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……これで何度目だろうか。

もう回数を数えるのはやめた。

瞼を閉じると教室が浮かぶ。

睡眠もまともに取れない。

恐らく俺は今、ひどい顔をしているだろうな。

注射される回数は増え、薬の種類も増えた。

……誘拐されてからどれほど経ったのだろうか。

今が昼なのか夜なのか……昼夜の感覚が完全に無い。


「調子はどうでしょうか?神の子よ」

「……」

「フフフフフ……!良いですねぇ、その目!あぁ。もうすぐ。もうすぐです!」

「……うるさい」


頭に響く。

仮面の野郎は大げさな身振りでこちらに話しかける。


「さあ、あとは仕上げです。楽しみですねぇ!」

「……」


二人組がまたやってくる。

手にしていた薬剤は、見慣れたものではなかった。

……色が違う。

抵抗する気力もなく、注射される。

……しばらく待っても意識は遠のかない。

代わりに、なんだか……ふわふわとした感覚になる。

ぼうっとする頭。

気が付くと椅子の拘束が外され、立ち上がっていた。

手には新しく錠を掛けられる。

白装束に手を引かれ、白い部屋から連れ出される。

うなだれながらゆっくりとどこかへ誘導されて行く。

ぺた、ぺたと裸足で歩く音が反響する。


気が付くと、大きな広間の中央にいた。

顔を上げると周囲には白装束の人々がずらりと並んでいる。

再び足元へ目を落とすと、巨大な魔法陣が描かれていた。


「ああ、我らが同胞たちよ。ついにこの時が来ました!我々の神が降臨される、この時が!」

「……」


仮面の野郎がなにやら演説をしている。

頭が働かない。

足元がおぼつかない。

何かが聞こえる。魔法の詠唱だろうか。

……うるさい。

徐々に、足元の魔法陣に魔力が集まってくる。

ああ、これは。離れた方が良いだろうか。

うまく体が動かない。

そうこうしているうちに魔力の気配は高まってくる。


「―――――」


あ。

何か来る。

そう思った。

どろり、と体の内側へ何かが流れ込む。

濃密な魔力の塊。

気持ちが悪い。

瞬きをした。

……


「あ、ああ。ああ!神よ、降臨なされたのですね!美しい瞳だ……い、今すぐその手錠を外しましょう!」


何を言っているんだ、と仮面野郎を見ようとする。

……体が、ピクリとも動かない。

ガシャンと音がして手首の圧迫感が無くなる。

不意に片腕を振り上げる。

腕は仮面野郎に当たり、吹き飛ばす。


「あ、あ……神よ、何故……!?我々はあなた様を――」


仮面野郎の言葉など意に介さず、俺の体はひとりでに動き出す。

ゆっくりと周囲を見渡していく。

ふと、宙を見つめる。

体から魔力が練り上げられていくのが分かる。

瞬間、轟音と共に屋根と壁の一部が吹き飛んだ。

自分の体なのに制御できない。

俺の体の奥の、もっと根本的な部分に何かが居座っている。

次は何をするつもりだ……

止まれ、これ以上、この体で勝手なことをするな……!



sideアークマテリアル


夜。

山の中、特殊装備を着た警察と複数の探索者が集まる。その中にはレオ達のパーティもいた。

視界の先には『真導の会』のものと見られる施設がある。


「号令とともに突入する!各パーティ、準備はいいな……なんだ!?」


突如、轟音が山の中に響く。

見ると施設の一部が破壊され、中が窺えるようになっていた。

突然の事態にざわめきが広がる。


「……おい、あれ……センじゃないか?」

「え!?どこ!?」

「本当だ、センだ。無事だったんだね!」

「待ってください、なんだか様子がおかしくありませんか?」


姿形はセンだ。間違いない。だが……何かおかしい。


「全パーティ、戦闘準備!前進せよ!」


号令に合わせて破壊された場所へ近づいていく。

施設を包囲し、センへスポットライトが当てられる。


「目標確認!直ちに保護せよ!」

「セン!こっちだ!助けにきたぞ!」


声を掛ける。しかし反応は無い。

こちらを見ようとする素振りすら見せない。

それにとんでもない魔力を感じる。


「セン、じゃない……あいつの動き方ではない」

「な、どういうこと!?」

「あ……眼が。違います……」

「金色の瞳……いったい何が」


センはぺたぺたとゆっくり前進する。

まるで周囲の人間など目に入っていないかのように。

いや。実際に目に入っていないのだろう。


「……ひ、ヒィッ!?」


銃を構えていた警官が近づくセンに怯える。

極度の緊張から手が震え、銃のトリガーに触れてしまう。


パァン


乾いた音が鳴り、銃弾はセンの頬を掠めて飛んでいく。

その瞬間、ぐるり、と目が動き、警官を捉える。

ゆっくりと右腕を上げ、その警官へ向ける。



ドオォォォオン――――



手のひらから詠唱もなしに魔力の塊が飛び出す。

衝撃波が放たれ、地面を抉る。

警官は吹き飛び、地面をはねていく。

途中、特殊装備の防衛機構が働くのが見えた。

センは、興味を失ったかのようにふいと視線を外し、歩き始める。


「いったい、どうしちゃったの……?」

「まさか、センさんが神になった……?」

「そんな。どうやって止めるんだ。あれは、止まるのか?」

「止めるしかないだろう!このまま放っておくわけにはいかない」


絶望的。

そんな言葉が浮かび上がる。

センはもう保護対象ではなかった。

――鎮圧対象だ。


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