第9話 どうして転生なんてものが必要だと思いますか?
「なんだよ、お前……なんで俺たちの攻撃をくらって傷一つついてねえんだよ!」
大剣を持っていたリーダー、イツキと呼ばれていた男性が悲鳴に似た怒号をあげる。
「ケガならしましたよ。あなたが殴った場所がまだズキズキしてます。骨折はしてませんが、内出血はしてそうです。……服で隠れる場所でよかったですよ。これが腕とか見える場所だったら大変でした。なに転生者相手にケガしてんだと揶揄われてしまうとこです」
「俺は大剣で斬ったんだぞ!」
「ええ、身をもって受けたので知っています」
「なんでそれが打撃に変わんだよ!」
「それを私に聞きますか?」
「お前、チート使いか!?」
「そんなわけないでしょう」
「じゃあ転生者か!」
「じゃあって……どんな理論ですか」
足元に落ちていた大剣をタタンが拾う。「俺の武器!」とイツキが叫ぶが、取り戻しには来なかった。
いや、とっさに駆けだそうとしたのだが、足がすくんで動けなかった。
「別に転生者じゃなくたって、これぐらいできますよ。要はこれの切れ味より硬度をあげればいいだけなんですから。難しいことではありません。あなた方を送り込んだというそのリーダーだってできるでしょうし、なんだったらそこらへんを歩いている人だってできますよ。……そりゃあ私みたいに棒立ちではなく多少の防御態勢は取るでしょうか、小石を投げられた程度で大仰に避ける人はいないでしょう」
実際にはその小石で涙目になるほどの衝撃を受けたのだが、それに突っ込む人は誰もいなかった。むしろ、馬鹿にされたとばかりにみるみる顔が赤くなっていく。
「小石……だと……? 俺たちの……俺たち『転生者』の攻撃だぞ!!」
「またそれですか」
どう説明したらよいかと、顎に手を当てる。
その隙をついて、大きな火球がひとつ飛んできたが、持っていた大剣でそれを縦に斬った。
二つになった火球はそれぞれカーテンと本棚にあたったが、わずかに位置をずらすことができただけで、なにも燃やすことはできず消えていった。
「ちくしょう! なんで効かないんですか!」
杖を構えたケントが叫び、さらに魔法を打ち続ける。数で勝負と言わんばかりの乱れうちだった。だが、ひとつひとつに込められた魔力が薄い。剣で払うまでもなく、そのどれもがタタンの体に当たってきえるか、事務所の備品にあたって消えていった。
「僕たちは『転生者』なんだ! こいつなんかに負けるはずが――」
「さっきから言うその転生万能論はなんなんですか、流行ってるんですか?」
人差し指をくるりと回す。事務所の自動扉が動き出し、閉まった状態で固定された。「あっ」と何人かがそこに近寄るが、開けることはできない。双剣で斬りつける者、鈍器で殴りつける者もいたが、そんなもので割れるものではない。魔法ではなく、単純にそれくらいの衝撃に耐えられる仕様なのだ。
扉だけじゃない。パソコンやデスクといった一部の備品は例外としても。
そもそもこの建物自体が、おそろしく頑丈な作りになっている。
「正直、なぜあなた方がそんな『転生者』に憧れを抱いているのか、なぜそんな信頼を置いているのか理解できません。だって……
――あんな出来の悪いガチャシステム、相当な暇人じゃないと使いませんよ」
「……なんだって、どういうことだよ」
イツキが震える声で反応する。
「考えてもみてください、どうして転生なんてものが必要だと思いますか?」
「どうしてって」
少し待っても誰も答えがでなかったので、「じゃあ質問を変えましょう」とタタンが言った。
「あなた方の転生前の体は、一体どんな方だったのでしょう」
「転生前……の体?」
「そうです。……ああ、あなた方のことではないですよ。あなた方が転生した、その器の人のことです。もともとこの世界に生きていた人です。その方はどんな方だったのでしょう。考えたことがありますか?」
誰も答えない。
言いたくないのではなく、わからないのだ。
転生前の体の記憶が、まったく思い出せない。
「『百年に一人の逸材』? 『ありあまるほどの魔法の才能』? ……まあ、私は転生前の方がどんな人だったのかわからないので確かなことはいえませんが、もし私だったらそんな人、《《転生先の器になんかしません》》けどね」
イツキの顔が固まった。
彼だけじゃない、ほかの転生者も同様に固まっている。
だからこそ。
「転生先の器になる人って、簡単に言えば使えない人なんですよ」
タタンの言葉が、よく、響いた。
「あなた方の服装を見る限りなんらかのチームに所属しているようですが、転生前の方がその中で、お荷物だった人たちなんですよ。だから転生先の器に選ばれたんです。それしか使い道がなかったんです。中の人の人格なんか要らず、魔法を使える器だけが欲しかったんです」
では、あなた方はどうでしょう、とタタンは訊いた。答えは出るわけないと知っているので、すぐに続ける。
「あなた方の体にもし素晴らしい才能――それこそここの住人を凌駕するほどの魔法の才能なんかがあれば、転生なんかさせずそのまま体ごと持ってくればいいじゃないですか。俗にいう召喚というやつですね。力がある、足が速い、頭脳明晰。ありましたか? 前の体に、誇れるものが」
一度言葉を区切る。
8人それぞれの顔を見る。
「欲しかったのは、その人格だけです。無鉄砲な人格だけ。甘い言葉で簡単に動いてくれる、純粋な性格が欲しかっただけです。ここまで言えば、もうわかりますかね? 転生なんてものは『人格が要らない器』と『体が要らない人格』を合わせるシステムなんですよ。二個の命でようやく使えそうな命一個を生み出す、なんとも効率の悪い、成功するのかわからない無駄の多いシステムです。そんなものに選ばれて喜ぶ意味が、私にはわかりません」
うそだ
と、小さな声が聞こえたが、誰の声かわからなかった。
「転生者はもっとたくさんいたそうですので、少しでも使えそうな人は別の場所に移動していると思いますよ。魔法の才能だって、ようは使い方次第ですからね。転生前の方が元来優しい性格の持ち主で攻撃的な魔法が苦手だった、とか、才能があったのに使い方がわからなかった、とか。……あなた方は変わらず『使えない人』だったようですが」
その結果、ここに送られてきた。
それが意味するのはもちろん。
――キミはもういらないから死んできて。




