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121.アトが話す番

静かになって、セフィリアオンデスはアトに話しかけてきた。

『“アト様”。聞いてるよね?』


「はい」


『トートセンクのために、聞くけど。トートセンク、今まで一人きりになってさ、ずっとあの場所を心の支えに頑張ってたんだ。それが、壊れた。”アト様”。一体、何かしたワケ?』

「し、してないです!」


『私も、アンタたちが何かした風には見えなかった。ちょっと遠くにいたから、見えなかっただけかもしれないけど。でも。傍にいた、黒い吼えるコはどうだった?』


「いえ・・・何かにあたった・・・あ・・・」

アトの記憶が蘇った。

言って良いか迷ったが、嘘をついてどうなるものでもないと思った。何がどうなったか分からないなら、正しく話した方がいい。

「なにか、ちょっと、払うような仕草をしたんです、黒・・・えーと、あの人が。でも、当たったとしても、ちょっと、端っこのほうぐらいの動きで・・・あんなに壊れるなんて・・・違うと思います」


『・・・うん・・・あ、ゴメン、待って。・・・・・・ちょっと!! 煩いから、黙っててよ、トートセンク!! 分かる事も分からなくなるじゃん!! もー! だからそれ鳴らしてもなんにもならないでしょうがっ!! 分かりなさい、子供かぁっ!!』

「・・・」


シーンとなった。


『言っとくけどっ! 多分、私が、一番長生きだからっ! トートセンクなんて、私の足元に及ばないぐらいの子供だっ!! 今は私が話してるだろ! ・・・うわぁ、泣くな!!』

「・・・」

泣かしたんだ・・・と、アトは少しおののいた。


母はと言えば、僕と父に聞こえる程度の小さい声で、

「何歳なのかしら?」

と、小首をかしげている。


女性の年齢など、聞かないに越した事はありません、母上。


父とそっと目を見合わせると、父は困ったように、アトに肩を小さくすくめて見せた。


***


セフィリアオンデスが話さなくなったので、少し間が空いた。

たぶん、泣かせてしまったらしいトートセンクのフォローに入ったのだろう。

それにしても、あの怖い顔のトートセンクを泣かせるなんて・・・。

ケルベディウロスも、黙ったままだ。様子を見守っているのか、考え事をしているのか・・・。


そんなところに、父が声を上げた。

「次に、アトロスに語らせてもらっても良いだろうか? 体力を考えると、先に語らせておきたい・・・良いでしょうか?」


『あぁ、そうしておけ』

ケルベディウロスが少し遅れて言った。やはり何か考え事をしていたのかもしれない。

『お前の息子はまだ幼い。早く休みをいれるべきだ・・・早々に語り、休みに入るがいい』


「ケルベ、あなたの物言い、ものすごく偉そうよ!」

母がむっと咎めたが、それよりアトは子供扱いされたことにムっとした。

父はそれに構わず僕を促した。

「お前の番だ。きちんと説明をしなさい」


アトはうなずいてから返事をした。

「はい」


アトは気を張った。

「僕は、イシュデン=トータロス=アトロスです。イシュデンというところに生まれて、暮らしています。今まで普通に暮らしていました。あ、僕には両手が無くて、木製の義手をつけて暮らしています。不便は感じません。とにかく、特別なことは何もなく暮らしていました』


起ったことを、順番にと思い出す。

『昨日、僕の町・・・イシュデンに、外から商人の親子がやってきました。珍しい果物を売りに来ました。それを食べて・・・。僕は、なぜかその日、夜中に目が覚めました。廊下に出て、何か探すように歩いて・・・もう死んだと思っていた母がいる部屋に入り込みました。母は特別な部屋で生きていました』

そこで、母と話をしたのだ。


『イシュデンの町には霧が出るのですが、その霧が特殊で、ものを忘れさせるという話を聞きました。それから・・・商人の子どもが、行方不明になったと、母が言いました。普通はいけないところに、僕は行けるのだと聞きました。母は、僕に、僕にしかいけないところに行って、その行方不明の子を探すようにと言いました。僕は言われるように歩いて、白いところに行きました』


そうしたら。

『黒くて体がもじゃもじゃの人と、背中に羽根がついている人と、金茶色の瞳の人に会いました。黒い人は、パンデフラデ=トータロス=プラム。今、傍にいない。どこに行ったか分かりません。背中に羽根がついている人は、トートセンクさんだ。金茶色の瞳の人は、セフィリアオンデスさん』


一息ついて、アトは続ける。

『・・・昨日は、少しウロウロして、母から預かったペンダントを落とした事に気がついて探して・・・結局何もせずにイシュデンに戻りました。戻ると、イシュデンは大騒ぎになってた。行方不明の子を、皆で探していた。僕が見つけて連れて帰ってくることを、皆期待していた。でも、僕は見つけてこなかった』


話ながら、後悔の念が沸いてくる。

『イシュデンで、行方不明の子と最後にいたのがクリスティンで・・・クリスティンが、酷く泣いてた。それを見て、僕はもう一度探そう、ちゃんと探さないとと、思いました。でも、疲れてその後に僕は眠ってしまいました」

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