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165.見つけたものと聞こえるもの

「物置なのデスね」

オクロドウさんがキョロキョロと見回し、息を飲んだ。だがそれにアトは気づかない。

アトは別に気づいた事に気を取られていた。


この物置の部屋は、入って右に広がっている部屋だ。

一方、扉の正面の壁にうっすらと青く光る扉がある。

その青さは、アトにはここ数日でとても馴染みがあった。母のいる隠し部屋が放っている光と同じ色。


でも、あの扉であるわけがない。方向がおかしい。


この方向についているなら、この扉の先は、片面が鏡張りの廊下の、鏡の裏にあたる場所にでるはずだ。

そこに出るのだろうか。

でも、あの青い光は、アトにこう思わせる。

“あそこを開けると、母のいる隠し部屋に繋がっているに違いない”


どうしてそう思うんだろう。

どうして? 不思議な、わけのわからないことばかりだ。


アトは不意に肌寒さを感じた。ん、と思うと、風が通るのを感じる。

天井が光を通しているから、風も通すんだろうか? と不思議に思ったが、どうも上からの風ではない。気になって風の来る方に向かうと、廊下からか、と辿って分かった。


この物置の正面に位置する、あのバルコニーのような場所につながる扉が開けっ放しだ。そこから風が吹き込んでいる。


あぁ、オクロドウさん、僕と話していてうっかり扉を閉め忘れちゃったんだな・・・とアトは再び廊下に戻り、バルコニーのような場所に出る方の扉を閉じようとした。


ふと、少しあたりが白っぽくなっているのに気がついた。霧が濃くて、こちらまで少し白くなりかけているのだ。


「・・・・?」

居城の中に、霧が・・・。

うっすらとした白さに気づきながら、アトは両腕でノブを挟んで、扉を引き寄せる。


だが、閉じきる瞬間、ふと妙な可能性をひらめいた。

もしかして?


アトは扉のノブに片腕を置いた姿勢で、背後を振り返った。

廊下を挟んで、開いている、物置の扉。その扉の奥、青く薄く光る、奥へと繋がる扉。


「・・・」

アトは、そっと、ゆっくりと、バルコニーのような場所にでる方の扉を閉じた。物置の奥をじっと見つめながら。


「キャッ」

途端、オクロドウさんが悲鳴を上げた。急に物置の中が、真っ暗になったからだ。

「オゥ、#@☆&・・・・! 急に暗く・・・アト様!?」

混乱してオクロドウさんは町の外の言葉を叫んでいる。


「あ、」

アトは、少し急いで、さっき閉めたバルコニーのような場所に続く扉を再び開けた。スゥっと、白い空気が、再び外から流れ込んでくる。

フゥっと、息を取り戻すかのような緩やかな戻り方で、物置に光が戻った。そして、奥に再び見えた青く光る扉。


「あぁ、戻りまシタね。・・・あら、アト様? アト様?」

「廊下にいます。大丈夫です」

アトはオクロドウさんに返事しながら、静かに思った。


こっちの扉が開いていると、物置の部屋の、何かが変わる。きっと、たぶん。


白い空気が少しずつ居城の中に流れ込んでいる。少しずつあたりが白くなる。


こちらの扉を開け放している、今なら。あの物置の奥の青い扉から、母の部屋にいけるかもしれない。

そう、アトは思った。


「アト様? アト様」

物置の中から、オクロドウさんが呼んでいる。


アトが物置の中に再び戻ると、オクロドウさんが、まるで胸に抱え込むようにして一冊の本を持っていた。

「アト様、アト様。お願いがありマス!」

「どう・・・しました・・・?」


首を傾げたアトに、オクロドウさんは、胸に抱えていた古い本をスッと両手で差し出して見せた。

「この、この日記、お借りできないデショウか!!」


「え?」

差し出された本をアトは覗きこむ。

その本は、大層古くて、表紙も含めて全て茶色く変色していた。右隅に文字が書いてある。どうやら、相当昔のイシュデン領主の、日記みたいだ。


「えっと・・・」

どうしてこんなものを、オクロドウさんが読みたがるんだろう。あぁ、ひょっとして。

「父に、確認しないと分からないのですが・・・。霧の事が書いてあるんですか?」


オクロドウさんは、再び、その日記を胸に抱え込んで、異常なほど大切そうにそれを眺めた。

「ハイ。一番古い記録のようデス・・・」

「でも、オクロドウさん、イシュデンの文字は、あまりよく読めないって・・・」


「いえ!!」

オクロドウさんは、必死ともいえる勢いで、アトに説明する。

「霧に関する単語なら、分かりマス!! 年代も、数字なのでわかりマス! この書物は大変古い・・・そして、始めから、霧という単語が頻繁に書かれているのデス!! 是非読みたい、私は霧の研究をしにきたのデスから!!」


・・・タ・・・カタ・・・


「え・・・と・・・・」

困ったなぁ、とアトは思った。きっと顔に出ていた事だろう。

この倉庫にあったということは、歴代のイシュデン領主の私物ということだ。オクロドウさんも、さっきその本を『日記』って言っていたし。

どうもこの居城には、色々秘密が隠されている。日記ってことは、そういう秘密も書いてありそうだし。それを読んでもらっていいのか、分からない。

とはいえ、自分も気になるような。まぁ別にどうでもいいような。


・・・タ・・・カタタ・・・・


「あれ。でもさっきオクロドウさん、『イシュデンの霧は、霧ではない』って言いましたよね? それでも読むのですか・・・?」


カタ・・・カタカタカタ・・・


コクコクとオクロドウさんは頷く。

「確かに、イシュデンの霧は霧ではアリマセン。けれど、霧と書かれているならば、知りたい、読みたくなるのデス!! きっと、ここには、とても大切な事がかいてあると思うのデス!! 読んでみないと分からないデス!!」

「そ、そうですか・・・そうなん、ですね・・・」

そもそも、何を秘密にして何を秘密にしないべきなのか、アトにはさっぱり分からない。

「でもとにかく、ここのモノは、歴代の領主の私物とかで・・・父に聞いてみないと・・・」


カタ・・・カタッ・・・カタ・・・カタカタッ・・・


オクロドウさんは必死のまなざしだ。

「アト様。アト様からも、これを私が読めるよう、イングス様に是非頼んでくだサイ! お願いしマス!!」


カタッ、カタカタカタ・・・カタタタタタ・・・


「え、えぇ。でも・・・あの・・・あ、そうだ、今、ちょっと中身見せてもらっていいですか? あの、それ本当に何だか、僕も知らないので・・・」


カタ カタタ  カタッタ タタタ・・・ カタ・・・カタカタ、カタカタ・・・ タタ・・・ カタタ・・・


「・・・」

「・・・」

さすがに、二人ともが気がついた。


「・・・何の音でしょうか。さっきから、なんだかカタカタって・・・」

「・・・風かちょっとした振動かと思っていまシタが・・・どこかに動物がいるのデショウか?」


カタ カタタ・・・


二人は、少し、周囲を見回して、

「ここデスね」

すぐ傍、木箱が積んであるところに目を留めた。

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