後遺症
「……そうですね、身体的にはもう問題ありません」
「そうか」
「ええ。薬剤の影響もほとんどないですね。精神科へはもう行かれましたか?」
「ああ、行った。薬を出されたな」
数日が経ち、病院で検査を行った。
体はもう大丈夫なようだ。
たまに夢見が悪くなることはあるが、問題ない範囲だ。
「それと、あとひとつだけあるんですが」
「なんだ」
「どうやら保有する魔力量が少し増えているようですね」
「……ああ、やっぱりか」
誘拐事件の後、何となく感じていた。
『真導の会』の神が体に入ってきたとき大量の魔力を扱っていたし、そのせいだろう。
だが、訓練を積んだわけではない。ノアやルナのように繊細に扱うことはできないだろう。
「他に何か、違和感などあればすぐにおっしゃってください」
「わかった」
退院は明日だ。
体が鈍りそうでむず痒い気分になる。
自分の病室へ戻り、ベッドへ腰かける。
「魔力、ね」
禍津蜘蛛の感知能力のおかげで感じることはできる。
操作方法など全く知らないが。
……そういえば、神に成って戦っていた時、空間を歪めるようにして攻撃を避けていたな。
どれだけ多くの武器で襲われても、体を動かすことなく空間に飲み込まれるように武器が消えていた。
思いつきで手を前に出し、あの時の感覚を再現しようとする。
……
ニュッ
「……?」
見間違いかと目をこする。
もう一度前を見る。
そこには、黒く艶のある蜘蛛の脚のようなものが何もない空間から飛び出していた。
引っ込めようとすると、俺の意思通りに消えてなくなる。
もう一度出す。
動かそうとしてみる。
脚は思い通りにわきわきと動いている。
「……禍津蜘蛛、と……あの妙な空間魔法、か?」
俺は魔法の使い方なんて知らない。勉強したこともない。
これは……なんなんだ……?
「魔法の理論を知らないのに魔法を使う……?」
「聞いたことがありませんねぇ……?」
見舞いに来たノアとルナに先ほど起こった現象を説明する。
「それは、空間魔法だけを使うことはできますかぁ?」
「いや、試したが無理そうだった」
「うーん、君の、マガツグモ、だったか?それと反応しているんだろうけど……」
二人の前で蜘蛛脚を動かして見せる。
二人の目は右へ、左へと自在に動く脚先を追いかける。
「あの神に成っていた時間が長かったから、魂に直接刻み込まれた……?いや、でも」
「でもそう考えるしかありませんねぇ。一種の後遺症みたいなものでしょうかぁ」
「後遺症……」
どうやら俺は蜘蛛脚を自在に扱うことができるようになったようだ。
具体的な理論は分からないが……
案外便利かもしれない。
離れたところにあるコップを蜘蛛脚に取らせ、自分で受け取る。
「なんか……すでに使いこなしていないか?」
「ものすごく自然に扱っています……」
「まあ、使えるものは使えばいい」
呆れた顔をする二人。
かまわず飲み物を飲むセン。
蜘蛛脚が空になったコップを静かに机へ戻した。




