155.イシュデンで、キロンは思い、イングスは町に着く
イシュデン、石見の鏡(池)と石見の塔に向かう途中で、キロンとアルケド、クリスティンの三人の少年はイシュデン領主のイングスと出会った。
イングスは友人アトの父親で、このイシュデンの領主で、だから誰にも正しく公平な人だと思っている。
だからキロンは、イングスが去った後に、ようやく思い切って告げたのだ。自分たちは、石見の鏡で見つかった死体が、誰のものか確認しにいくのだ、と。
イングスは去った後だったけれど、すぐの事だったし、後ろ姿に向かって怒鳴ったから、きっと聞こえたはずだ。
聞こえたはずだ、と、思うのに。
イングスは、自分たちのところに戻ってきてはくれなかった。
胸の内を告白したのに、話を聞きに来てくれなかった。
信じてもらえなかった
と、キロンは思った。
信じてもらえなかった。
どうしてだ、誰も信じてくれない。
自分は嘘なんかついていない。
でも、誰も信じてくれない。
どうしてだ、自分が、俺が、間違ってるのか。
いや、死体を見た後で、モリジュお婆ちゃんを見たんだ。
死体は決してモリジュお婆ちゃんじゃない、俺は間違ってない。
確認しなければ、きちんと。
きちんと。
・・・自分しか、きっと真実を、知らない・・・
確かめないと。そうでないと、間違ってるのに、そっちが正解になったり、するんだ。
誰もが、違う事を、本当だと、真実だと、信じてしまうんだ。
そう、そして、
そうなってしまったら、本当の方を、間違いだと言われる・・・
「キロン」
キロンは、隣のアルゲドに話しかけられてはっと顔を上げた。
もう池のフチに来ている。
「メチルたちがいるぞ。墓のところだ」
アルゲドがそう教えた。
「・・・あぁ」
キロンは嘆き悲しむメチルたち家族の姿をじっと見た。
違う、亡くなったのは、モリジュお婆ちゃんじゃない
でも、今それは言えない
今言っても信じてもらえない
「行こう」
アルゲドに促されて、キロンと、一緒に来ているクリスティンはそっと石見の塔への道を進む。
メチルやグィン、マチルダは、悲しみに暮れていて、キロンたちに全く気付いていないようだった。
ただしそこには、墓に花を飾り付けていた、庭師のデルボもいた。
***
「おいー? どこに行くんだ? 三人とも」
道を進んでいると、後ろから、そっと、しかし確実な速度で、庭師のデルボが追いついて声をかけてきた。
「え、あ、いや、えーと。石見の鏡と、石見の塔まで」
と、アルゲドが答えた。
「んん? 何をしに?」
「いや、えーと」
アルゲドはそこでキロンを見た。先ほどイングスに会った時と同じ流れだ。
どうせ信じてくれない。
キロンはそう思った。けれど、すでにふて腐れていたキロンは、かえってぶっきらぼうに真実を告げた。
「俺、昨日、死体が見つかった後で、モリジュお婆ちゃんを見たんです。だから、死体がモリジュお婆ちゃんのはずがない」
キロンはそこで言葉を切った。庭師のデルボはキョトンとした顔でキロンの言葉を聞いていた。
だから、続けた。
「モリジュお婆ちゃんが、石見の塔に入っていくのを見たんだ。出てきたところまでは見てないけど、でも、だから、死体は、別の人、そうでしょう?」
デルボは驚いて、どう言葉を出して良いのか分からなくなったようだ。
アルゲドが補助した。
「キロンは、だから、死体を確認しに行くって言って、で、俺たちここまで来たんです。あ、クリスティンは、別だけど」
「うん」
「いや、ちょっと待った・・・いや、待てよ・・・。いや、だけどな、確認ってどうするんだ。池の底に沈んじまった、一体どうやって・・・それに・・・」
デルボが困惑している。
傍で話を聞いていたクリスティンが思いついて、首を傾げて、こういった。
「モリジュお婆ちゃんを、見つければ、良いと思うよ?」
ハッとした思いで、キロンは、傍の小さいクリスティンに目を落とした。
モリジュお婆ちゃんを見つければいい。
そうだ、その通り。
「んー・・・? いや、だがなぁ・・・」
デルボは困惑している。
「いや、だがなぁ・・・」
「俺もよく分かんないんですよ」
と、アルゲドが、混乱するデルボに同意するように言った。
「いやまぁ・・・困ったなぁ」
デルボは言った。
この人は、自分を信じてくれるのではないか、と、キロンは期待した。
「俺たち、とにかく、探してきます」
真実を。
デルボはやっぱり少し途方に暮れた様子で、
「気をつけて行って、ちゃんと帰ってこいな」
と、言った。
***
一方、町にモリジュの葬儀を告げに向かっていたイングスは、フォエルゥの背に乗せてもらったお陰で、すぐに町に到着することができた。
町は複数の区画に分かれている。まず居城からの道の最寄りの区画に行き、広場でフォエルゥから降りる。
「イングス様」
「あぁ。モリジュの葬儀を伝えに来たのだ」
「はい・・・」
「皆を呼んでもらえるか?」
「はい」
声をかけてきた町の人たちにも伝えて、それから傍のフォエルゥの頭を撫でてやる。
「フォエルゥ、ありがとう、乗せてくれて」
グルゥ
「もう一仕事頼みたい。出発前に話したが、町の人たちを集めたいのだ。全員に伝えるから、何度か頼む事になる」
グルゥ。
フォエルウは賢く返事をした。
「大声を出して、町の人を集めてくれ」
イングスの頼みに、フォエルゥは数歩、後ろに下がる。それから、ふるふると体をふるわせた後、再び体を伸ばす。
フォエルゥの準備運動の様子に、傍のイングスは両手で軽く耳を覆った。
グルゥオオオオ・・・ン・・・!!
グォオオオオゥウウウウウ・ォ!!
オオオオゥウウウウウウウウウウ・・・!!
力いっぱい、フォエルゥが三度鳴いた。
久しぶりにフォエルゥの本気の大声を聞いたが、以前よりまた格が上がったように思う。これなら他の区画にもこの声は十分に伝わり響いている事だろう。
案の定、驚いた町の人たちが、それでもイングスの呼びかけだと分かってパタパタバタバタと集まってくる。




