174.合流
「というかなんだそれ、何持ってるんだ、重そうだな。持ってやろうか?」
アトを見つけたアルゲドが驚いたように言った。
「え、あ、うん、えーと、うん、ありがとう」
アトは、オクロドウさんの反応をちょっと気にしながら、アルゲドの好意に甘える。
「うわ、重いな、これ、なんだ、斧、きれいだな」
「うん、領主に伝わる、すごい斧だって。知らなかったんだけど」
「・・・アト様」
静かに上から声をかけられた。オクロドウさんだ。
「は、はい」
自分の命にかかわるという斧を、あっさり他の人に持たせて怒られるかも、とアトは若干身が縮んだ。
その様子をみてオクロドウさんはまたため息をついた。何かをあきらめたようだ。それでも、小言のように言った。
「くれぐれも、気をつけてくだサイね」
「はい。あの、ありがとうございます」
「はい」
オクロドウさんは、それからアルゲドに向かって
「では、アト様をよろしくお願いしマス」
と言って、一人で真っ直ぐ歩きだした。
「え、オクロドウさん? どこへ?」
アトの問いに、オクロドウさんは振り返って、答えた。
「イングス様に頼まれた、ナナキーナという人について、書庫をさがしマス。情報は、多い方が良いでショウ」
「あ、はい」
アルゲドと、アトで、オクロドウさんの後姿を見送った。
「俺、オクロドウさん、初めてちゃんと声かけてもらったかもしれない」
真顔ながらもちょっと顔を上気させて、アルゲドが言った。
***
アトは、自分に会いに居城に来ていた、アルゲドを始め、キロンとクリスティンとも合流した。
そして今、一階の台所に繋がっている部屋の大きなテーブルに四人で座っている。
というのは、合流そうそう、三人が口々にいろんな話をしてきたが、アトには良く分からなかったのだ。
。
少し座って、話をゆっくり聞こう、アトの部屋でお茶でも飲みながら・・・と思ったら、メチルは今居城には居なかった。
そうだ、モリジュお婆ちゃんが亡くなったんだ、今日は葬儀だ・・・とアトがオクロドウさんに教えてもらった事を思いだしたら、キロンが、「それは違う、モリジュお婆ちゃんは生きている、間違いだ」などと言う。
混乱しまくりである。
とにかくやっぱり落ちついて話を聞きたい、お茶もちょっと飲みたい、という流れで台所まで来て、料理中のサルトを発見した。マチルダさんもモリジュの葬儀で今は居城にいないから、父イングスに頼まれて、サルトが皆の食事の準備をしていたのだ。
というわけで、サルトにお茶を貰って、1階の台所の傍にあるテーブルにてお茶を飲みつつ話を聞く事になった。ここなら、サルトにも、同時に話を聞いてもらえるし。
ちなみに、なぜか、町の外から来た商人の男の人も、台所にいる。
不思議だ。なぜこの人が台所にいるのだろう。
と思っていたら、サルトが説明してくれた。
「料理を手伝うから、その分はやく子どもを見つけて欲しい」という事で、商人の男の人も今料理をしているのだそうだ。
商人の男の人は、クリスティンやアトを見て、何か言いかけたが、サルトが手で抑えるような仕草に抑えたようで、結局何も言わなかった。
それでも時折チラチラとアトたちを気にしつつ、ムスっとした表情で、手際良く料理を作っている。とても色鮮やかな、見慣れない町の外の野菜たちが、ゆすられた鍋の上を舞う。
意外な状況で、どうやら、自分が眠っている間に、とてもたくさんの色んな事が起こったんだな、と、アトは思った。
ちなみに、斧は、余っている椅子の上に置いている。聖なる斧の割に、アトに見つかって以来、その扱いは雑である。
さて。
「えーと、つまり」
三人からの話を聞いたアトは、話をまとめようとした。
「昨日、石見の鏡で、皆が死体を見つけたんだね。で、父上たちが確認したら、それは老人の死体だって、いう話になった」
アトの発言に、アルゲドが答えた。
「うん、そう。死体は、石見の鏡に沈んじゃったんだけどな」
「一方で、キロンは、モリジュお婆ちゃんの姿を、死体を見つけたあとに、見た」
「アルゲドも一緒だったんだ。でも覚えてないってさ」
とキロンが答える。
「うん、で、二人でモリジュお婆ちゃんが塔から出てくるのを待ったのに、出てこなかったんだよね」
「そう」
「で、それなのに、石見の鏡で見つかった死体、老人の死体は、モリジュお婆ちゃんだ、って、話になった、と。死体を見つけたあとにモリジュお婆ちゃんの姿を見てたのに、それはおかしい、って事だよね」
「キロンが、そう言ってる、って話だぞ、それ」
アルゲドが注意する。
「うん。アルゲドは、モリジュお婆ちゃんは見たけど、死体の前に見たのか後に見たかまでは分からない、でも状況をみると、町で行方不明なのは、あの…商人の子をのぞくと、モリジュお婆ちゃんしかいなくて・・・だからモリジュお婆ちゃんが亡くなってるというのが普通だ、って言うんだよね」
「そう」
「でも、絶対、見たんだ、死体を発見した後に、モリジュお婆ちゃん!」
「うん、キロン」
台所で料理中のサルトが、自分たちの会話を、心配そうに気にしている。
「で、えーと、クリスティンとも合流して、とにかく石見の池や石見の塔にいって、モリジュお婆ちゃんを探そう、ってなったんだね」
「そ」
「で、クリスティンが、石見の塔の外をよじ登って、窓まで行った、と。これ、本当に本当なんだよね?」
正直、石見の塔に登れるなど信じられなくて、つい確認してしまう。
「本当です、アト様! 行けたんです」
クリスティンが訴えた。
「よじ登ったのは、本当に本当。ただ、窓まで行ったかまでは、霧で見えなくて、俺たちは見てない、でも嘘をつく必要ないだろ」
とアルゲドも言う。
隣では、キロンが頷いている。
どうやら、信じられないけれど、でも本当に登ったみたいだ。良く分からないけどすごいなぁ、と、アトは思った。
「皆、食べて。どうぞ」
サルトが、四人がいるテーブルの上に、できたての料理を並べ始めた。
「さっきから話を聞かせてもらってるけど・・・食べれるときに食べておいた方が、良いかもしれないね」
四人で顔を見合わせた。
「うん、ありがとう」
食べる事にする。
「あ、しまった、僕、今義手つけてない!」
アトが声を上げた。
「あ、じゃあ、口に放り込んでやるから」
「あ、うん、ありがとう」
「まず何食べる?」
「えーと、サラダ。口一杯に」
「口一杯に入れたら、話せないだろ、アト」
「うん、まぁ」
「口半分にしろよ、とりあえず。別に手間じゃないしさ」
「うん、ありがとう」
「うわ、サラダ、取りづらいなー…あ、ごめん、サルト、悪口のつもりじゃないから、そうじゃなくてさ・・・アト、手づかみで入れても良いか?」
「え、うん、分かった」
「んーとー」
もぐもぐ口を動かしつつ、飲み込みつつ、アトたちは話を続けた。
「クリスティンが、石見の塔の外側を、よじ登って、窓まで行ったんだね」
「うん、そうそう」




