153.プラム様の姿
今、プラムの病を懸念して、教会の者たちさえ皆が『穢れを払う』と言われる教会の白い装束を着こみ、口元も白い布で覆っている。さらには教会アイテム『聖水』で『清めつつ』接している状態だ。
「あと、匂いも酷いし・・・」
「まぁ、コテッツアは繊細だもんな」
「え・・・違うと思う・・・」
とはいえ、プラムが独特のにおいを発しているのはリックデンも分かっている。
何せ、プラムは40年以上も、生活環境の整わない塔の中で暮らしている。人間の発する様々が40年以上こびりついた匂いがする。
だから、世話人たちは、一応『聖水』を使って『聖水化』した大量の水を使いつつ、まずプラムの回りに近づけるよう、長く伸びすぎた頭髪などの体毛を切ることから試みている。
プラムはケガをして血の匂いもしているが、まずはそこを整えないと手当の場所も分からず、手当しにくいと判断した。
「あのね、リックデン。私は思うんだけど」
「へぇへぇ」
リックデンの適当な相槌にいささかイラっとしながらも、コテッツアは話を続けた。今それを話す事は大切な事だと思ったからだ。
「誰しも、見た目が整えてあったら、少なくともそれでちょっと印象は良くなるの」
「そりゃまあね」
「もし悪魔の病に取りつかれたって話で通っているプラム様が、『まるで悪魔のようだ』って思われる姿をしていたら?」
「まぁな」
「なんか、話が通りにくくなると思うの」
「言う事は分かる」
でもどうやって? とリックデンは肩をすくめて、コテッツアを見て、黒くただずむプラムを見た。
でもどうやって? 話は分かるけれど、実際、プラム様は、あんな風だ。
「・・・とりあえず、ミト様が対策を立てられるまで、隠せればいい」
話を聞いてもう一人が加わって言う。
「なら、とりあえず・・・扉が開けられても見えない場所に移動してもらうか?」
「うーん、解決になんねぇと思うがなぁ」
ちなみに、ミトとその弟子のアルパッサは、なんだかんだと良策が浮かばずワイワイと師弟漫才中である。
「というか、教会内部に、ゼースリンさんがずかずか入ってくるわけないだろ」
とリックデンが面倒くさそうに話した丁度その時に、扉の外から悲鳴のような声が聞こえた。
“お待ちください! ゼースリンさん! 勝手に教会内部に入られては困ります!”
“何を言われる、自分は十分待った、まだ待たせると!? ミト様がおられるのはどこか!”
“お待ちください、困ります! ちゃんとお待ちいただかないなんて…!”
“事態は急を要する!”
「げ、来る!」
扉の中の者は顔を見合わせた。
「領主の館勤めの人って本当にセッカチ!」
「ミト師、私たち、扉の外に迎えに出ましょう!」
「アルパッサ、待て、待て待て! むやみにでるわけにはいかん」
「なんでですか!」
「どうしたもんか分からん!」
「いやでももうゼースリンさん来ますからって」
「あー、困ったのぅ。・・・あ」
状況に頭の回転がついていけていないミトたちの様子をみて、コテッツアとリックデン、もう一人が顔を見合わせて頷いた。
「とりあえず、プラム様、もっと目立たないところに移動させましょ」
「間に合うか」
「押しても動かんぞプラム様でかいから」
「プラム様、ちょっともうちょっとこっちに・・・う」
ドンドン!!
「ミト様! ここですか!?」
「お待ちください、ミト様、ミト様、 ゼースリンさんが勝手にー・・・!」
扉までミトの返事を先に聞きに来ていた世話人も慌てて止める声がした。
「待って、待って、ちょっとお待ちください!」
すぐそこで。
「うわ、早!」
ガチャッ
領主ソラからの使者ゼースリンが馬車置き場の扉を勢いよく開けた。
中に居た皆が扉を見た。
白い、完全防備状態の皆がゼースリンを見詰めた。
ゼースリンは、開いた扉の中央に立って、こちらを見回して・・・。
まずは扉の近くに居たミトとアルパッサに目を留めて、そこで留まらずに周囲の白い教会の世話人たちを見まわし。
それから、何かを探して、それを疑い、けれど一度外して、また見詰めた。
中の者はその視線を追って、扉から一番奥に位置するその者を見詰め、見上げた。
黒々と、存在するその人。
領主ソラの兄、プラム様。
悪魔の病に冒されて、40年以上風車の塔に隔離され続けている人。
みられた
と、コテッツアは焦りを覚えた。
「・・・」
ゼースリンは無言だった。
「・・・やぁ」
ミトがゼースリンに声をかけようとした時。
バタン。
無言のまま、ゼースリンは開いた扉を閉じて皆の前から姿を隠した。
え。と皆が思った時に、金属音が聞こえた。
ガチャッ。
あ。カギ、閉められた。
ダダダダダ・・・
「お、お待ちください、お待ちください、ゼースリンさん!?」
タタタタタ・・・
走り去ったゼースリンを追いかける世話人の声。それも遠ざかる。
「・・・」
皆が無言で状況を受け止めている中、きっと途中で振り返って怒鳴ったのだろう。ゼースリンの声が遠くのくせによく聞こえた。
“悪魔、悪魔の病! カギを決して開けるな、ソラ様にご報告する、いいな、カギを開けてはならない!”
嵐の去った静けさの中、リックデンが呟いた。
「いや、他にも出入り口いっぱいあるけどな?」
皆が傍に居た誰かと目を見合わせた。
そうなんだよね。
カチャン。
「ご安心くださいませ、ミト様。カギはもう開けましたから」
扉の外で、少し呆れた様子の、ミトの返事を聞きに来ていた世話人がこう伝えた。
そうなんだよね。ここは、教会なんだよね。
領主と教会は、お互いの権力を押しつけてはならない。勝手な事を命令される筋合いはない。
さて、アルパッサはミトに聞いた。今後についてだ。
「どうします、ミト師?」
「ふむ。場所が問題じゃな」
「場所なんですか、問題は?」
「そうじゃのぅ、もうソラ様に教会に来ていただいて直接話すか、ワシらが行ってお話するか、じゃの」
「どんなふうに?」
「プラム様は、教会でお預かりいたします、とな」
「じゃあ、さっきそう言えば良かったんじゃないですか?」
「いや、今やっと言葉にまとまったんじゃよ」
「しっかりしてくださいよ師匠」
「そうはいっても、焦っても良い案なんて出ないんじゃよ」
一方の、リックデンとコテッツアともう一人の世話人も顔を見合わせていた。
「だから早く隠そうって言ったのに~」
「んな事いうなよ、もう終わった事だろが」
「それに間に合わなかったよ、ゼースリンさん足早いというか。せっかちというか。なんでここだと分かったんだろうか」
「クディリテがここに向かうのを見たんだろ」
ちなみにクディリテというのは、先ほどミトの返事を確認しに来た世話人の名前だ。
コテッツアは、ソラの使者ゼースリンにプラムの姿を見られた事を悔やんだ。
「白い布でもかぶせれば良かった・・・」
「過ぎた事ぐだぐだ言うなよーコテッツアは。それよりも」
「そうだね、とりあえず我々は、このままプラム様の身を清めようか?」
「・・・うー・・・。でも困ったなぁ」
「あー、もー、うるさいうるさい」
「・・・?」
「え、違うよ、お医者さん、やっぱり誰に見せて良いか、分かんないって思って」
「・・・あぁ医者か」
「あぁ・・・そうだね、ちょっと見当つかないな・・・」
しかしリックデンは、プラム様を見上げながら、言った。
「もし急がないんなら、ちょっと呼ぶのに日がかかるのが問題だが、ゲオイックが医者だ。ゲオイックにプラム様を見てもらうのはどうだ」




