175.食べながら確認をする
「窓のところで、モリジュお婆ちゃんの姿と、町で探してる商人の子の姿、それから、もっとたくさんの人たち、が、塔にいるのを、クリスティンが見た」
と、アトが皆の話のまとめを続ける。
「はい。見ました。本当です」
と、クリスティンが言った。
「で、あ・・・次、スープ飲みたいんだけど・・・・」
「オッケー」
しかし、アトが口にたくさんスープを含んだため、話せなくなった。
その様子に、アルゲドが話を引き取った。
「じゃ、続き俺が言うぞ。クリスティンは、石見の塔から落ちた。その時クリスティンが言うには、アトの手が、クリスティンの腕を掴んだ。だから、落ちたけど無事に済んだ」
「はい。小さな手が、僕の腕を掴んでくれました」
クリスティンは頷いて、もう薄らと消えかかっている、けれど確かについている小さな手のひらが掴んだという跡をもう一度見せた。
「・・・うん・・・」
アトはそれを見て頷いた。
「で、クリスティンは、アトの手がクリスティンを助けたから、石見の塔の扉を、アトなら開ける事ができるんじゃないかと。で、キロンと俺とは、クリスティンがモリジュお婆ちゃんの姿を見たって言うから、今やってるモリジュお婆ちゃんの葬儀は違うんだって言おうと思って、町に行こうと思った」
「うん」
「メイン食べるよね、アト」
「あ、うん」
「これぐらい?」
「うん、それぐらい」
「でー、俺たちは町に行こうと思ったけど、途中、池のフチの墓を花で飾りつけてるデルボに状況を伝えたらさ、デルボが町にいるイングス様に伝えにいってくれた。今多分、町で伝えているはず」
「だね」
「まとめ、以上」
「うん。ありがとう、アルゲド」
「それで、だ」
「アト様、石見の塔に行って、扉を開けてください!」
クリスティンが駆けこむようにアトに向かって言った。
「そうなんだ。アト、どうなんだ、開けられるのか?」
とはキロン。クリスティンの様子を見つつ、アトに尋ねてくる。
「えっと・・・まさかそんな事頼まれるなんて思いもしなかった」
と、正直にアトは答えた。
「クリスティン、ほら、やっぱりアトは困ってるぞ」
とアルゲドが少ししかめっ面で言い、
「でも、できる、アト様なら、だって、僕を助けてくれた、」
「ちょっと落ちついて、クリスティン」
クリスティンをキロンが宥める。
「でも・・・今なら、できるかもしれない、と、思う」
アトは、考え考え、言った。
「え、本当かよ、アト」
「アト様、すぐ石見の塔に・・・!」
クリスティンが立ち上がりかける。
「アト、パンは食べないのか?」
キロンは、アトの腹具合を気にしてパンを進めてきた。
パンは欲しかったので、アトは口にパンを放り込んでもらった。しばらくもぐもぐと口を動かす。
皆がしばらくアトを眺め、ふと、自分たちもテーブルの上の残る料理を口にかきいれるように食べた。
***
「よし、じゃあ、パンも入ったってことで、オッケー、いくぞ、アト!」
全てを平らげて、アルゲドが立ち上がる。
「ふぇも、ふぇきふぁはっふァら、ほふぇふ」
でも、できなかったら、ごめん、と、アトは言いたかった。
「アト様?」
クリスティンがキョトンとした。どうやらアトの言葉は伝わらなかったらしい。
「ごめん、パン詰め込み過ぎたな」
キロンにも伝わらなかったらしい。
「待ちなさい、ちょっと、皆」
台所で話を聞いていたサルトが少し止めに入ってきた。
「アト様、石見の塔を開けるなんて、本当にできるんですか?」
もぐもぐごくん。
「できるか、分かりません。でも、できるかもしれません」
サルトは困惑した表情を見せる。
「石見の塔、ですよ・・・? 運命の日にしか、扉は開かない」
「うん、でも。クリスティンが、僕の腕が、あそこにあるって言ったのと」
アトは答えた。
「僕…実は、遅い時間まで寝てたんです。で、何かを慌てて掴む夢を見て、飛び起きた。あぶなかった、って、思ったんです。自分には腕の先が無いのに、何かをしっかり掴んだ感覚があって・・・。ただの夢なのかもしれない。でも、ひょっとして、クリスティンが言う事は、本当かもしれない。僕の腕の先があそこにあって、僕は、クリスティンを、掴んだのかもしれない」
アトは言いながら、銀色の斧を見た。
父上に、自分が、腕を失った時の事を聞こうと思ったのだ。でも、今はそれより、さきに、石見の塔に行ってこよう。皆と一緒に。
「開かないかもしれない、でも、ひょっとして、開くかもしれない。だったら、行ってみた方が良いと思います」
「アト様」
クリスティンが、言った。
「今までできなかったからって、ずっとできないなんて事はないって、ある人が教えてくれました。今まで、昔の人ができなくても、今なら、できるかもしれないって。だから、無理だなんて思わなくて、試せば良いって。だから」
皆が、一生懸命言葉を話そうとするクリスティンを見詰めた。
「試す事に、価値があるって、その人が教えてくれました。だから」
「うん。クリスティン」
キロンが言った。
「試す事には、価値がある。それで、石見の塔にも登れたし、モリジュお婆ちゃんや、探す子の姿だって、見てこれた」
「よし、行こう、アト。あ、あの斧は置いていって良いよな?」
「・・・あ」
アトは、ちょっと考えた。
「ごめん、悪いんだけど、あれ、重たいから余計に・・・。でも、あの斧も、持っていって良いかな?」
「えぇえええ!? なんで! あれ、本気で重いぞ!」
アルゲドの言葉に、キロンもちょっと嫌そうに「同感」と呟いて頷いている。キロンもちょっと聖斧を持ったので重さは知っている。
「でも、とてもキレイな模様で僕は好きです! 僕が持ちます!」
「え、ちょっ、待った、クリスティンには重くて無理だって。持つのは俺たちの方が良い、けど・・・なぁ・・・アルゲド・・・」
「えっ、アト!? 持っていくのか? なぜ!? なんのために!」
ごめん、僕に腕が無くて。とアトは心で詫びつつ、説明を口にした。
「あれ、イシュデン領主に伝わってる、すごい斧らしくて」
「それ、さっき聞いた」
「なんか、持ってると、色々、昔の事とか、忘れちゃったこととか、思いだすというか、分かるんだ」
「なんだそれ」
「うん、だから、持って行ったら、何か役に立つ事を思いだしたり分かったりするかも、しれないなぁ、とか思って・・・ごめん、重いけど、持っていきたいんだ」
「・・・う・・・」
「・・・」
「僕も、持つの、手伝うよ?」
言葉の出ないアルゲドとキロンに対して、クリスティンは不思議そうに首を傾げてそう言った。
様子を気にしてくれていた、本職は庭師のサルトが、心配そうに口を開いた。
「手押し車を貸しましょうか?」
「ぜひ」
アルゲドとキロンが、ものすごくコクコクと返事をした。
ごめんね、と心で詫びつつ。
「ありがとう、サルト。ありがとう、アルゲド、キロン」
聖斧を持っていく事が決定した。




