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魂の分化

目が覚める。なんだかすごく長い時間寝たみたいだ。ああ、そうだ。仕事を辞めてスマホのアラームはもう切ったんだっけ。

……なんだろう、何か違和感がある。何となく思考がクリアな気がする。

体を起こして周りをぼーっと見る。


「……みず」


掠れた声を出して立ち上がる。


「?」


視点が、あきらかに高い。まだ寝ぼけているのか?

ふらふらと体を揺らして洗面台の前へたどり着く。

鏡に映っていたのは、きょとんとした顔をしている見覚えのない男性。


「……え?」


私が手を顔に当てると鏡に映る男性も同じように手を動かす。

手のひらを見る。私の手じゃない。けど私の意思と同じように動く。


「どういう、こと?」


何度も確認する。

認めるしかない。私は男になった。



「ああ、それは魂の分化ですね。珍しいですが……精神科に通う人の中では稀にある症状です。強いストレスを抱えた人に起こることが多いですね」

「魂の分化……ですか?」


私は通っているメンタルクリニックに来て診察を受けた。魂分化。それがこの症状の名前らしい。聞いたことあるような、ないような……

先生の言うことには女性の体にも戻れるらしい。主に精神的ストレスから逃れるために魂が逃げ道を作り出し、人格の違う自分が生まれるのだそうだ。


「多重人格みたいなことですか?」

「それは少し違いますね。まず記憶は共有、連続しています。ただ感情や表現方法が違うだけで根底にあるものは同じです。事例としては我慢しなくなった人格が生まれることが多いみたいですね」

「治りますか?」

「……いや、そういった例は聞きませんねぇ。それにこれは病気というより現象です。まだ詳しいことは分かってないんですよ」


てことは、私はこれからこの珍妙な体と付き合っていくしかないのか……?




その後、クリニックの先生の指示に従い数日かけて市役所で手続きをする。もう一つの体も篠山桃であるという登録が必要なのだそうだ。

保険や住民票の記述など、色々変わるところがあるらしい。

仕事を辞めて早々にとんだトラブルもあったものだ。

けれども新しい体は思ったより便利かもしれない。身長があるから高いところに背が届くし、女性の体への切り替えも意外なほど自由自在だ。

それに、新しい体だと遠慮や悩みが少ない気がする。先生の言っていた、我慢しなくなった人格というのも少し納得だ。すがすがしい気分、というのはこういうことなのだろう。


「これからどうなるんだろう」


ため息をつき、窓の外の飛行機雲を見ながらそうこぼす。


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