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124.子守唄

「えーと」

セフィリアオンデスは、さすがにかける言葉を迷っているらしい。

その割に下から覗いて泣き顔をばっちりガン見してくる失礼さ加減だ。やはりお前とは色々合いそうにない。

落ちる涙を止めるすべもないまま、トートセンクはセフィリアオンデスをグっと睨んだ。


ぽんぽん。

もう一度肩を叩かれた。そのはずみで涙がしずくになって落ちる。


「んーと・・・できる限り、力いっぱい」

セフィリアオンデスは考えるように一度視線を外してから、またトートセンクの目をガン見した。

「居るからさ、ここにさ」


なんだそれは。慰めか?


「・・・お前も、ナナキーナの体を壊した・・・」

呻くように口にした。

すると、驚いたようにセフィリアオンデスの目が見開かれた。


瞬間、トートセンクは自分を恥じた。

違う。傷つけようと思ったわけではない。

だが、そうだ自分は子供じみている・・・拗ねている。甘えたのだ。唯一傍にいるといってくれた者に。

悪口で返してくると思ったからこそ。そんな顔をさせるなど・・・。

違う。そんなつもりで言ったのではない。私は一体何をしている・・・!


「ごめんね」

セフィリアオンデスの言葉に、トートセンクははっと顔を上げた。

お前が。謝るのか。


「違う、お前のせいではない・・・! お前ではない、」

「ん・・・でもヒビが入った。私が手で押さえたら、大きなヒビ入った・・・。ごめん」


「違う、お前は、守ろうとした。・・・助けようとして、その結果の事だ・・・」

トートセンクは己を恥じた。自分の未熟さが、聞かなくてもいい言葉を招いた。

「お前は助けに来てくれた。遠いところから・・・壊しに来たのではない」


セフィリアオンデスは大きな両眼でじっとトートセンクを見詰めている。


「お前は謝らなくていい・・・」

そう言った後に気がついた。

あぁ、あの異世界の人間たちも・・・壊しに来たのではなかっただろうに・・・。


トートセンクは目を伏せて、立ちあがった。

見ずとも、セフィリアオンデスがじっと自分を見上げ続けているのが分かる。

地面に目を落とし、未だ流れる歌声を拾い上げて、心を一つ開く。

「・・・この歌、皆が・・・私に歌ってくれた歌なのだ」

「えぇ? この歌?」


「そうだ」


セフィリアオンデスは首を傾げた。

「・・・つまり、“サリシュ”って人は、歌を覚えてるってこと?」


「・・・」

「・・・」


口に出したくないけれど、口に出して言う事にした。

「おそらく、この人は・・・覚えてなどいないのだろう」


「・・・そうだね」

セフィリアオンデスがそう答えた。

その答え方で、セフィリアオンデスがそう思ったにも関わらず、自分に遠慮してそれを口にしていなかったのだと知る。


改めてトートセンクはセフィリアオンデスに目を向けた。

セフィリアオンデスは優しそうな目を向けていた。そんな表情もするのだな、と、トートセンクは思った。


「だけどさ」

セフィリアオンデスは言った。

「良い歌だよね。聞けて良かったよね」


確かにその通りかもしれない。


「んー。・・・・・・あのさ」

実は時々長考する様子らしいセフィリアオンデスが、歌を聴きながら、静かに言った。

「なんで、サリシュって人が、そんな歌を歌えるのか・・・っていうか、ケルベディウロスってのも歌ってるよね。なんで歌えるのか、聞いた方が良いと思うんだよね」


トートセンクはマジマジとセフィリアオンデスを見た。

そうだろうか。

そうか。


セフィリアオンデスは明らかに馬鹿にするような顔で見上げてきた。

「・・・それぐらい、気付けってば!」


失礼な物の言い方に苛立ちを覚えたので、軽く空のヤリを鳴らしてみたりして驚かした。

ワイワイ怒られると分かってはいたが。


そうして。自分がセフィリアオンデスという存在に甘えていることも、仕方がなく自覚した。


決して口に出して言わないが。傍にお前が居てくれてよかったと思う。


***


青い部屋、サリシュがふっと微笑んだ。

「眠った」

息子は穏やかな寝顔を見せている。すぐ傍に。


起こさないようにサリシュは囁いた。それでも相手に聞こえるように。

「ケルベ。あなたもこの歌を歌うなんて」


どこか暖かく返事が来た。

『この小さき世界でよく歌われる歌。我輩が知らぬわけはない。子どもを寝かしつける歌だろう』

やはり眠った者を起こさないように、静かな声だ。


サリシュは微笑んだ。隣の夫にも笑顔を少し。

そして、今少し歌おう。ふるさとの子守唄を。


そう 自分もこんな風に 小さい頃歌ってもらい眠っていたのに違いない

子どもが産まれた事で 自分自身が親にいつくしまれ育てられた事を実感する

あなたもいつかこんな風に

大人になって 親になって 子守唄を歌って聞かせるのかしら

その時 私たちは あなたの傍にいているかしら


居なくても良いわ

あなたはそこで私たちがいかに大事にあなたを育てたかに気がつくの

そしてその思いも一緒に歌にするのね


大きく育ちなさい

たくさんのものを見て たくさん聞いて たくさん口にして たくさん触れて


そして生きなさい

そして生みなさい

そして継いでいきなさい


受け取りながら 受け渡しながら


あなたを本当に大切に愛しく思う


元気に健やかに育ちなさい



波を静かに引くように、歌を終えた時、どこかかすれたような声が聞こえた。

『サリシュ』


サリシュは息子から顔を上げて祭壇を見やった。この、苦しそうな声は?


『あなたは・・・・なぜその歌を歌える?』

サリシュはキョトンとした。

この人は・・・馴染みのケルベでもない。元気なセフィリアオンデスでもない。


『私の名は、トートセンク』

「・・・あぁ」

トートセンクさんね。


『気高きエクエウ。その一人。ただ一人 動いてこの場に残る者だ』

『トートセンク、あのさー、その自己紹介、ちょっと分かりづらいと思うんだよね』


『・・・』

『まぁ良いけどさ』


『・・・なら口を挟むな。礼儀というものがある』


『まぁ良いけどさ。でもさぁ、アンタ、礼儀って、世界共通だとでも思ってる? ・・・少なくとも私とアンタの礼儀って違うよね? ま、良いか』

『・・・』


向こう側は黙ってしまった。

サリシュは夫と顔を見合わせた。夫は少し小さく、サリシュのみに聞こえる音量で、「少し待とう」と言った。


サリシュはだから、少し待つことにした。自分が今歌った歌について考えながら。

そんなに特別な歌ではない。ローヌで皆が歌う歌だ。もしかして大陸でも歌われているかもしれない。親が子供に聞かせる子守唄。


別に、伝説があったり、言われのある歌ではないと思うんだけど?

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