決勝 四戦目②
sideアークマテリアル
「あれ、セン。また止まっちゃった」
「なんか、顔色悪くねえか?」
「あんなセンさんの顔、初めて見ますぅ」
「……まさか。精神攻撃か……?」
真っ青な顔で立ち尽くすセン。
かろうじて鎌は持ってはいるが、構えることなく無防備に隙を晒している。
セイジはゆっくりと警戒しながら、レイピアを構えセンに近づく。
「ねえ、センどうしちゃったの!?センが負けちゃう!」
「……まずいな」
「何もできないのがもどかしいですね……」
「センを揺らす程の精神的攻撃……?」
sideセン
授業の始まりを告げるチャイムの音。
少し埃っぽい空気。
ずらりと並ぶ机。
そこに座る生徒たち。
センはその教室の教卓の前に立っていた。
「……これは」
教卓には伝えるべきことを箇条書きにしたメモ。桃の字だ。
後ろを見ると、黒板があった。
前の授業のものだろうか、薄くチョークの跡が残っている。
ふと。笑い声が聞こえた。
忘れたくとも忘れられない声。
思わず後ろを振り返る。
『せんせー、――――――!』
『お前、それは――――!』
あはは、と広がる笑い。
思わず視線を逸らすと、その先には真面目で勉強熱心な女子生徒がいた。
彼女は諦めたようにため息をついて目線を下に下げる。
ああ、あの時と同じだ。
どうして今になって。
傷ついた。導けなかった。何より助けられなかった。
心の中にどうしようもない無力感が広がる。
「なら、そんな過去見なければいい。……その方法が私にはある」
少し……ほんの少しだけ。
禍津蜘蛛。
この幻影を打ち破って。
sideアークマテリアル
誰もがセイジの勝ちを確信した、その時。
「っ、なんだ……!?」
「寒気が……」
「センさんの様子が、何か変です!」
「威圧……いや、殺気と言うべきか?」
会場に尋常ではない殺気が迸る。
それを真正面から受けたセイジは数歩後ろへ下がり、レイピアを持つ手を震わせる。
モニターに映るセンは、嗤っていた。
大鎌を引き摺るようにふらふらと前進したかと思うと、姿がぶれ、次の瞬間にはセイジの眼前に現れる。
一撃をなんとか受け止めるセイジ。しかしそこへ畳みかけるように様々な方向から斬撃がとんでくる。
レイピアを弾かれ、足がもつれる。服が裂ける。
受け止めきれず徐々に増えていく傷。
「なんか、センの目、赤くない!?」
「うん。どう考えてもいつもの様子じゃないね」
「なんだか、怖いですぅ……」
「太刀筋が荒いというか、首に限らずランダムに攻撃しているように見えるな」
あまりにも圧倒的な攻撃についに耐え切れなくなったセイジ。
「こ、こうさ……あ……?」
降参。その四文字を言い切る前に、セイジの首を落とすセン。
目の前の獲物が動かなくなったことを確認し、踵を返す。
ぐらり、と体が傾く。咄嗟に鎌に縋りつく。
「っ、はぁ……」
センの瞳孔は元の黒へ戻る。
危なかった。
でもなんとかなった。
発動していた時間は短時間だったが、幻肢痛があったことでより制御が難しかった。
そのせいでセイジへの攻撃も止められなかった。
「痛みも愉悦に変えるのか……」
そのまま息を整え、舞台袖へ戻っていく。
『なぁんと、予想外な結末でしたね!いったい何が起こったのでしょうか!セイジ選手の術が効いていたはずですが……!』
興奮した様子の実況を聴きながら袖にある椅子へ座る。
「試合、見事だったよ。ぼくの負けだ。……実はこの魔法は僕には何を見たかは分からないんだけど……君は一体何を見たんだい?」
セイジが声を掛ける。
「……昔のことを、少しな」
「そうか……ごめんね、試合とはいえ嫌なものを見たんだろう。申し訳ない」
「いや、かまわない。そういう作戦なんだろう」
恐らく見た者によってあの光景は変わるのだろう。
恐ろしい魔法だ。
2人は別れ、それぞれ席へ戻る。
「準決勝おめでとう。次はついに決勝だぜ?」
「セン!もー、ハラハラしたよ!最後のあれ何なの!?」
「お疲れ様です。体調、大丈夫ですかぁ?」
「おかえり、手ごわい相手だったね」
「ん、ああ」
心配していたと騒ぐ面々。
そうか、次はもう決勝戦……1位を決める戦いか。
「おい、セン。大丈夫か。まだ少し顔色悪いぞ」
「……大丈夫だ」
社長が横から声を掛けてくる。そんなに変な顔してるか?
「ならいいんだが……無茶するなよ」
「ああ、分かってる」
今回は少し暴走気味だったからな。
危なかった。
また次の試合が始まる。
決勝戦の相手はどんなやつだろうか。




