旅行
「全員乗ってるなー?じゃ、出発するぞー」
社員旅行当日。
わいわいと賑わうバス。
炎天下の中、海へ向かい走り出す。
……結局、今日は桃の調子が悪く、俺で来ることになった。
「いや~、楽しみっすね!」
「そうだな」
「あれ、なんか疲れてます?もしかしてあんま寝れなかったとか?」
「……まあな」
バスで隣に座ることになったのは、俺より1か月前に入社したほぼ同期の同僚、松下だ。
いつもテンションが高めで、他の社員に可愛がられているのをよく見る。
「ねー、セン!水着、持ってきてるよね?忘れたとは言わせないよ!」
「……ああ」
通路の向かいからミナの声がとんでくる。
水着は社員旅行のお知らせを見た後、ネットで適当に買った。
本当に俺で来ることになるとは思わなかったが。
「あ、センさん。僕お菓子持ってきたんすよ。食べます?」
「ん、貰う」
いそいそと鞄から袋を取り出す松下。
他の座席の者も自由に過ごしているようだ。
「僕、実はセンさんってもっと怖い人なのかと思ってました。でもモモさんはそんなことなかったし、案外優しい人だってわかったんす」
「そうか」
「あでも、選手権、めちゃかっこよかったっす!僕は全然戦うとかできないすけど……センさんは凄いっす!」
「……そうか」
「けど暑さには弱いんすね。僕も暑いのキライっすけど。センさん最近よく休憩室で溶けてるっしょ」
「……ああ。暑いのは苦手だな」
桃だとある程度耐えようとはするんだがな。俺はそういうタイプじゃないらしい。
バスが揺れるのに身を任せ、他愛のない話をする。
窓の外の景色が流れていく。到着まではまだ時間が掛かりそうだ。
……少し、寝るか。
sideアークマテリアル
「……で、僕その時めちゃくちゃ焦ってたんで……センさん?」
「……すー……」
「ん?あれ、セン寝たの?」
見るとセンは肘を窓際につき、眠っていた。
ミナはおもむろにスマホを取り出し、その様子を写真に収めている。
「……まだ、たまにモモさんは眠れない時があると聞きましたから……今日センさんで来たのもそれが理由でしょうねぇ」
「え、そうなんすか、先輩。僕めっちゃ話しかけてたけど邪魔だったっすかね」
「本当に嫌だったらセンははっきり言うよ。大丈夫だって!」
その後、バス内はレクリエーションや会話で盛り上がるが、センは眠ったままだった。
あまりにも静かに眠る姿に、生きているか確認しようとする者が現れるほど熟睡していた。
「センさん?センさーん。起きてくださいっす!もう着きましたよ!」
目的地に着き、松下がセンを揺り起こす。
ゆっくりとセンはまぶたを開き、やっと状況を理解する。
「……寝てた」
「寝ていましたねぇ。おはようございます。体調大丈夫ですかぁ?」
「ああ。大丈夫だ」
ルナの健康チェックが入り、センが最後にバスを降りる。
社員たちの目の前には、どこまでも続く青い海が広がっていた。
「ようし、皆いるな?とりあえず着替えてこい。場所は、そうだな……あのあたりが空いているな」
それぞれ返事をし、ぞろぞろと更衣室へと移動する。
既に水着を着てきている者たちは、社長と共にビーチへ向かった。
さんさんと照らされる太陽。まさに海水浴日和といった天気の中、パラソルを立て拠点を作り上げる。
待ちに待った休暇が始まる。




