ストレルカ
少しずつ。一話から手直し、加筆していきたいと思います。
ミハエルに色々聞いていたら昼になってしまった。ずいぶん、この世界の知識を知る事が出来た。これで、周りの人間に大分溶け込む事が出来る...と思う。
「はぁ...お腹すいた......」
「...食事にしましょうか?」
「え! 声に出てましたか?」
『出てたな』
「...出てました」
この身体のお陰で人間の生活にすっかり無頓着になってしまった。これから普通の人間も一緒に行動するのだ、ちゃんと人間基準に動かないと...。また適当に店に入るか? ダメだやめておこう、ルーク達の様に面倒事に巻き込まれたら厄介だ今回は屋台で済ませる事にしよう。
「...何処か屋台で買いましょう」
「は、はは。...すみません」
「...構いません。私もいい勉強になります」
あのボロ宿を出たフリージアとミハエルは今、国を渡るに備えて物資の買出しをしていた。当初、ミハエルはお金がないと言う理由で断っていたが、フリージアが全額負担すると言うと渋々頭を縦に振った。と言うのも物資を買うのはミハエルの為である。最初はお金と魔力の源を仕分ける為のベルトポートを買おうとは思っていたが他に買う予定など無かった。食事も休息も必要としないフリージアには人間に必要な物資の数々は移動を阻害する邪魔にしかならない。だが、ミハエルにはその物資の数々が必要なのだ。
「え? 勉強? なんのことですか?」
「...いいえ。此方の話ですので気にしないで下さい。それより、私には敬語で無くても結構です」
「ほんと? ...実はあんまり敬語は得意じゃないんだ。助かるよ」
出会った時より少しだけ明るくなった様な気がする。私の言うのも何だが暗い人より明るい人の方が話しやすい。私も出来るだけ相手が不快にならないように努力はしているが客観的に見て、私の話し方はどう感じているのだろうか。
「...ご主人様から聞いて私の話し方はどう感じましたか?」
『どうって...あー、そうだな......何と言うか...頭に入ってこねぇ? 感じ? 何て表現したらいいか分かんねぇ。あのガキに聞いてみろよ』
頭に入ってこないか...。話し方を変えろと言われてもどうしようもないが。せめて口調でも変えてみようか?
「...ミ、ミハエル。私の口調はどうかな?」
文章をそのまま読んでいるかの如く淡々としている。ミハエルどころかガルバルディアすら驚く始末。口元をぴくぴくしながら不器用に表情を作ろうしているが、全く感情の入っていない言葉では違和感しかない。
「え! どうしたのいきなり! その言葉遣い...あの、えーと、えーと......うん。心を込めればもっと良くなると思うよ」
「...心。......参考になりました」
『HAHAHA! っんだその喋り方! やめとけやめとけ! お前には似合わないって』
「...そうですか。似合いませんか...」
やっぱり付け焼刃じゃダメだな。話し方を練習しないといけないかな。そうこうしている内にミハエルは望みの屋台を見付けたのか涎をだらだらと垂らしながら凝視している。
「...此処でよろしいのですか?」
「ッ! い、いやぁ...ここも良いかなぁって......でもフリージアさんの好きな食べ物に合わせるから! べ、別にここじゃなくて...も」
あ、また涎出してる。
「...では、ここにしましょう――ご主人」
「...俺の事かい? おっと!」
フリージアに話しかけられ驚く屋台の亭主。貴族の縁者だと思われたのか、見ているだけで分かる程緊張している。焼き鳥の様な物を焼いている手は小刻みに震え、若干焼きすぎている感じもする。
「すみません。モーリの焼き鳥二本ください! フリージアさん。ここは僕が話しますから!」
「あ、あいよ二本ね! 二本で銅貨一枚だよ!」
「ミハエル様、これを」
首を横に振ると先程報酬で貰った金貨を一枚取り出し、亭主に渡した。
「はいこれおつりね! また来てくれ!」
「ありがとう。行きましょうフリージアさん」
おつりと焼き鳥を受け取るとフリージアの手を引き、歩き出した。引かれるままに足を動かしながら、一連の流れを疑問に思う。屋台の男は何故、あんなにも上擦っていたのだろう。受け答えは完璧だったはず、何処か間違っていたのだろうか...。やっぱり、人間って難しいな。力と引き換えに何か大事なものを失ってしまったのか? 私は人間だった頃、あんな風に受け答えが出来ていたのだろうか......。
「...」
一瞬だけ頭に痛みが走った。痛み...と言って良いのかどうかは分からないが頭に光が通った様な感覚が確かに頭に感じたんだ。痛みは感じた事はない。いや、感じられない。しかし、この身体になる前は毎日感じていた。......その時は嫌で、嫌で、苦しくて、苦しくて、とっても辛かった。なのに何故か今回は...嬉しい? 少しだけ心に火が灯った様な...そんな感じがしたのだ。これは私にもまだ、人間の部分が残っていたと言う事か? もし、そうだとしたら――
「どうかしましたか? ――ッあ! すみません。勝手に手なんか繋いでしまって...」
申し訳なさそうに手を離す。しかし、フリージアはその言葉は届かず。ずっと何かを考えながら歩いている。
「...いいえ。構いません......」
「えーと...あっ! あそこで食べましょうか」
指差す場所を見ると、そこは広場になっていた。噴水を中心に広い円形に造られた広場は噴水を囲むように置かれた腰掛には色々な人が座っている。仲睦まじく話をしている者。酒を片手に笑いながら酒盛りをする者。安心しきった顔で寝ている者。噴水の周りは芝生が生えている事もあり。その上に寝転がる者もいる。
『良い日和には飯食って寝るのが一番だな』
「...ご主人様は寝る事が出来るのですか?」
『寝る事自体は必要じゃねえが...まぁ、お前の魔力が切れたりしたら温存の為に寝たりするかもな』
「おーい! こっちの腰掛空いてるよ!」
いつの間にか遠くの腰掛に座り、此方に向って大きく手を振っているミハエル。
「...平和......ですね」
『たまぁぁには。こう言うのも良いかもな...」
「...平和なのは良い事です」
足に芝生の感触を確かめながらゆっくりと歩き出した。そよ風がフリージアの髪を靡かせる。それを見ているミハエルは頬けた顔で此方を見ていた。その事を疑問に思いながら腰掛の側に魔槍を突き刺すと隣にそっと腰を落とす。
『おいガキ。こいつは俺様のだぞ。手ぇ出したらボコボコにしてやるからな!』
「...落ち着いてください。貴方様のお言葉は聞こえてません」
「はい。これフリージアさんの分」
「...ありがとうございます」
焼き鳥を受け取るとそれをじっと見つめる。タレの様な物がかけられている。私の知っている焼き鳥より二倍くらい大きい。味は――
「――...やっぱり味がしない......」
「おいひいへ...んく。あぁ、お肉ってあんまり食べた事なかったからすっごく! 美味しい!」
「...おいしい。......美味しいですか」
『味覚が無いのは難儀だな』
ゴムの様な物を噛んでいるみたいだ。タレも泥を口に含んでいる感触がする。美味しい美味しくないかで言えば...まったく美味しくない。当然の事だが、味を感じる事が出来なければ美味しいとは思わない。...そう言えば。
「...良かったのですか? お金を使われて...」
「良いんです...。僕は、このお金を自分を鍛える事に使おうと決めてました。でも、フリージアさんが僕を鍛えてくれると言ってくれました...だから、これは僕からのお返しです。...て言ってもこんな事しか出来ませんけどね」
「...お礼ですか」
「そうお『グゥゥ』...すみません。もう一本買って来て良いですか?」
「...どうぞ」
隣で座っている此方にも聞こえている程の大きな音をがミハエルの腹から聞こえてくる。それに顔を赤らめさせながら同じ屋台に向って走り出した。
『良く食うなあいつ』
「...今まで我慢してきたのでしょう」
『頑張ったご褒美ってか...ん?」
遠くから何か人の歓声が聞こえてくる。前もあった気がする。何時だったか...。そうだ、マリアとルーク二人で昼食をとろうとした時だ。......何で人があんなに歓喜していたんだっけ? ...そうだあの時聖騎士が!
「...場所を移動します」
「あれぇ? まえにあったちょーかわいい人だぁ!」
『最悪のタイミングだな』
「...すみません。気を抜いていました」
気が付いた時にはもう遅く、目の前に一人の少女が立っていた。短髪を揺らしながら此方を指差している。意識を集中すると。もう二人の気配はまだ遠く、近くに居るのはこの少女一人だけだ。
「おい! むしすんな!」
「...申し訳ありません。考え事をしていました」
「そうなのか? ならゆるす!」
腰掛に後ろから飛び込むとぼすんとフリージアの隣に座った。
「...他の二人は何処に居るのですか?」
「あねさま達はあの声のするほうにいるぞ」
「...そうですか」
「なーなーそれたべないのか?」
それ? 焼き鳥の事か?
「...冷めていますが、それでも良ければ」
「おぉーくれるのか! おまえいい奴だな!」
フリージアから焼き鳥を受け取ると勢い良くそれをかぶりついた。口の周りをタレまみれにしながら食べるさまは見た目も相まって子供の様だ。そんな子供が聖騎士なんて。
「...貴方様は聖騎士なのですか?」
「んぐんぐ...ごくん。そうだぞ! フィリアから頼まれたのだ!」
「...頼まれた?」
「そうだ。力をあげる代わりにこの世界を守って欲しいって言われたのだ!」
「...フィリア」
『世話焼きババァのあいつか...』
「...神の声は聞こえているのですか?」
「ちょくせついのりを捧げたいとか言われても困るぞ? わたしからはなしかけてもなにも反応してくれないのだ」
「...私とは違うようですね」
「ん? 何かいったか?」
「...いいえ。何も...。なんで貴方様は一人なのですか?」
「わたしはああいうさわがしいのはこのまないのだ!」
ぺろぺろと串を舐める少女。見た所、此方の正体に気付いていないようだ。丁度良い機会だ。少し聖騎士について情報を集めさせてもらおう。
「...最近、何か変わった事はありませんか?」
「かわったこと?」
「...例えば、何か世界に悪い事が起こっている。もしくは...この世界に何か...そう、神の使いがやってくる...とか」
踏み込みすぎたか?
「うーん。...さいきん聖騎士会の招集にやって来る人のひんどが高くなったような......そうだ! ...ほんとうは人にいっちゃいけないって言われているだけど。......焼き鳥くれたから特別におしえてやるのだ! 詳しいことは知らんが使者が言うには近い内、神々が使途を降臨なされるらしいのだ」
神々の使途。間違いないあいつらだ。具体的な日にちは分からないのか。しょうがない、今回はこの情報だけで収穫としよう。気取られるとまずい事になりかねないからな。
「...貴重な情報。ありがとうございます」
「いいのだ。焼き鳥貰ったお礼なのだ!」
『お前の欲しかった情報だと? 良かったじゃねぇか』
遠くの歓声が徐々に近くなって来る。それと同時にもう二人の聖騎士の声も聞こえてきた。
「ストレルカーー! 何処にいったーーー!」
「そんなに避けんでもストレルカちゃん出てこないわよぉ?」
「分からんだろ。あいつは馬鹿で阿呆だが耳と目は良い。だから、もしかしたらっと思ったんだがな...」
そろそろ潮時か...。人を集まればこの身体は凄く目立つ。ミハエルには悪いけど場所を移そう。
「あねさまがよんでいるのだ! じゃあ、焼き鳥ありがとな!」
物凄い速さで声のする方へと走っていくストレルカと呼ばれる聖騎士。移動しようと思ったけど。その必要はなさそうだ。その変わりに遠くからミハエルの声が聞こえてくる。
「フリージアさーん! 買って来ました!」
口に一本咥え、両手に二本ずつ焼き鳥を持ちながら走ってくる。一本だけじゃなかったのか...。腰掛の直ぐ前で急停止をすると身体を反転させ。さっきのストレルカの様に飛び込み、座った。
『あいつ本当に良く食うな。これから食費の事を考えると頭が痛いぜ』
「...活動に支障が出ない範囲までは好きにさせて上げましょう」
『お優しいねぇ』
「んぐんぐ...うん! やっぱり美味しい!」
「...それを食べ終わったら。旅に必要な物資を調達します」
夜までもう直ぐだ。気を引き締めて行こう。
もう直ぐ戦闘回に入ると思います。




