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不穏

「ちょっといいか、セン」


朝、出社するなり社長に呼ばれる。

会議室へ通されると、中にはレオがいた。

軽く挨拶を済ませ、センも席へ座る。


「朝からすまない。少し話しておきたいことがあってな」

「いえ、何かあったんですか?」

「ああ。はっきり言おう。しばらくの間、センはレオのパーティに同行してくれ」

「レオに?なぜ」


突然の命令。それは入社したとき以来のパーティへの同行だった。


「最近、高ランク探索者が失踪しているという話は知っているか?」

「はい。ニュースでも話題のやつですよね」

「そうだ。実は、うちと提携している会社で雇っていたBランクの探索者が失踪してな」

「え、また増えたんですか」


レオも俺も同じBランク。できるだけ固まって動け、ということだろう。


「……事情は分かった」

「そうか。では頼む。いつまで続けることになるかはまだ分からないが……」

「分かりました。俺らも気をつけます」


レオと顔を見合わせ、席を立つ。

案外近い所で事件が起きていたんだな。

会議室から出て、待機していたパーティと合流する。


「おかえり。なんの話だったの?」

「センがしばらく俺らと一緒に行動することになった」

「あらぁ。それは少し安心ですねぇ」

「ふむ……もしかして例の失踪事件と関係あるのか?君たちも高ランク探索者だしね」

「まあそんな所だ」


話しながらいつものようにダンジョンへ向かう。

そういえばパーティとしての動きをちゃんと見るのは久しぶりだ。一緒に動画を撮影して以来か。

ミナが敵の気配を感知し、罠を解除する。

戦闘ではレオとノアが連携して敵を倒していく。

ルナは回復や補助の魔法を使っているようだ。


現れる敵を倒しながら奥へ進む。

常に周りに人の気配がある。いつもと違う感覚だ。

誰の気配なのか判別しづらい。

慣れないままパーティの後ろをついていく。


「んー?なんかこの辺あるね。におう。すぐ死ぬ系じゃないと思うけど……」

「罠か。気をつけて進もう」


ミナが何か感じたようだ。

一人なら自分以外の感覚がはっきりとわかるが、今は複数の気配が近くにありよく分からない。


「あー、そこの床かも。避けて歩いて……って!」

「あ」

「え」

「あら」

「ん、なんだ」


ぼんやりと前へ足を出す。

ぐに、と嫌な感触が足裏に伝わった。


「あ」


やらかした。

次の瞬間、足元からガスが噴き出した。


「う、なん、だ……」


体がぐらりと傾く。力が入らない。

思わず壁に手をつくが、そのままもたれかかる。


「っ、おい!」

「レオ、嗅がないで!」

「催眠ガスか?セン!」

「う、私も少し、吸ったかもですぅ」


皆が近寄ってくる。

しかし耐え難い眠気に襲われ、センの意識は途絶える。




「……ん……」

「お、起きたか」


目を覚ます。

もやがかかったような感覚がする。


「ここはセーフゾーンですよぉ。体調どうですか?」

「回復に思ったよりかかったね」


ちょろちょろと水の流れる音がする。

あたりを見渡すと、噴水のある広場のようだ。


「すまん、寝ていた」

「催眠ガスだったから良かったけど……センって普段どうしてるの?」

「いつもなら感覚でわかる。今日は人が多かったからな」


自分が思っていたより一人での感覚に慣れきってしまっていたことに少し驚く。


「それにしても……もしかしたらセンさんは少し状態異常の耐性が弱いのかもですねぇ」

「そうだね。僕も言おうと思ってた」

「そうか?」

「ええ。私も少しガスを吸ってしまったんですが、ほぼ影響が無かったんです。それにセンさんが起きるまでも少し時間が掛かりましたし」


いままであまり罠にかかったことがなかったから分からないな。


「もしくは寝不足とか?睡眠系にだけ弱かった可能性もありますが……」

「……どうだろう」


結局その話はそのままに、奥へ向かうことになった。

先頭はミナとレオが歩き、次いでノア、ルナ。最後に俺が殿を務める形で進む。

途中、大きな羽虫のような魔物が現れる。足に鉤爪がついて危なそうだ。


「う、今日は敵が多いなあ!しかも面倒なやつ」

「文句は後にしろ。攻撃はくらうなよ!」

「ちょっと数多すぎないか!?ああもう、まとめて炭にするぞ!」

「センさん、頭を低く!」

「ん、こうか」


ノアの詠唱が終わり、光が走る。直後、轟音と共に稲妻が敵の間を走り抜け、次々に倒していく。

さすがだな。やはりノアの魔法は威力が桁違いだ。

若干耳をやられつつ、進行方向を向く。

まて。

ノアに近づく虫が一匹。ノアは気が付いていない。

間に合うか?

虫の鉤爪がノアに当たる直前。

地面を蹴り、前に立ちはだかる。


「ぐ、このっ」


虫は鎌に裂かれ真っ二つになる。

かばった時に腕をかすったが、まあ大丈夫だろう。


「セン!大丈夫か!」

「ああ、だいじょ……あ?」


大丈夫、そう答えようとしたその時。

たらり、と鼻血が出る。

後を追うように腹から不快感があふれ、思わず咳が出る。


「ガフッ、ゲホッ……」


抑えた手を見ると血で赤く染まっていた。

仲間たちが顔色を変える。ルナが駆け寄ってきた。

膝をつき、襲い来る不快感に耐えていると、優しい光が降り注ぐ。


「これはさっきの魔物の毒ですぅ。即効性がありますので、少し動かないでくださいねぇ」


しばらくして不快感が収まり、鼻血も止まる。

腕の傷も治療された。


「これは……セン、お前よく一人でダンジョン潜れていたな」

「うーん、多分今まで全くと言っていいほど攻撃や罠をくらうことなく来たんだろうね」

「あたしもびっくりだよ……」

「センさん……あなた、状態異常に弱いんですねぇ」

「そうなのか……」


今まで罠にかかることがほとんど無かったから気付かなかった。

どうやら俺は状態異常に弱いらしい。

先刻の睡眠ガスもそうだが、これからは少し対策した方が良いかもしれない。


「ひどい目に遭った」

「普通に探索者してたらもっと耐性ついていくはずなんだけどね」

「回避能力が高すぎるのも考え物だな」

「今日はもう帰ろうよ」

「そうですねぇ。収穫はそれなりにありますし」


やはり急に普段と違うことはするものじゃないな。

……とはいえ、失踪事件が片付くまでは仕方ないか。

はやいところ事件が片付いてくれればいいんだが。


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