響鳴
圧倒的な強者としての威圧感。
聖獣……と言ったか。なるほど。
カナタが動く。速い。光の軌跡を残して剣を振るう。
鎌の柄でなんとか受け止めるが、重い。とてもじゃないが何度も受け止めきれない。
「どうした、なぜ出さない。お前も持っているんだろう?」
間一髪のところでカナタの剣をよけ続ける。先ほどよりも剣筋が鋭い。このままでは……
先ほどの戦闘を思い出す。
確かに禍津蜘蛛はどこまで制御しきれるか分からない。
どうしても「愉しく」なってしまう。
……やるしかない、か?
後ろへ大きく飛びのき、カナタを正面に見据える。
深呼吸をひとつ。
胸が高鳴る。
獲物がいる。
「……は」
愉しイ。
深く、一歩を出し、沈み込む。
センの姿がぶれる。
次の瞬間、カナタの背後に現れる。
「な、」
「ッハハ」
嗤いながら鎌を振るう。
反射的に剣を合わせるカナタ。だがセンは止まらない。
人間の動きではない。速さも、反射能力も、何もかも。
「っ、やはり、暴走しているのか……?」
「ックハハハハ!」
センの赤く光る瞳孔はカナタを見ているようで見ていない。
ただ獲物をいたぶること。そして快楽を得ることしか眼中に無い。
それにさっきまでは完全に避けられていたカナタの剣が当たる瞬間がある。
同様にカナタにも傷が増えていく。
『セン選手、様子が変わりました!先ほどまでは違い、カナタ選手へくらいついています!まさか、セン選手も魔人化持ちなのか!?』
(ああ、愉しい。痛みすら愉しい。)
ちくり、と何かが引っかかる。
何かは分からない。
「……受けて立とう。君を倒してみせる!」
「……ハハハ」
血を流し、それでもなおぶつかる。
……疲れたな。ああ、連戦だったからか
ふと、心に思う。
もう何度目か分からない攻撃。急所にこそ当たっていないが、センの体はすでに傷でいっぱいだった。
少し思考がそれたからか、隙ができる。
「……ここだ!」
カナタの持つ剣が光り輝く。魔力が集まっているのが分かる。
これを受けたら死ぬだろうな。
ぼんやりと他人事のように思考の遠くで思う。
死ぬ……俺が?それは……
……俺(私)は俺(私)を殺す者を許さない。
sideアークマテリアル
センがだらりと鎌を構える。
空気が震える。
はじめに違和感に気が付いたのはルナとミナだった。
「あれ、この感覚……」
「ルナ、こ、これって!」
「なんだ、なにかあるのか」
「このびりびりくる感じ……モモが歌った時と一緒……」
「何、モモだって?」
ゆっくりと顔を上げるセン。迫るカナタの剣を見据え、鎌を振る。
ひどくゆっくりに見えた。
鎌と剣がぶつかる。
エネルギーが衝突し、衝撃波が生まれる。
人々が見たのは光の奔流、そして、諦観、恐怖、怒りにも似た感情だった。
ピシ、パリ、と空間から音が鳴る。
観客席の前にある障壁に罅が入り、広がっていく。
それでもなお2人の衝突は続く。
『っ、試合、中断です!会場設備が持ちません、これ以上は命の危険があります!』
ブザーが響く。
剣を鞘に納め、カナタが言う。
「……少し、ムキになってしまったか」
「……」
2人の姿がもとに戻り、怪我が消える。会場は完全に沈黙している。
カナタが近づき、センに手を差し出す。
「決着をつけられなかったのは残念だが……戦ってくれてありがとう」
「……ああ」
カナタの手を取り握手をする。
パチ、パチと誰かが拍手を鳴らす。
それに続くように会場内は徐々に大きな拍手に包まれていた。
拍手に見送られるように舞台から降りていく2人。舞台袖は完全にパニック状態だった。
「僕は、もしかしたら君は魔人化すると元に戻れなくなるんじゃないかと思っていた。けど、そうじゃなかったんだな」
「まあ……一応は」
バタン、と舞台袖の扉が開く。アークマテリアルの皆がこちらを見つけて走ってくる。
「セン!大丈夫なの!?怪我は!?」
「ミナ、会場の設備で怪我は治ってるはずですよぉ」
「尋常じゃない戦いだったぞ、大丈夫か」
「君、魔人化の後遺症とか無いのか?」
大丈夫か、大丈夫かとまとわりつく面々に困っていると、後ろから社長が歩いてきた。
「ちゃんと、戻ってこれたんだな」
「……ああ」
「ならいい」
手を引かれるようにして舞台袖を出る直前。
「セン、君は……」
「?」
「君は、1人じゃなかったんだな。心配してくれる仲間がいる」
「……」
「僕が前に君に言ったことは間違いではないと思っている。けど、君はそれには当てはまらなかった」
センは体をカナタの方へ向ける。
「迷惑をかけた。僕はどうやら突っ走ってしまったみたいだ。すまない」
「いや、別にいい」
頭を下げるカナタ。その姿に内心ため息をつく。
面倒くさいことにならなくて良かった。
皆に囲まれながら袖を出て行くセンをカナタはじっと見つめていた。




