お前の手の乗り心地は馬でこの背中は馬車って所か。安定感が違う』
「...左様ですか。......時にご主人様」
『何だ?』
「...もう直ぐ陽が沈みます」
『こいつを適当な宿に置いていこう。此処からはプロの戦いだ』




