勇者
買い物から数日、新しい装備に慣れてきたころ。
社長の指示で今日は県内で一番大きなダンジョンへ行くことになった。
「入口の施設までデカいのか」
社長には思う存分素材を取ってきてくれと言われている。言われずともそうするつもりだが。
思ったよりも人が多い。少し気配を消して早めに奥へ向かおう。
出てくる魔物の種類は違うが、まだ余裕で戦える。深層に近い方が質の良い素材が取れるのでどんどん進んでいく。
一つ、また一つと階を降りて行き、すれ違う人を見なくなった頃。
「ここは……セーフゾーンか」
ダンジョンには時折一切魔物が湧かず、また近寄らない場所がある。
当然休憩ポイントとして探索者たちが使っているのだが、ここは中層に近いからか休んでいる探索者の数は少ない。
とくに疲れがあるわけではないので通り過ぎようと足を進める。
「おい、君!」
休憩していたパーティの一人から声を掛けられる。
「……なんだ」
「君、仲間は?はぐれたのか?一人で奥へ行くなんて、危ないぞ!」
「俺はソロで潜っている」
「……なんだって?」
そいつ、白くて高価そうな鎧を身にまとった青年はズンズンと俺のそばまで来てまくしたてる。
「ソロなんて何を考えているんだ!信じられない、冗談だろう?上の階層でなにかあったのか?」
「いや、入口から一人で潜ってきた」
「なっ……、君、いいかい?ダンジョンを一人で攻略するなんて夢物語は今すぐ捨てた方がいい。一人でできることには限界があるんだ。」
「あの、」
「そうだ!僕らはこれから戻るところなんだ。どうだい、一緒に帰らないか?それとパーティ募集なら僕に当てがある。安心していい、これでもそれなりに名は通っているんだ」
「いや、俺は……」
止まらない。話もきかない。正直苦手なタイプだ。自分の意見が正しいと思い込んでいる。
「だからほら、ソロなんて危険だ。何かがあってからでは遅い」
「……もう、いいか」
めんどくさい。白い鎧の青年を無視してダンジョンの奥へ進む。
「まて!話を……死んでも知らないぞ!」
背中へ掛かる言葉を無視して聞こえないふりをする。
彼の意見が大きく間違っているわけではない。だがそれは俺には当てはまらない。
しかしそれを彼は認めないだろう。
静かになった通路を一人で歩く。
side???
「まったく、ソロで潜るなんて……」
「まーた始まったよ」
「勇者くんも放っておいたらいいのに。なんで突っかかっちゃうの」
「あいつがあのまま死ぬかもしれないんだぞ!?むしろお前たちこそ薄情なんじゃないか」
「はいはい、すみませんね、勇者殿」
「……馬鹿にしているだろう」
センが去った後、白い鎧の青年…勇者と呼ばれた彼はダンジョンを後にする。
「でもこれで調査は完了ね。あ、ねえ勇者くん。そういえばなんだけど、選手権、出るってホント?」
「ああ。数年に一度しかないんだ。出られるチャンスは逃すべきではないだろう」
「そ。うち勇者くんが優勝するのに賭けようかなー」
帰り道。そんな世間話をする。
この時の二人はまだ知らない。
数か月後、全国探索者選手権の舞台で再び顔を合わせることになることを。




