配信
「はい、じゃあコレ持ってください。コメントを見る端末です。あとこれ、予備のバッテリーも……」
「……」
「よーし、準備できましたね!カメラ回しますよー」
「……おい」
次の週、出勤した俺は、広報の近藤さんに捕まり、有無を言わさずダンジョンの前で準備をさせられた。
……動画の生配信の。
目の前には空中に浮いているレンズのついた物体。
「おい、なんだこれは」
「魔導カメラですよ!探索配信なんかでよく使われるやつです。センさんの動きを見て自動でついてきます!高かったんですから壊さないでくださいね!」
「それもそうだが、そうじゃなくて……」
突然、手に持たされていた小型の端末に何かが表示される。
――――――――――
「何これ、本物?」
「マジじゃん。死神のセンだ」
「え、ガチで死神の探索見れんの!?」
「アークマテリアルって聞いたことないな」
……
――――――――――
ピコンピコンと次々に現れるコメント。
プレビュー画面には俺が端末を見ている光景が映っている。
「……説明しろ」
「はい、映りましたかね!ではでは……コホン、えー。皆さま、おはようございます!【死神のセンの探索配信】へようこそ!私、株式会社アークマテリアルの広報、近藤と申します!そしてこちらが」
「……」
「ちょっと、自己紹介してくださいよ!……えー、同じくアークマテリアルの探索者、つい先日Aランクに昇格いたしました、センです!」
いつもよりテンションが高い近藤さん。
……先週社長が言っていたのはこれか。
「……つまり、俺の探索を監視すると。そういうことか」
「まあそうとも言えますね!社長命令ですので、よろしくお願いしますね!」
「はぁ……」
「あ、ちゃんと定期的にコメントも拾ってくださいね!無理はしなくてもいいですが」
もう一度端末に視線を落とす。
――――――――――
「めちゃくちゃ嫌そうで草」
「Aランクってマジ!?」
「Aって滅茶苦茶人数少ないんじゃなかったっけ」
「社長命令って、なんかやらかしたのか?」
「戦ってるとこ見てぇ」
――――――――――
「はぁ……」
「あ、私も定期的に配信の方見させてもらいますね!何か問題があれば連絡しますので!」
では!と言って近藤さんはダンジョンの入口のゲートから立ち去る。
……これ、もしかしてずっと続けるのか?
社長は確か来週“から“って言っていたしな。
……仕方ない。俺の招いたことでもあるからな……
「……じゃあ、中に入る」
やることはいつもと変わらない。たまにコメントを見ればいいんだろ。
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「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
「ほんとに強いのか?こいつ」
「まさか死神が配信者になるとは……」
「鎌重くないの?」
――――――――――
「鎌は……慣れた」
コメントを流し見しながら進む。
確かにこれなら感覚を狂わせずに人の監視が入る。
わざわざ高いカメラを買ってまでやることか……?
近寄る獣型の魔物を斬り捨てながら進む。
――――――――――
「見てすらいなくねぇか?」
「速すぎて鎌の軌道に残像が……」
「もはや流れ作業」
「俺この魔物と戦ったことあるけど結構強かったぜ?」
「強いとかいう次元じゃない」
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「……まあ、確かにこの辺の魔物の処理は作業だな」
時折目についたコメントに返事をする。
何も言わない時間が長引くとコメントから喋れと言われる。
若干うんざりしながらも、順調に進んでいた。
ピコン、と一つコメントが来る。
『おい、もうそろそろ戻れ。定時までには戻ってくる約束だ』
「……社長?」
まさかコメントに直接来るとは。
――――――――――
「社長?アークマテリアルの?」
「約束って、普段定時超えて潜ってんの?」
「ダンジョンマニアじゃん」
「そんな長時間潜れるもんなのか?」
――――――――――
足を止めて端末を見る。
監視、って。本当に監視してるじゃねぇか。
……戻るか。
来た道を引き返す。
魔物がいるな。面倒だ、蜘蛛脚で潰すか。
気配がするところを蜘蛛脚で貫き、素材だけ拾い集めながら帰っていく。
――――――――――
「は?今の何?」
「なんか黒いのが壁から出た」
「角曲がる前に死んでるんだけど」
「え、見えてない敵倒してんの?」
――――――――――
「あー、まあそういうのもある」
説明が面倒だ。別にしなくてもいいだろ。
特に大きなトラブルもなく出入口へ到着する。
社長と近藤さんがゲート前で待っていた。
「……帰った」
「ああ。約束通りな」
「いやー、すごかったですよ!ほとんど何やってるかわからなかったですけど……あ、これにて第一回、【死神のセンの探索配信】を終了します!」
「……」
――――――――――
「もう終わり?」
「毎日やれ」
「社長ナイス」
「黒いやつ?意味わからん」
「また見に来ます」
――――――――――
「はい、配信切りました。お疲れ様です!」
バッテリーや端末を近藤さんに返す。
「ま、ちゃんと帰ってきたことは褒めてやる。これからも定期的に配信を行ってもらうからよろしくな」
「……はぁ」
「めちゃくちゃ大好評でしたよ!長時間の配信なのに人がひっきりなしに来てました!」
「そうか」
いったい俺の探索にどんな需要があるんだか。
気力的に疲れたな。
素材を査定に回して今日は帰るか。
まったく、とんだ日になった。




