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167.聖斧

オクロドウさんはアトが聖斧を気にしているのを分かって、アトの傍の木箱のにその聖斧を置いてくれた。

アトは先のない腕で、それをそっと触った。銀色の刃の部分。ひやりとして冷たい。


アトは、何かを思った。

「・・・」


じっと、自分の中の、何かを知った。

なんだろう、この感じ。なんだろう・・・。


「アッ、&%$@・・・!! *&%#!?」

突然、木箱の底にあった紙を拾い上げて読んでいたオクロドウさんが声を上げた。

「アト様! いけまセン、触らないでくだサイ!」


オクロドウさんは聖斧をアトから取り上げようとしたが、アトが触れているので、出した手を宙で止めて必死の顔でアトに迫った。

「アト様! 手を離してくだサイ! 早く、触ってはいけまセン! なんてコト!!」


「・・・? どうしたんですか?」

「アト様は、触ってはいけまセン! 片づけマス!」


「・・・何が書いてあったんですか?」

アトは、聖斧から腕を離さずに尋ねた。

気にかかるのだ。何かが、気にかかる。

でも、それはいったい何なのだろう。


「・・・ウーん」

オクロドウさんはうなった。眉間にシワが寄った。

「アト様は、これが、こうやって、片付けてアルこと、理由は知らナイ、のデスね・・・?」


「え、うん」

「ウゥーん・・・」

オクロドウは唸った。とても怖い顔をしている。

「とにかく、手を離してくだサイ。それからデス」


「・・・いやです」

と、アトは答えた。

嫌だと答えるのはアトにとって珍しいことだった。きっと、先ほど、オクロドウさんがアトの言葉を無視して自分の行動を決めた事が影響している。オクロドウさんはアトの言葉に従わなかったのだから、自分も、従わなくったって良いのだ。


「どうして嫌なのデスか」

とオクロドウさんが尋ねた。


「何かが・・・」

アトは真っ直ぐに答えた。

「何かが、何か・・・わかりそうな・・・なんでしょう。よく分からないけど・・・。でも、もっと、もう少し・・・」


真っ直ぐに答えながらも、とても曖昧なアトの返事を、オクロドウさんはじっと聞いた。

「アト様。読みマスか。アト様にとって大切なコトが書いてありマス」

オクロドウさんは、紙をアトの前に出して、アトが読めるようにした。

『この聖斧をアトロスに決して近づけてはならない。アトロスが聖斧によって命を落とすと、石見の塔の老婆様に告げられた。 イシュデン=トータロス=イングス』


アトはヒヤリとした。

自分が、これによって、命を落とす? まさか・・・。


「アト様、片づけマス。手を離してくだサイ」

「いえ、でも・・・」

アトはそれでも言った。

「何かが・・・もう少し、もう少しだけ」


「いけまセン」

とオクロドウさんは言った。とても真剣だ。


「けれど」

とアトは言いかけて、少し口を閉じた。そして一つ、閃いた。

「オクロドウさん。お願いがあります」

「なんでショウか」


「もう少しだけ、本当に、もう少しだけ、このまま聖斧を触らせてほしいのです」

「ダメデス!」


「僕が聖斧を触っている間、オクロドウさん、さっき読みたいと言っていた、日記を読んではいかがですか?」

「え?」

オクロドウさんは驚き、そしてすぐに顔をしかめた。


「父にお願いしても、読んではいけないと言われるかもしれません。それに、今僕のお願いを聞いてくれないなら、僕から父に頼むというのもお断りします」

父に頼むのも断る、というアトの言葉に、オクロドウさんはギョットして、さらに顔をしかめた。

アトはさらに続けた。

「お願いです。僕は、もう少し、この聖斧を見ていたい。オクロドウさん、本来は父に相談するべきものだけど、今なら、父に秘密にします。日記を、みたいのですよね? 秘密にします。今なら」


オクロドウさんはじっとアトを見詰め、ハァ、と息をはいて肩を落とした。

「なんてコトでしょう。秘密の取引なのですね?」

「はい」


ハァ、と、もう一度オクロドウさんはため息をついた。それから、チラリ、と、棚に戻した、昔のイシュデン領主の日記に目をやった。

「分かりまシタ。アト様、言う事を変えなさそうデス。それに・・・そうですね、結局見れないかもしれないなら、今、見れるならみてみたいデス」

オクロドウさんの目が少し輝いていている。


「とはいえ、アト様の命に関わりマス。ですから・・・アト様、分かりまシタ。お互い、秘密で。でも、一度だけ、手を外してくだサイ。場所を少し変えたいのデス」


オクロドウさんは、アトに聖斧から一旦腕を離させた。

それから、慎重に聖斧を持って、そのまま倉庫内を扉に近いところに移動する。どうやら聖斧を床に置きたかったようだ。奥の方は木箱だらけで、置くような場所が無い。


オクロドウさんは、聖斧を床に置いてから少し迷って、一番近くにあった木箱をその聖斧の上に置いた。

それから慎重に倉庫の奥に戻って棚から例の日記を取り上げ、また聖斧のところに戻って、木箱を横に除けた。そして両足で聖斧の柄をガツッと踏んだ。そのまま座りこむ。

聖なる斧らしいのに、オクロドウさんが全体重をかけて踏みつけている。アトはギョットした。


「さぁ、これなら、大丈夫デショウ。でも、くれぐれも、気をつけて。お互い、少しだけデスよ」

オクロドウさんは聖斧を踏みつけて固定し、その状態でアトに斧を触らせようとしている。


「・・・はい」

「アト様、早く。すぐに戻しまショウね」

オクロドウさんは、さっそく例の日記を読みだし始めた。


「はい」

オクロドウさんって、霧に関してなら、なんだかものすごい、とアトは思った。

行動力が違う。秘密にしてでも、求める。

あぁ、さすがは、他の町から、わざわざイシュデンに来た人だ。そう、イシュデンって、どうも他の町からは『変な町』と思われているみたいだし。そんな『変な町』なのに、霧の研究のために、オクロドウさんはやってきたのだ。


アトは、静かにオクロドウさんの傍に行って、自分も座り込んで、先の無い両腕で聖斧の刃を触った。

やはり、ヒヤリとする。


なにか、何かが気になる。

と、聖斧を触って、アトはまた思った。

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