旅館
「ふぅ~!広―い!景色もめっちゃいいじゃん!」
「おい、荷物を持って入れ」
「4人部屋なんですねぇ。にぎやかになりますね」
「うわ、本当だ。広い!」
夕方、旅館に来てチェックインを済ませた。
女性陣ということで、俺を含めたミナ、ルナ、査定班の田島さんが同室になった。
ミナに持たされていた荷物を部屋へ運び込む。
綺麗な和室だ。部屋の中の障子を開けると海を一望できる絶景が広がっていた。
丁度、水平線へ半分ほど太陽が身を沈ませている。
ミナは夕日に染まる海を動画に撮っている。
「そういえば、この宿は露天風呂があるらしいですね!」
「センはどうするの?モモに戻る?」
「ああ。さすがに風呂トイレはいつも桃だな」
荷物を解きながら話す。
「てかセンの鞄ずるーい!めちゃくちゃ物入るじゃん!」
「重さはどうなってるんですかぁ?」
「気にならないな」
「それ、いつもそこから大量の素材出てくるからびっくりするんですよね……」
風呂の準備をして桃に戻る。
海風にさらされたせいか髪がギシギシする。早くお風呂に入りたいな。
「わ、急に変身した……びっくりしたー」
「普段寝る時はどちらで寝るんですかぁ?」
「うーん、まちまちかな。最近はセンの方が多いけど」
「本当に同一人物なんですね……昼間に鎌を振り回してた人と同じなんて……」
早めに風呂に行こうということで、お風呂セットと旅館の浴衣を持って廊下へ出る。
同時に隣の部屋が開き、ノア、レオ、松下が出てくる。
私達と同じく手にお風呂セットを持っている。
「お、お前らも風呂か」
「そうだよ!一緒に前まで行く?」
「あれ、モモさん。そうか、元々女性だもんな……風呂は当然そうか……」
話をしながら三人と風呂場の前まで一緒に行き、暖簾の前で別れる。
仕事内容的にセンでの出勤が多いため、桃の姿を見ると未だに少し驚かれることがある。
更衣室で服を脱ぎ、風呂場に入る。
立派なお風呂だ。広くて明るい。
時折かぽーんと桶の音が鳴っている。
「わぁ……」
「早く来たおかげか、ほぼ貸し切り状態ですねぇ」
「私、露天風呂行ってみたいです!」
各々シャワーを浴び、せっかくだからと露天風呂へと向かう。
湯船につかり空を見上げると、満天の星空が広がっていた。
息をついて見ていると、ミナが声を掛けてくる。
「……こうやって見るとさ、モモ、めっちゃスタイル良くない?」
「え?そう?」
「センさんの影響でしょうか、結構筋肉ついていますねぇ」
「それ思いました!ジム通ってる人みたいな!」
そう言われたらそうかもしれない。
たしかにここ数か月で全身が引き締まった感じがする。
「それに、センの傷跡ってモモにも引き継がれるんだね……」
「うん、そうだね」
センと同じ場所に同じ傷跡が付いている。
同じ体なのだから当たり前だけど。
三人は顔を見合わせた。
「ま、まあそんなに気にしないでよ!大したことじゃないから……」
「モモがそう言うなら……いいけど」
「怪我したらちゃんと言ってくださいねぇ」
「黙ってるの見つけたら、私もルナさんに言いますからね!」
田島さんまで……別に隠してるつもりはないんだけどな。
その後しばらく四人でおしゃべりをする。
たまにセンへの苦情が飛び出すこともあったが、普段お互いの仕事中では聞けない裏話なんかもあって楽しかった。
状態異常耐性の話になった時は何も言い返せなかったけど……
のぼせる前に風呂から上がり、浴衣を着て部屋へ戻る。
「あれ?モモ、眼鏡なんだ」
「あ、うん。結構目が悪くて」
「そうだったんですねぇ。普段はコンタクトを?」
そういえばみんなの前で眼鏡をかけるのは初めてか。
少し大きめの黒ぶち眼鏡。かけていないと誰が誰だか分からなくなってしまう。
部屋でのんびりと過ごしていると、扉の向こうから声が掛かった。
「宴会場で食事だってよ。早く来いよー」
顔を見合わせ、部屋を出る。
既に何人かが席へ座り、私達を含む社員が来るのを待っていた。
目の前には普段食べられない豪華な食事。
海も露天風呂もそうだけど、いつもと違うことばかりだ。
朝は行けるか不安だったけど、来ることができて本当に良かった。




