噂
今日は一般のダンジョンに来ている。
いつもと違う魔物、いつもと違う素材や魔石。
なんでも会社で新商品開発を試みているようで、色々な素材を持ってきてほしいと言われた。
「よし、こんなもんか」
目に映る魔物を片っ端から倒し、素材を回収する。
時折珍しい鉱石が壁や岩場に埋まっているので、それも採取していく。
鉱石を運ぶ時なんかは、高価だったがこの鞄を買っていて良かったと思う。
入る量は無限ではないものの、重さを感じることはほぼない。本当に便利だ。
ダンジョンの出入り口でカードをかざし、出場記録を取る。
一般のダンジョンは、持ち出した素材の査定をその場で行わなければいけないため、隣接している査定場へ向かう。
「アークマテリアル所属のセンだ。これ、頼む」
「はい、承りました。しばらく掛けておまちください」
カードと素材を渡して待合席で査定の様子を眺める。
「あ、あの……もしかして死神のセンさんですか?」
「ん?……そうだが」
横から見知らぬ男に声を掛けられる。
見ると3人パーティだろうか。若い男女がそわそわとした様子でこちらを見ている。
「!本物だ……選手権見てました!めちゃくちゃカッコよかったです!あの、サインとか……お願いできますか?」
なるほど、選手権で増えたファンってところか。
サインか……
「サインは無いから書けない」
「あ……そうでしたか。じゃあ、あ、握手とか……?」
「まあ、それなら」
3人は手を服で拭き、若干震えた様子で差し出す。
センは端から掴んでゆき、無造作に握手する。
そんなにかしこまらなくてもいいのに。
「ありがとうございます!うわ、ほんとに握手してもらっちゃった……」
「「ありがとうございます!」」
「ああ」
男の後ろにいた女が恐る恐る聞く。
「あー、写真とかって、だめ、ですかね……?」
「写真?……面倒だ」
思わず眉が寄る。
セン自身はただ面倒なだけだが、桃的には写真がものすごく苦手なのだ。
写真と聞くと反射的に身構えてしまう。
「センさん、査定が終わりました。受付までお越しください」
「……すまんが、もう行く」
「あ、いえ。ありがとうございました!応援してます!」
「ああ」
素材を受け取り、3人のファンを後にする。
……なんだかいつもより視線が多い。やはり選手権の影響か?
居心地悪く思いながら会社へ向かう。
「ただいま。外部の素材だ」
「あら、センくん。おかえりなさい。怪我してない?」
「お疲れ様です。確認しますね」
社内での査定も行う。
近くにあった適当な椅子へ座り、結果を待つ。
「そうなんだよー、また増えたんだよ!さすがにヤバくない!?」
「これで3人目ですもんねぇ……それも高ランクの方ばかりなんですよねぇ?」
「そう……あれ、セン。帰ってたんだ。おかえり!」
「あ、お帰りなさい」
ミナとルナが飲み物を片手に歩いてくる。
「ああ。ただいま」
「ね、セン。聞いた?連続失踪事件の話!」
「連続失踪事件?」
「え、もしかして知らないの!?」
「……うちにテレビはないしニュースもあまり見ないな」
しょーがないなー、と言いつつも少し嬉しそうなミナ。
話したくて仕方なかったんだろうな。
「数週間前から3人の探索者が行方不明になってるんだよ。それもBとかAの高ランク探索者!」
「ふむ」
「警察ももちろん動いてるけど、まだ詳しいことは分かってないんだって。噂では宗教団体とか謎の実験施設が関わってるー、みたいなこと言われてるの」
「近接戦闘に長けた人もいなくなっているみたいですし、誘拐だとしたら相手はかなりの実力者ってことになりますねぇ」
失踪、ねえ。そういえば少し前に査定班の人達も何か話していたな。
「とにかく!センも高ランク探索者なんだし、気をつけてよね!」
「ええ。身の回りに気を配ったほうが良いかもしれません」
「……どう気をつけろと」
物騒な話もあったものだ。
話しているうちに査定は終わり、そのまま帰宅する。
帰りにスーパーに寄り、食料品をいくつか買って帰る。
……レジの店員に二度見された気がするが、気のせいだろう。




