夜
食事を終え、部屋に戻る。
何人かの酔っぱらった社員たちはまだ宴会場で騒いでいたが、まあすぐに部屋へ叩き戻されるだろう。
「モモ、センと同じで飲んでも顔に出ないねー」
「今日はあんまり飲んでないからだよ」
「前に飲み会行ったときはセンさんふらふらになってましたもんね!」
「もう、あんまり言わないで……」
あの日はつい飲みすぎただけだ。いつもはあんなじゃない。
綺麗に敷かれた布団でそれぞれが寝る準備をする。
私は……そうだ、薬を飲まなきゃ。忘れるところだった。
「あ……そっか。まだ通院してるんだっけ?」
「うん。あでも、実は通院は前からなんだ。教師だった時から……」
「そうだったんですねぇ。まあ学校の先生って大変だと聞きますからねぇ」
「え、モモさんって先生だったんですか!?」
前職を知らない田島さんが目を丸くする。
確かに教員が探索者に転職するって結構珍しいかもしれない。
「そういえば知ってる?レオって前は消防士だったんだよ!」
「そうなんだ。知らなかった」
「あたしはバイト目的でダンジョン潜り始めたんだけど、ルナは……看護師志望だったっけ?」
「ええ。看護師専門学校を出ていますねぇ」
「私は普通に文系大学出て事務員に就職……なんか地味ですよね」
皆の知らない過去の話をする。
意外な話も飛び出してきて、思わず聞き入ってしまう。
こうして皆の話を聞くのも悪くない。
ひとしきり話終わったところに、ミナがあくびをひとつ。
「あ、もうそろそろ寝ましょうか。ミナ、今日ははしゃいでいたし疲れてるんじゃないですかぁ?」
「ふぁ……そうかも」
「なんだか私も眠くなってきちゃいました……」
おやすみ、と声を掛けて布団へ潜る。
旅館特有の固い蕎麦枕へ頭を預ける。
……
別に、つらいわけじゃない。
けれど考えてしまう。
どうすればよかったんだろう。
あのまま先生を続けていたらどうなっていたんだろう。
センは、生まれなかったのかな。
考えても仕方のないことだ。
気づけば皆の寝息が聞こえる。
そっと布団から抜け出して障子を開く。
窓の外を見ると、月の光が夜の海に反射してきらきらと輝いていた。
椅子に座り、ぼうっとその様子を眺める。
「眠れないんですか?」
「あ……ルナ」
ルナがささやく声で話しかける。
「モモさんは、とっても真面目で責任感が強いんでしょうねぇ」
「……そうかな」
「そうですよ。自分を責めてしまうほどに、ね。それはセンさんを見ていても思います」
「え?」
「ルールはきっちり守りますし、やるべきことはちゃんとやる。モモさんも一緒です」
「……」
「もう十分頑張っていると、私は思いますよぉ」
思わず視線を手元に落とす。
ルナは優しい声で話し続ける。
「少しくらい、わがままになってもいいんじゃないですかぁ?」
「……」
「それに、今こうしてあなたと出会えたのも、過去のモモさんが頑張ったからじゃないですかぁ」
「……そうだといいな」
ルナを見ると、穏やかな笑みを浮かべている。
思わず私も少し笑ってしまう。
「……ありがとう、ルナ」
「いいえぇ。あ、どうせならセンさんのまま眠るのはどう?少しは眠りやすいんじゃないかしらぁ」
「そうしようかな。ごめんね、女部屋なのに……」
「気にしないでください。皆もそう言うはずですよぉ」
ゆっくりと立ち上がり、センになる。
「うふふ。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
布団へ戻り、瞼を閉じる。
今度はちゃんと眠れそうだ。




