サイン
選手権が終わり、日常が戻ってくる。
久しぶりの会社。いつも通り出勤する。
「お、セン遅かったな、おはよう」
「おはようございますぅ」
「ああ、おはよう」
「あ!丁度いい所に!セン、こっち来て!」
休憩室から身を覗かせたミナが呼ぶ。
朝からなんだ。なにかあるのか?
部屋へたどり着くと、ぐい、とミナにメモとペンを押し付けられる。
「センってサインある?書いてよ!」
「……サイン?」
見ると、パーティの皆が輪になって文字を書いていた。
「選手権の行きの新幹線でもねだられたでしょ?あたしはともかく、センとレオは有名人なんだからサインのひとつくらいあってもいいなーって」
「いらない。書かない」
「そんなこと言わないでさー」
無理やりソファに座らされ、ミナは勝手に俺のサインをあれこれ考え始める。
……サイン。サインか。
「……あるにはあるけど」
「えっ、ほんと?見せて見せて!」
「センさんのサイン、ですかぁ?」
「少し興味ある」
「お前無いって言ってなかったか?」
皆が注目する中、ペンをさらさらと走らせる。
『momo』
「あ……」
「なるほどぉ」
「学生の時考えたとか?」
「いや、生徒にねだられたからその場で適当に考えた」
「生徒?」
そういえば言ってなかったか。うっかりしてた。
「ああ。俺の前職は教師だ」
「は?」
「……!?!?」
「え、冗談、じゃないよね」
「まあ……そうだったんですねぇ」
そんなに驚くことか?
目を白黒させているレオが俺を見てつぶやく。
「何を……教えていたんだ……?」
「音楽」
レオとノアはどこか遠い目をしている。
「……あっ、そうか。だからモモは歌うまかったんだ!」
「そうだったんですねぇ」
うんうんとうなずくミナとルナ。
「あ、モモ……。そうか。モモか、そうだよな……」
「ああ、モモの方か……」
徐々にレオとノアの目に光が戻ってくる。
いったい何を想像してたのやら。
「まあ、俺のサインはいらない。面倒だ」
「えぇー」
残念そうにするミナ。
「あれ、まだいたのか。早くダンジョン行って来いよ」
「あ、社長。電話はもういいんですか」
「いやまだ掛かってくるよ。レオとセンのおかげでな」
そう言い残して慌てたように立ち去る社長。
毎日様々な所から仕事の話が山ほど掛かってくるそうだ。
「うれしい悲鳴ってところか。さて、もうそろそろダンジョン行くか!」
「はぁーい」
「うふふ、さ、片付けましょうか」
「あ、まって……僕も片付ける……」
選手権が終わってやることがサインの練習とは。
桃ならともかく、俺はやる気はないな。
そんなことを考えながらダンジョンへ向かう。




