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109.教会の世話人たちは口が堅い

昔、アルパッサはミト師の傍によく居たので、ミト師のお世話をするコテッツアとも接する機会が多かった。アルパッサはのんびりした優しさをコテッツァに感じて、いろいろ質問をする時期があった。

ある日聞いた。

「ねぇ、どうして、みんな、あんなにおしゃべりなのに・・・。外では、話していることが、違いますよね?」


コテッツアは答えた。

「わー、アルパッサ、賢いねー。そんなのよく気がついたねー。えーと、そうだなぁ。私はちょっと人と違うって自覚があるから、みんながそうだとは言えないけど、でも、みんな、守るものは守る人たちだからだと思うよ」


「『外では違う事を話す』っていう規則があるんですか?」

「えーと、そうじゃなくてね、言ったら誰かを傷つけちゃう事があったらね、みんな、それは言わないの」


「例えば?」

「えー? んーとねー。うーん・・・うーん・・・」


じっと回答を待つアルパッサのために、コテッツアが例を絞り出した。

「例えば、んー・・・。聖水って、本当に効くのかなぁ、とか」

「・・・聖水・・・?」


「んー・・・ちょっとうまく例が思いつけないんだけど。あれ、司祭の館で作ってるでしょ。日の光に3日、月の光に3日。お土産にみんな買っていくし、穢れを清めるって言うけど、あれ、本当かなぁ、とか」

「・・・サギってことですか?」


「違うよ。聖水ってそうやって作るんだもの。だから、本物よ。でも、『穢れを清めるってホントかな~』とか、みんなで言ってたりするよ。花壇にまいたら、草花いきいきするとか、掃除につかうとより清潔になるとか、病人の額に置くタオルに数滴垂らすと回復の足しになるとか・・・ほんとかな?」

「・・・正当な方法で作っている教会のものなのだから、本当だと思います」


「ふふ、アルパッサはやっぱり良い子だなぁ」

コテッツアはニコニコした。対するアルパッサは首を傾げた。

「話がそれたように思うんですが?」


「えーと、何の話をしてたっけ?」

「みんな、外で話す事が違うという話で・・・それは傷つける事は言わないからだ、って」


「あ、そっか。思いだした。教会のみんなが、聖水のことを外では絶対に『ほんとかなぁ』なんて言わないのはね、教会の人が、それを言っちゃったら、それを信じる人を傷つけちゃうからなの」

「え?」

アルパッサはきょとんとした。


「教会は、人の心の支えになることをしているでしょ。心のことって、目に見えないことが多いから、わかりにくいのよね。教会が聖水を生み出して売ってるってことは、聖水は心の方を助けるものだからよね。飲んだら元気になる-かもしれない。掃除にだって使えるかもしれない。でも多分、それって、きっと、目に見えないことがあって、目に見えて何かが変わるわけでもないと思うんだ。だから、つい、『ほんとうかなぁ』って、私たちでも、思っちゃう」

コテッツァは不思議そうに、どこか思い出すように話し続けた。

「きっと、そういうのって、使った人にしかわからない。もしかして、気休めなのかもしれないの。でも、本当に何か効果があるのかもしれないの。そんな曖昧なものだけど、でも、役に立つと思う人が、それを買うの。買う人にとって、聖水というのはちゃんと役に立つものなの。実際、『この前買ったらよかった!』ってたくさん買っていくリピーターもいるのよ。不思議な話も聞いたりするし。まぁウチの聖水は、オシャレな小瓶に入れてるから、旅の思い出とかお土産代りに買う人が多いけど」

「あの、すみません、話がよく分からなくなってきたんですが・・・」


「えぇー? そう? ごめんね。えーとね、だから、みんな、場をわきまえてるってこと。言ってしまったら、その人が大切に思っているものが壊れると思ったら、で、それを壊したくないなぁ、って思ったら、それを壊すようなこと、言わないでしょ、アルパッサも」

「ん・・・んんんんん? はい・・・」


アルパッサがコテッツアに相談すると、分かったような分からないような状態になる、と学習したのは、数年が経って後の事である。


とにかく、皆、信念があって、教会の外では教会の内部にいる時のような話をしないんだなぁ、とだけ、理解したのだ。


コテッツァの話からは具体的に分からなかったのだけれど。

結局、何かを守るために、外部には決して話を漏らさない事ができる人たちばかりが教会には集まっているのは、確かなのだ。


***


今。集まった教会の世話人たちに、リックデンが隠すことなく説明をした。隠す事で、逆に皆に危険が出るかもしれないから。


司祭ミトが風車の塔に長く閉じ込められた状態のプラム様に何かしたいと願ったということ。

プラム様のご病気は、うつるかうつらないか分からないという事。

おそらく、領主ソラ様は、病気を町に広める可能性のあるプラム様を、外に出したいと思わないであろうこと。

もし病がうつるなら、ミト様が風車の塔の中に入って生活する予定であった事。病がうつらないのではと思われた場合も、理由をつけて教会にて保護しようとしたこと。

そして、なぜか今朝早朝に、リックデンがコテッツアにたたき起されるように呼び出された事。マーゼおばあちゃんが夢を見て、その結果『今すぐプラム様を教会に迎えにいかなくてはならない!』と強く思ったようだということ。

昨晩落雷があったそうで、行ってみれば塔が崩れ落ちていたこと。崩れ落ちた中に、真っ黒な、プラム様だろうと思う者が立っていた事。とにかく馬車に無理やり押し込むように詰めて帰ってきたこと。おとなしかったが、意外に力が強かったようで、押し込めてから馬車の天井が突き破られた事。

とにかく連れてきてしまったのだから、お世話をすることになるだろうこと。だが、病がうつるかどうか、結局分からない事。

だから。

覚悟のあり、手伝う気持ちのある者は手伝ってほしいけれど、小さい子や老人がいる家の者は関わらず遠ざかって欲しい事。


聞いた瞬間、世話人たちは押し黙った。

まず一人が口を開いた。

「館内の皆に伝えた方が良い。手伝うにしろ、避けるにしろ。各々判断して振舞えた方が良い」

すると、皆が口々に話し出した。

「外部に漏らすような者はもうここには居ないしな。協力は多い方が良いよな」

「ていうか、ミト様! 極秘で進めようとするなんて! ご自分たちで何とかなる問題じゃないでしょうがっ」

「まて、ひょっとして、気が付いたら最後ご挨拶もできず、ミト様が塔の中に入ってしまってたかもって事か? それは・・・あんまり・・・ひどい話じゃないか!?」

「ミト様を呼べ! ミト様を!」


アルパッサが少し慌てた。

「えっ・・・あのその前に皆さん、病がうつるかもしれないので、あの、避けられる方は今すぐこの場から避難していただいた方が・・・」

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