第86話 真・安心安全安寧ギルド
「ダンジョンって、どこかが管理してんのか?」
「把握はしてっけど、管理まではできてねえんじゃねえかな。こんな町中にあるダンジョンって稀で、人が行きにくい……というか、人が生きにくい場所にだってあるし、というか、そんな場所にあるのがほとんどだしな。そんなとこまでいちいち整備なんかできんだろ」
まあ、管理って言っても、こんな風に周りを囲ったりするぐらいなんだけどな。墓蒔が言って……。
にやりと笑った。
「お前、召喚者なんだよな。じゃあ、『ギルド』って言葉を聞くと、鳥肌が立つほど喜んだりしちゃう系?」
ギルド?
「……なんで?」
その言葉が予想外だったのか、墓蒔のにやり顔が一瞬にして無くなる。
「あれ? 地球って『ギルド』って場所に所属したくてうずうずしてんじゃねえの? そこに認められてランクつけられてちやほやされることを夢見てんじゃねえの?」
「夢見ちゃいないと思うけど……まあ、そうなったらいいなって願望はあるんじゃないか?」
「それを夢見てるっていうんじゃね?」
それを言われたらどうしようもない。確かに、そんな風潮はあるにはあるが、全員それに当てはまるわけでも、当然ない。
「で? なんでいきなりそんなこと訊くんだ?」
「だから、ここの管理してんのが、その『ギルド』ってやつなんだよ」
……ああ、そういうことか。
「真・安心安全安寧ギルド。通称『真ギ』な」
「………………召喚者だからそう思うのかもしれないけどさ」
「ああ」
「ものすっごい胡散臭い気がすんだけど」
「ちゃんとしたところだよ。俺様も、なかなか笑える名前だと思うけどな」
ダンジョン前広場の『多死悲喜交々』もそうなのだが、なんだか言うのも聞くのも体力を使う名前だ。
「最初は『探索同盟』とかいう名前だったらしいんだけど、そこから徐々に大きくなっていくうちに名前が変わったらしい」
「探索同盟で良かったのに……それがどうして『真』とか『安心』とかいろいろ付いちゃったんだ……」
「ちょっと前……っつっても俺が産まれる前だけど、そんときは『安心安全ギルド』とかいう名前がついてて」
「うん。それならまあ」
「そこでなんか大事故が起きて、一新する意味も込めて『真・安心安全ギルド』になって」
「――うん?」
「そこで今度は大事件が起きたみたいで、円満解決した意味を込めて『安寧』がついて今の『真・安心安全安寧ギルド』になったらしい」
「足していけばいいってもんじゃないだろうに。……じゃあ、また事故が起こったら、さらに名前が変わるのか?」
「次はなにがつくかね? 安住? ああ、これ『and you』のダブルミーニングな。ギルドはいつでもあなたと一緒にって意味と、安住してほしいって意味とで」
「……お前、そこの役員とかじゃないよな?」
まさか。墓蒔が首を振る。
「俺様、自由人よ、そんなとこに縛られんのはまっぴらごめんだね」
Φ
ちょっと休憩と、先に切り出したのは試神のほうだった。
友情崩壊ダンジョンに入って、大体一時間ほど経ったぐらいだろうか。
整備されていない道がこんなに歩きにくいとは思いもしなかった。友情崩壊ダンジョン自体は絶命洞窟とあまりかわりないのだが、絶命洞窟のほうはロボットが通ることも想定されているのだろう、ちゃんと道が均され、整備されていた。
それに対し、こちらはデコボコで平坦ではなく、こぶし大ほどの石も多い。流石にそれぐらいになるといくら底の硬い靴でも無視できず、結果ふらふらと歩くような形になってしまい余計体力を使ってしまう。
それに。
やはり、前が見えない、というのが、精神にきていた。
前も後ろも暗闇で、どこがゴールかもわからず歩き続ける。
どんどん深くまで潜ってきているということもあり、少しずつ言いようのない不安が大きくなっていった。
「だらしねえなあ」といいつつ、墓蒔が足を止める。置いていく、ということはないらしく、少し安心する。
「悪いね、五分でいいから」
手ごろな岩なんてものはないので、地べたにそのまま腰を下す。リュックから水を取り出すと、半分ほど一気に飲んだ。
「そんな重いもん入れてるから、体力使うんじゃねえ?」
「水を持たずしてこんな場所に入れるかよ」
「そういうときこそ魔法ですよ、おにーさん。ほら、すごいでしょう、なにもないところから水が溢れてくる」
「わー、すごい。でもそれ飲めるんですか?」
実際には水などだしておらず、魔法を使ったふりだけした墓蒔は少し固まって。
「そういえば、魔法で出した水って飲めんのかな」
「しらん。墓蒔のほうが知ってるだろ」
「俺様、魔法を使わんからわからんのよね。そもそも、魔法で出す水って純水なのかしらん? それとも不純物たっぷり? ミネラル豊富な水ってのも可能性としてはあるけど、そんな『ザ・飲料用の水』なんて魔法はなんか俺様の好みじゃないなあ」
「……なんにせよ、一度煮沸しないと飲めそうにないな、そんな危ないもん」
水をリュックに戻そうとして。
「…………」
その腕に残る重さが、またリュックに戻るのかということを、改めて思い出す。
「……墓蒔」
「んあ?」
「これ、飲むか?」
ペットボトルを揺らし、ちゃぷんと音を立てる。
「お前も水分補給くらいはしといたほうがいいだろ」
「……くれんの?」
「ていうか、本音を言うなら重さ削減を手伝ってほしい」
そういうことなら仕方ねえなあ、と墓蒔が手を出すので、投げて渡す。
受け取ったペットボトルの、ラベルの隙間から見える液体をジッと見て、そして訊いた。
「これ、毒とか入ってないよな?」
「俺の唾液ならちょっと入ってるかも」
「猛毒じゃん」
笑いつつ、キャップを開けると一気に飲み干した。半分ほどあったのだが、一息で全部を空にしていた。無理しているようには見えないので、喉は乾いていたということらしい。
「ゴミはくれよ。持って帰る」
「いいじゃん、その辺りに置いとけば。どうせリセットされて明日には綺麗になる」
「…………リセットねえ」
午前零時の、ダンジョンの更新。
構造ごと一新され、同時にその中にあったものは全て無くなってしまう。
「みんなそれをわかってるから、ゴミはそこらへんにポイ捨てしてんよ。今日は人がいないからそうでもないだろうけど、夜のダンジョンの入口付近は、こんなゴミが放置されてるのが普通」
あまりききたくない情報が出され、げんなりする。
不法投棄じゃないのかと思うが、地球でもそんな場所があれば同じようになるだろう。




