残業
旅行が終わってしばらく経った。
「わ、またですか……」
「ええ、またよ。最近ずっとこうね」
朝、会社の査定所には大量の魔石や素材が山のように積み上がっていた。
田島さんはここ最近ずっと朝から査定を行っている。
……まあ、俺が置いたものなんだが。
実験がてらダンジョンで蜘蛛脚を使い、積極的に素材を収集し始めた。
かなり奥まで探索しているせいで、気付けば定時を大きく過ぎており、帰ってきたときにはほとんど人が残っていない。
朝になれば誰かが査定してくれるだろう。
そう思って、置けるだけ素材を置いて帰っている。
「セン、今日は会議だって。探索組も来いって言われてるよ!」
「ああ」
ダンジョンへ行こうとしたところ、ミナが呼びかけてきた。
恐らく収集したい素材の相談だろう。
ふぁ……
今日は眠いな。
あくびを噛みしめながら会議室へ向かう。
「……今のところこの素材は間に合っている。魔石はあるだけ欲しいがな」
「他のダンジョンへ行った方が良いですか?」
「ああ、そうだなぁ……」
……眠い。
元々こういう会議の場は得意ではない。
資料だけ配ってくれたら十分なんだが。
……あぁ、眠い。
side酒井
「ここの素材はどうだ?試してみたか?」
「はい。それは――――」
ガタンッ
突然会議室に大きな音が響き渡った。
音のした方を見ると、センがうつ伏せになっている。
……ピクリとも動かない。
「……センさん?」
「ちょっと、どうしたの?」
「大丈夫ですか!?」
社員たちが体をゆすっても反応が無い。
「社長……多分、寝てます、コレ」
「はぁ……」
思わず顔に手を当てる。
何をやってるんだ、本当に……
いや、待てよ。
「なあ。ここ数日の、センのダンジョン入出場記録見れるか?」
「あ、はい。確認します」
社員の一人に調べてもらい、記録を見る。
「……ここ1週間ほど、出場が22時前後になってますね」
「完全に働きすぎだ。まったく……おい、センを休憩室で寝かせてやれ」
「あ、じゃあ俺が運びます」
レオがセンを担いで会議室を出て行く。
何をやっているんだ、あいつは。また過労で倒れる気か?
起きたらまたきつく言っておかないと。
sideセン
「……寝てた」
起き上がると休憩室のソファだった。
体には毛布が掛けられ、缶コーヒーが机に置かれている。
会議は……とっくに終わっているな。
はあ。まあ、仕方ないか。
「起きたか。心配させやがって」
「ん、社長」
「お前、次からダンジョンは絶対定時までに帰ってくるように。分かったな」
「え」
休憩室に顔を覗かせた社長が強く言い放つ。
……怒ってるのか?
「対策も考えている。身から出た錆だ、甘んじて受け入れろ。来週から頼むぞ」
「対策……来週?」
それだけ言って休憩室を後にする。
何のことだかわからないが……来週に何があるというんだ。
社長が去って行く足音と反対に、こちらに近づく音が聞こえる。
「失礼します……あ、センさん。丁度よかった」
「ああ。なんだ」
田島さんか。査定になにか問題でもあったのだろうか。
「査定終わりました。あ、これお返しします。で、そのカードなんですけど……」
「なにかあったのか?」
預けていた探索者カードを受け取る。特に何も変わった所は……ん?
「ランクポイント、もう貯まっているみたいなので、また更新に行ってください」
「……Aか」
「はい……めちゃくちゃ早くないですか?ソロの方が経験値効率は良いと聞いたことはありますが……」
パーティの方が受け取る経験値……倒したときに得られる魔力が分散されて、取得できる量が若干減るらしい。
ソロでここまで戦っている奴もそうそういないので半ば机上の空論のように言われているが。
「わかった。また今度更新しておく」
「よろしくお願いしますね。あ、あとこれ。お菓子、よかったら食べてください」
「ん、ああ。ありがとう」
お菓子の小袋を受け取ると、田島は部屋を出て行った。
……ちょっと探索を張り切りすぎたか。
さすがに少し反省する。
しかし、社長の言っていた、来週から頼むぞ、って……いったいなんなんだ?




