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第8話 『転生』って、マジでいいもんだな

「動くな!」と、荒々しい声がして事務所に人が飛び込んできた。

 8人。

 統制された、とも、訓練された、とも、動きなれた、とも言えない動きで、慌ただしく部屋に飛び込んでくる人の影。


 男性5に女性が3。

 みな同じデザインの白の制服を着ており、それぞれ違った武器を持っている。

 ちらっと、タタンは入ってきたドアを見た。見通しがきくわけではないので、視認だけではなく、魔法でも確認する。

(……隠れてる人はなし。ついでに、事務所を抜けて奥に行った人も、遅れてくる人もなしですか)


 念には念を入れてと、姿隠しの魔法を使っていないかも確認したが、いないようだった。もちろん魔法に長けた人ならばその魔法すら考慮して姿を隠している可能性もあるが、今回はその必要はないだろう。

 それに、いくらうまく姿を隠したからと言って、人がそこに存在している以上痕跡や気配が完全に消せるわけがない。それを見逃すほどタタンは気を抜いていない。


 横一列、ようやく整列を終えた8人がそれぞれ武器を構える。


 どうしようかと悩んでいるタタンに向かって、一歩、前に出た人がいた。

 一番最初に飛びこんできた奴で、リーダーはおそらくこいつだろうな、とタタンは思う。

 1mを超える大剣を担いだ男性で、抜身のそれを光らせながらこちらをニヤニヤと見つめている。

 いや、彼だけではない。

 事務所に飛び込んできた人たちそれぞれが、同じような、その顔に全く似合わない笑みを浮かべていた。

 気分の高揚が抑えきれず、顔に出てしまっている。

 それぞれの年齢は……あまり意味がないのだろう。

 

 どうせみな、転生者だ。


 大剣の彼が、剣を弄びながら言った。

「お前、名前は?」

 偽名を使うことも考えたが、結局やめた。

 反応を見たかったからだった。

「タタンと申します」

 それを聞いて、大剣の彼が目線を後ろに向けた。女性の一人が耳に手を当て、小声でなにかをつぶやいてる。独り言かと思ったが、だれかと会話をしているらしい。魔法ではなく、インカムを使っているようだった。

(……これはこれは、いやはや、なんともまあ)


 襲撃者の視線が全員、その女性に向いている隙をついて、パソコンを魔法で移動させる。事務所から遠く、安全な場所に。これが壊されてしまったら、今日一日の仕事が無駄になる。それは絶対に避けなければならなかった。デスクが多少かける程度なら許容できても、パソコンの画面にひび一つでも入ったら多分泣いてしまう。


 会話が終わったらしくまた視線がタタンに向くも、幸いにも誰もパソコンがないことに気が付いてないようだった。

「リーダーと確認が取れた。お前、ここの従業員だな」

「従業……まあ、そうですね」

「よし、じゃあ、大人しく俺たちについてこい。そうすれば、痛い目に合わせはしない」

 見せつけるように大剣の刀身を反射させる。

 振り降ろされてもいやなので、タタンは席を立ち、デスクの前に立った。

 自分のデスクなので壊れてもいいのだが、当たり前の話し、壊れないのならばそのほうがいい。


「よくわからないのですが」と前置く「なぜ付いていく必要があるのでしょう?」

 わずかな閃光。タタンの足元に火花が散った。

「次は当てます」と、杖を構えた青年が言った。「余計なことは言わず、大人しくついてくればいいんです」

「……………………」

「おいおい、落ち着けよ、ケント」と、銃を構えた青年が言った。

「そうよ、かわいそうじゃない」と、手斧を持った女性が言って。

「それに、こんな大勢に囲まれちゃ、なにもできないでしょ。丸腰みたいだし」と、双剣を構えた女性がそれに続いた。

 ケントと呼ばれた青年はくすりと笑い。

「すいません。魔法とやらを使ってみたくて、つい先走ってしまいました」

 ドッと笑いが起こる。


 タタンはそれを、

「……………………」

 ずっと冷ややかな目で見ていた。


「と、いうわけだタタンさん」

 ひとしきり笑い終えたあと、大剣を持った青年がさらに一歩前に出てくる。

「そういえば、まだ俺たちの正体を言っていなかったな。ああ、強盗じゃないぜ? 似たようなことはしてはいるが……まあ、ミッションだと思って諦めてくれ。と言っても『ミッション? なんのこと?』て感じだろうけどな」

 青年が喉元を見せつける様に、大きくのけぞって笑った。


「見てわかるだろう? 俺たちをただの強盗だなんて思わないほうがいい。俺たちは――転生者だ」

「……………………」

 余計なことを言うなと言われていたので黙っていたタタンを、青年は絶句しているとみなしたらしい。気分がよくなったのか、さらに大きく笑う。

「後ろにいるやつらみんな転生者だ。感じるだろ? この魔法の力。リーダーに『百年に一人の逸材』『ありあまるほどの魔法の才能』と言われたんだぜ? 俺だけじゃない。後ろのやつもそれぞれリーダーに才能を見染められてここに送られてきたんだ。エリート部隊なんだよ。わかるか? エリート部隊」

 刀身が薄青く光る。青年が魔力を込めているのだった。


「今、こいつの切れ味を最大にした。岩だろうがなんだろうが、簡単に真っ二つにできる。……こんなもん、そんななよっちいい体をしたお前がくらったらひとたまりもないよなあ? 成長期が終わったばっかの体が、半分のサイズになっちまうぞ?」

 まだ青く光る大剣を片手で水平に持ち上げ、切っ先をタタンに向ける。

 その後ろでは残りの7人がそれぞれの武器に魔力を注いでいた。見せつけるように武器の周りにオーラのようなものが漂い、気分をよくした襲撃者がさらに悪い笑みを浮かべる。


「『転生』って、マジでいいもんだな。生きててよかったわ」


 ゆっくりと、大剣を構えなおす。正面に構えたその姿は、なかなか様になっていた。

「黙ってついてきてくれれば、悪いようにはしないさ。お前がなにをしたのか知らんが、まあ俺たちをけしかけるくらいだ、そうとうなんか悪いことをやらかしたんだろ? 多少痛い目をみるだろうが、それぐらいだ。――ああ、なんなら素直について来たって、俺たちから口添えしてもいいぞ。俺だけじゃない、この8人全員が言えば、リーダーだって恩赦をかけてくれるさ」


 なあ、と後ろに訊く。反論の声はなく、みんなうっすらと笑いながら、満足そうに頷いていた。

「でも、ちょーーっとでも抵抗するようなら、俺たちだって容赦はしない。ケントも言ったが、俺だって……この剣の切れ味を試してみたいんだからなああああ!」

 青年が床を蹴る。走り出した後ろで、杖が光ったように見えた。誰かが、なにかの青年に対し身体強化の魔法を使ったのだろうとタタンは思う。


 そのころには眼前に青年の姿があった。

 正面で構えていた大剣は今は倒され、横になっている。両手で柄を持ったまま左足で踏み込み、半身になる。そして、薙ぎ払うように大剣を振るった。

「『一閃 オオナギ』!」

 青年が叫ぶ。

 身の丈ほどある巨大な刃を――


 ――タタンは特に避けなかった。


「――あ”た”っ”!」

「あ、わりい」

 重い打撃音と共に脇腹あたりに衝撃がきて、流石によろける。

 あたるとは思わず、つい謝ってしまった青年をうらめしそうにタタンは見上げた。


「……これで満足ですか?」

 痣になりますかね、これ、と左わき腹をさする。想像していたものよりかなり痛く、涙目になっていた。

「あれ……なんで、斬ったのに、斬れてねえんだ?」

 青年の手から大剣が滑り落ちる。困惑もそうだが、硬いものを《《殴った》》衝撃で手がしびれていた。

「なんでと言われましても」

「イツキに近づくな!!」

 サンダーボルトと声がして、タタンの上空から雷撃が降ってきた。

 続けてダスティーブレッドと声がして銃弾数発と、神速の矢の声と共に光に包まれた矢が飛んでくる。

 最後に手斧が飛んできて、タタンの胸のあたりに当たった。


「……やっぱり、来るとわかっていればそれなりに耐えられるものですね。最初だけ、想定外の衝撃に肝を冷やしましたが」

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