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154.医者について

「・・・ゲオイック? 誰だい?」

「・・・えー、ゲオゲオ~?」


リックデンとコテッツァともう一人で、話しながらプラム様にゆるゆると向かう。刺激しないようにそっと長い黒い体毛を手に取り、ハサミを入れていくためだ。


ジャ・・・キン・・・


「文通仲間の一人っていうかな。医者やってるんだ。コテッツア、どうだ。昨日コテッツア、俺に言ったよな。『ミト様から頼られた時に動けるのか』ってさ。『ミト様子ども隊』って言っただろ」

「・・・言ったっけ・・・言ったような・・・」


「言っただろ! 言っただろうが~!!」


オオ・・・ウゥ・・・・

プラム様が、呻いた。きっと、傍でリックデンが喚いたからに違いない。


リックデンは小声に声を絞り、なおも言った。

「絶対言った! 絶対な!」

「えー、じゃあ言ったって事で・・・」

「・・・キミたちは、仲良くなさそうに見えて仲良いのかと思わせつつ、結局気が合ってないよねぇ・・・」


ジャ・・キン・・・。


「あのな、とにかく医者な!  昨日コテッツア言ったんだよ、『ミト様子ども隊』ってな。言われたこっちは何だって思ってたらこの事態だ。で、思ったね、プラム様の事で皆に助けてもらうのかもしれねぇ、ってな。わかるだろ。で、まず医者、医者だ。で、さっきのゼースリンさん見ただろ、あれと同じになる、この町の医者じゃ無理だろうよ。『悪魔だ、閉じ込めろ』ってなるぞ」


オォ・・・ウゥ・・・

プラム様が、苦しそうな声を出した。

動きそうになるのを「おっと」と周りでプラム様を制する。


「パンデフラデの医者はダメだ。だから、ゲオイックを呼ぼう。ゲオイックなら、きっと事情を知った上でプラム様を見てくれる。助けになりに来てくれる。どうだ、コテッツア」

声を落としながらも、リックデンはコテッツアに判断を求めた。


コテッツアは、感覚でモノを判断しているフシがある。人がどう思っていようが関係無しで、自分だけの印象で物事を見ている事も多い。

だから、コテッツアは、合わない人とはさっぱり合わないし、基本的に人とテンポさえ合わずマイペースだ。

だが一方で、コテッツアの物の見方が、困った事態の解決の助けになったりする。人とは違う部分に気がつく事も多いからだ。だから、判断が難しい時、リックデンを始め少なくとも教会で働く人間は、コテッツアがどう判断するのか確かめたくなる。司祭のミトでさえそうだ。


ジャ・・・キン・・・。


「ゲオイックは頭が良いし。研究熱心だぞ。プラム様を見てくれると思うぞ」


「はぁ・・・ゲオゲオ」

コテッツアは、切り取られた長い髪を『聖水化』した水をたたえる樽の中にボシャッと落としてから、若干嫌そうに呟いた。

「私はあの人しつこくてイヤなんだけどー。でもそうね。この町のお医者さんでは無理だと思う」


コテッツアは目の前のプラム様を見上げた。

「うん、ゲオゲオ。今は性格は問題じゃないし」

隣で聞いていた世話人が「プッ」と吹き出したが、コテッツアは至極真面目に呟いている。

「うん。ゲオゲオ。ゲオゲオで賛成ー、良い案だと思う、リックデン」


リックデンは確信を持って満足そうに頷いた。

「よし。じゃあすぐ呼ばなきゃな」


ジャ・・・キン。


「ゲオゲオと、どうやって連絡とるの、リックデン?」


・・・ボシャッ。


「あぁ、そこは急ぎだからよ、コテッツアの鳩、使ってくれよ」


「うん。頼んでみる」

コテッツアは頷いた。


コテッツアには、彼女ゆえの連絡網がある。

ちなみに、『文通』ではない。案外面倒くさがりの彼女は、子ども時代の文通などとうに途絶えきっている。


コテッツアは、まだ十代の頃に、パンデフラデ領主の娘・ラトに誘われて、パンデフラデの劇団員となった。結果、彼女には、熱心なファンが大陸各地にできた。


コテッツアは、女性らしいスタイルと同時に、男女ともに好かれやすい幼い顔立ちをしている。おっとりとした動きも、人気がでた原因らしい。


それに、コテッツアは、基本は教会の人なので、教会に行けば普通に接する事もできる。

例えば、これが一番人気のラトだと、そうはいかない。ラトはパンデフラデ領主の娘であり、おいそれと近寄る機会もないのだ。

けれどコテッツアは、普通に働いていて接点もある。それが、コテッツアの人気をより高めた。


そんな中、二十代前半の頃に、コテッツアのファンの一人が、『ぜひこれを』と一羽の伝書鳩をくれた。


伝書鳩は、遊牧しながら暮らすため、大陸の中央付近を移動して暮らす人々-『移動拠点』に暮らす人々-が開発し、裕福な層も緊急用として使用する事もある連絡手段だ。

なお、コテッツアには伝書鳩が渡されたが、実際は、その土地に適した動物を飼い慣らして、文書を伝達していく仕組みになっている。


コテッツアに鳩をくれた人は、ぜひコテッツアに、この鳩を使って自分に連絡をとって欲しかったらしい。

なぜなら、その人自身が移動拠点で暮らす人だったからだ。町が移動しているので、普通の手紙では届きにくいのである。移動拠点の人たちが開発した伝書鳩などなら、すでに作り上げられたネットワークで、色んな動物を介して連絡が速やかに届く。


伝書鳩の早さと便利さを知ったコテッツアは、この手段を、私用よりも、ミトの役に立つためなどに使うようになる。


コテッツアが伝書鳩を活用しているのを知った移動拠点の人たちは、やはりコテッツアに伝書鳩を贈り、今や教会には十数羽の鳥がいる。

そして、教会が、伝書鳩ネットワークの中継地点の一つとしての役割も果たすようにさえなっている。


ただし、余談だが、コテッツア自身が鳥やネットワークの世話をしているわけでない。

初めの一羽を断わりきれず受けとってしまったコテッツアが、『伝書鳩なんてもらっちゃった、困った、お世話どうしたらいいの・・・』なんて困っていたら、教会の世話人の一人、動物好きの後輩が世話を申し出てくれて、彼女がしっかりと世話と管理をしてくれているのだ。

つまりコテッツアが伝書鳩ネットワークを今も使う事ができるのは、ひとえにその後輩のお陰である。


だからコテッツアは、伝書鳩を使う際、後輩にお願いして使わせてもらう。


***


こうして。

数時間後、パンデフラデの教会の高窓から、数羽の薄黄色の文書バトが東の空に向かって飛び立つ事になる。


知る人が見れば文書鳩だと分かる改良品種の鳩たちは、人々の、馬車の、道の、大地の上を飛んでいく。

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