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107.馬車

アルパッサは慄いていた。


コテッツアはリックデンと一緒に居る事をあまり好まない。だから、リックデン、コテッツアがそろっているだけでも違和感があるのに。

リックデン。コテッツア。そして、司書のマーゼさん。という組み合わせ。

それは、昨日、司祭ミト師の元に集まり、プラム様について話をしたメンバーである。


ていうか、なんで御者台に三人乗り!? ていうか、なに、その馬車!?


馬車はたいそう壊れまくっている。

優美に草花と蝶、小鳥たちの細工を施してあるはずの天蓋がささくれだって割れており、何か黒いモジャモジャとした山のように見えなくもないものがつき出し、時折ぐるりと動いている。

ちなみに、屋根どころではなく、扉も半壊の上、もげかかっているし、そこから長い黒いものがヌっと2本のびてブラブラ動いている。


昨日の話があってこそ、アルパッサは、思った。

まさか。あの馬車に乗っているのは、プラム様か。


ハっと、アルパッサは気づく。


馬車は間違いなくこちらに向かってきている。

今ここには、自分のみならず、司祭の館の、他の世話人たちが5・6名集まっている。


どうする、馬車に乗っているのが、プラム様なら。

・・・いや、もうこんな状態、なんか絶対プラム様を乗せてるに違いない!


どうする極秘計画だったはず・・・。

なぜだ、そうだ、ご病気、悪魔の病気が、皆にうつってしまうかもって・・・。


待て、でもうつる病気なら塔に居てもらってミト師が塔に入るとかいう話だったのに、なぜ連れて出てきてる。

そうだミト師が、ネルザ家の女性は勘がするどいからマーゼとコテッツアが大丈夫っていうなら病気は大丈夫なのかもしれんって話をしていたが、・・・いやだからなんで何の相談も連絡も無くいきなりこんな事態なんだ!!


「わあああああ!!」

アルパッサはとっさに頭を抱えて叫んだ。

「ど、どうした、アルパッサ!!」

と、世話人の一人が驚いた。


どうする!

ハッ、とアルパッサは、顔を上げて叫んだ。

「っと・・・、いや・・・、に、逃げて! 逃げてください! とにかく!」

「えっ! 逃げる!?」


「神の名に誓って、みなさんに命じます! とにかく自室に帰ってください!!」

「神の名・・・!?」


「昨日、司祭代理になりました!! 命じます、自室に帰って!!」

「はぁ!!? 何言ってんの、アルパッサ・・・」

「お前、頭大丈夫か!?」


「わーごめんなさい、でも頼みます頼みます、とにかくちょっとー」

自分でもむちゃくちゃな事を言っている自覚はある。


「わー、みんな、ドケドケドケドケー・・・!!」

「危ないー!!!どーいーてー・・・!!」


「わぁあああ、リックデン、あぶねー!!! ストップストップー!!」


「みんな、どーいーてー!!」


「きゃああああああ」

「わぁあああああああ」


ガタガタガタタタタタタッ・・・!!

破片をまき散らしながら、馬車が中に突っ込むように、帰ってきた。


***


ド派手な様子とド派手な音で帰還した司祭の馬車に、館の内部は騒然となった。


暴走馬車は他の馬車に接触しながら、壁の手前、馬を押しつぶす前にはなんとか止まった。

なお、アルパッサたちが先ほどまで用意していた馬車も当てられてしまい、すでに繋がれていた馬は怯えるし馬車自体も破損するしで修理が必要な状態になり下がった。


馬車自体の激突こそ避けられたが、御者台に乗っていた司書マーゼが停止する前に御者台から転げ落ち腰を強打した。

コテッツアは衝撃で前に転げ落ちそうになったところを寸でのところでリックデンに服を掴まれたのと目前に迫っていた馬の背に手をついて転げ落ちるのは回避、リックデンはさすがというべきかこの事態でも馬を操った上に無傷であった。


後に状況確認をしたところ、想定外の重さで、馬に勢いをつけないと動かない状態になっていたらしい。そして、トロトロゆっくり移動している場合ではないと思ったからでもあるらしい。

だが、この今において、そこまでの事情を気に留められるものは誰一人無い。


世話人の一人がマーゼさんを助けに駆け寄る。御者台の二人を助け出そうとする者、馬を落ち着かせようとする者。

それらを視認した上で、アルパッサたちは馬車に駆け寄り、まず中を確認した。馬車の扉はすでに壊れて落ちている。

だから、ただ前に立つだけで中が見れた。


馬車の中には、黒い動物のようなイキモノが乗せられていた。あるのは大きな黒い体だった。長い腕が馬車の中をどこか探るように、内部を這うように動いていた。頭部は天井を突き破っていた。馬車の前に立つと逆に頭部は見えない。

ガツンと、ものすごい臭いが来た。色んなものが凝縮され、放置され、くさっていったような。

それから、鉄の匂い。血の匂いがする。


ォ・・・オォオ・・・


天井を突き破った頭部から、うめき声がしていた。


ォ・・・


「なんだコイツ・・・」

ハッと気づくと、アルパッサのすぐ傍、世話人の一人が立って、同じように馬車の中を凝視していた。

「生きモンだな? 怪我したんじゃないか? ・・・でも・・・おぃ、リックデン、コテッツァ・・・お前ら、何、乗せてきた?」


マズイ!

アルパッサはとっさに、まだ衝撃が冷めやらないはずのリックデンとコテッツアに向かって怒鳴るように聞いていた。

「病は!? 良いのですか!?」


異様な姿を目の当たりにしても、アルパッサは、これがプラム様かもしれないという可能性を消しきれなかった。

なぜなら、アルパッサにとっては無自覚な事に、アルパッサの幼いころからプラム様はすでに『悪魔の病にかかった者』であり、近づいてはならない者であり・・・結局、アルパッサは、塔の中のプラム様のことを、悪魔のような姿で想像して過ごしていたのだ。実際のところ、正しく人として想像した事さえなかった。

だからこそ、目の前の姿を見ても、プラム様ではとアルパッサに思わせた。


もし、これがプラム様ならば。

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