はじめてのダンジョン
突然だが、この世界にはダンジョンというものがある。突然異空間が生まれ、中には魔物や宝箱、ボスなんてのもいる。魔物を倒すと魔石や素材の一部を残して死体はダンジョンに吸収される。どうやらダンジョンは生まれたあとどんどん拡張して深くなっていくらしい。
なぜ突然そんなことを言い出したかというと、自分の目の前に現れた穴、ダンジョンがあるからだ。
「散歩してただけだったんだが」
あれから数日。
魂や人格も落ち着いてきた。
気づけば一人称や口調も、この体に引っ張られるようになっている。
何となく男性体のまま夜に散歩に出たコンビニの帰り。
「確かダンジョンを発見したときには報告義務があるんだっけ」
もしかしたら違うかもしれない。けど好奇心が勝った。街路樹のそばにあった木の棒とコンビニの袋を持って中へ入ってみる。
思ったより中は明るかった。じっとりとした空気感、何者かの気配。
「あんまり焦りはない……まあ当たり前か」
以前の自分ならばもっと緊張や恐怖していただろう。しかしこの体の魂にはとあるスキルが刻まれていた。
【不動心】。どうやらこの体は感情の揺れがあまり出なくなるそうだ。
動揺が無いのをいいことに奥へ進む。
反響する足音。その中に自分のものではない音が混ざる。何かが突進してくる。
「ッ、あぶな、っと!」
鼻先をかすめるように飛び退く。ウサギのようなネズミのような、よく分からない動物がこちらを見て唸り声をあげる。木の棒を振って応戦するが、なかなかすばしっこくて攻撃を当てられない。
「このっ!」
ブン、と思わず出した蹴りが魔物に命中し、そのまま壁にぶつかる。
魔物の動きが止まり、ゆっくりと端から溶けるように消えてゆく。消えた後には小さな丸いビー玉のようなものが転がっている。
「これが、魔石?たしか国に売れるって聞いた」
魔石。
エネルギーにも素材にもなるため高く売れる。
ダンジョン探索者にとっては重要な収入源だ。
「一応持っていくか」
持ってきていたコンビニの袋に入れ、また奥へ進む。
同じような魔物が何度か現れたが、蹴りや棒を当てたり、はたまた突進の動きを利用して壁にぶつけて倒す。
少し膨らんだコンビニ袋を手に進む。するとそこは行き止まりだった。
「ここが一番奥?思ったより浅いな」
桃は知らない。
このダンジョンは生まれたばかりだった。
部屋の突き当りには箱があった。近づいてみるとなかなか立派な箱だ。
「報酬の宝箱、ってところか。では遠慮なく」
ぱかり、と開けるとそこには無骨で大きな鎌があった。
「鎌か。重そうだな」
……いや、待て。
宝箱って開けた者と相性の良い物が出るんじゃなかったか?
ダンジョンはどういう意図で自分にこれを与えたのだろうか。
「俺に、探索者になれと……?」
誰に聞くでもないその言葉に答えるように、鎌は鈍く光った。




