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158/394

158.イングスの判断。クリスティンは塔を登る。

トールランドが呼ばれるのを待つ間、イングスは、ヨリエに再度確認の上、皆に、ヨリエの話を伝えた。

皆、やはり顔を合わせて困惑している。


モリジュが生きているなら良い。

だが、今、行方不明だというのが腑に落ちない。

そして、では、老人のものだったという死体がモリジュではないというなら、死体は一体誰なのか。


「イングス、様!」

バタバタと足音がした。

息を少し上がらせて、先ほど呼びに行ってくれた者と、呼ばれたトールランド、そして、もう2人が走って現れた。


「は、母では、無いかも、と・・・」

と、トールランドが息を切らせながら、尋ねる。


「すまない。分からないのだ・・・」


「イングス様、実は・・・」

トールランドではない、2人のうちの1人が言った。


「キロンが、おかしなことを言ってたんです」

もう1人が言った。


「そう、死体はモリジュお婆ちゃんじゃない、って怒ってた」

「死体の後で、モリジュお婆ちゃんの姿を見たって言ってた」


「ただ、一緒だったアルゲドは、それを信じてなかった」

「あぁ、キロンと大げんかして」


「俺たちも、キロンがタチの悪い冗談を言ってると思ってた」

「あぁ、そうだ」

二人が交互に話す内容を、皆がじっと聞いていた。


「・・・そうだ、キロンはどこだ」

と一人が言った。


イングスが話に入る。

「キロンなら、先ほど、居城から町に来る際に道で会った。確かに『死体が誰か確認しに行く』と・・・・。今町には居ない。石見の塔に行くと言っていた」


「・・・母は、生きている?」

トールランドが呟くように言った。皆が静かだったのでその声は多くの耳に届いた。


「イングス、様」

ヨリエがまたヨロヨロとイングスの腕を掴んだ。

「モリジュちゃんを、探さなきゃならないよ、イングス様。生きている者の葬儀なんかしちゃいけない。モリジュちゃんを、探さなきゃ!」


イングスは顎に手をやる仕草で少し考え込むような姿を見せたが、

「その通りだ」

と答えた。


「すまない、皆・・・」

見回すと、皆も不安そうな、けれど同意するような顔をしている。

「まず・・・モリジュの葬儀は一旦・・・中止だ。モリジュを探そう・・・。そう、商人の娘もだ。それから・・・石見の鏡の死体・・・が誰かと言う事だが」


だがあの死体はすでに手の届くところに無いというのに。


「いや、まず、できる事をしよう。葬儀は中止。すまない、皆に伝え回ってくれ。そして、モリジュと商人の娘、二人を町全体で探す事」


誰かが言った。

「イングス様。モリジュお婆ちゃんが石見の塔に行ったというなら、皆で、石見の鏡周辺も探した方が良い・・・」


「そうだな」


探すしかない。

そうだ。こうなったのなら、一旦、町に葬儀の中止とモリジュたちの捜索を伝え直さなければ。


***


一方、イシュデンの北西、石見の塔にて。


「おい、クリスティン、大丈夫か?」

「気をつけろよ、焦んなよ」


「うん。大丈夫・・・」


小柄なクリスティンが、石造りの石見の塔の外壁をよじ登っていた。


本当なら、年上のアルゲドやキロンが登れれば良かったのだが、年上で体が大きい分、石見の塔の石のデッパリに足をかけて昇る事ができなかったのだ。

クリスティンの小柄さだからこそ、上に登っていける程度の凸凹しか、この石見の塔の外壁にはない。


「・・・クリスティンが登れるって奇跡だよな」

と、昇っていくクリスティンの姿を地上で見守りながら、アルゲドが呟く。

キロンは同意した。

「そうだね。俺たちももっと小さい頃、昇ろうとしたけど・・・あの時は体力も腕力もなかったし、無理だったな。大人にも登れないって聞いたし」


「だよなぁ。奇跡的にクリスティンぐらいの体格と体力で、昇れるんだろうな。偶然」


しみじみとアルゲドとキロンはクリスティンを見守る。

万が一落ちてきても、二人で受け止められるような場所に、クリスティンの動きに合わせてちょっとずつ動きながら。


***


ちょっと疲れてきたな、と、クリスティンは思った。

頑張っているけれど、まだ、まだ塔は上に続いている。


でも、塔には、窓がある。僕はそこまで昇るんだ。


クリスティンの傍を、プィン、という羽音が通りすぎた。

クリスティンは、落ちないように注意しながら、そっと音が通りすぎていった上を見た。


「あ、ハチ」


自分が三歳の時に、石見の塔の老婆様に会った時。

老婆様は、窓の外に手を出して、ハチから赤い、お茶の元を貰った。自分にも同じようにするようにと、教えてくれた。


プィン

今またもう一匹、クリスティンの傍を、ハチが通りすぎて昇って行った。


「ハチ、お願い、老婆様に、クリスティンが来てるよって伝えて」


プィン


ハチに言葉が届いたのかは、クリスティンには分からないけれど。


「・・・大丈夫、窓がある、ハチがお茶を届けに行く、窓が、上に、ある、そこに、老婆様が、いる」

クリスティンは呟いて、再び昇りだした。すでにじっとりと汗をかいている。

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