第83話 なんで灯りがあるんだろう
「悪い。隠してたつもりはないんだけどさ、そういえば言ってなかったって気が付いて」
「いや、別に気にしてないよ。むしろ、ラッキーかも」
「ラッキー?」
「珍しい奴にあえたって」
そういえば、初めてタタンとあったときも、召喚者は珍しいと言っていた。
やはり、召喚というのはなかなかお目にかかれないものなのだろうか。
普通は、転生を選ぶわけで。
普通は、自分を捨ててしまうわけで。
「ふーん、なーほーど。召喚者ね」
「隠してたのは事実だし、パーティーを解散したいっていうなら、別に俺はいいけど」
「いや、このまま行こうぜ」
「……いいのか?」
「最初に言っただろ? 魔法を使えない同士仲良くやろうやって。お前が魔法を使えなくても、そんなもんは最初から頭数に入ってないから、安心しろよ」
「……はあ」
安心といっていいのだろうか。
パーティーを解散されなくてよかったのだが、墓蒔の言い方を見るといてもいなくても同じ役立たずだと言われている気がしてならない。
(……まあ、実際その通りなんだけどさ)
溜息をはく試神を見て、また墓蒔が「うはは」と笑う。
「これでいろいろ合点がいったわ。変な奴だとは思ってたんだよな、そんな恰好してダンジョンにくるわ、パーティーがどうかと言うわ。移動魔法がどうとか、訊く前に自分で実際に使ってみろよって内心思ってたしな。けど、召喚者……もしくは転生者っていうなら納得だわ」
クルクルと踊るような仕草を見せる。彼なりの『楽しい』の表現なのかもしれないが。
「……まだこっちに来て間もないんだよ。仕方ないだろ」
なんとなく馬鹿にされてるような気がして、少しむっとしてしまった。
「うはは、わりいわりい。でも、変な意味は全くねえよ。これ、本当」
そうは言うものの、顔に貼りつく笑顔はニタニタとしており、不快感はぬぐい切れない。馬鹿にされてはいないのだとしても、面白がられているのは確かなようだった。
「俺様がお前を見てなんとなく気になったのは召喚者だからなのか」
「気になった?」
「俺様、人見知りなんだけどさ」
「嘘つけ」
「初めての人に話しかけるの怖いから、なかなかできないんだけど、お前はなんとなくほかと違うなって気になったから声をかけちまったってわけ」
「……そういえば、召喚者は見た目ですぐわかるって言ってたっけなあ」
「へー。そうなんか。俺様、人の形をしたものはみんな平等に接するタイプだから、見た目が違うって言われてもよくわからんのよね」
じゃあなんで声をかけようと思ったのか。
「お前ちょっと適当すぎやしないか?」
「いいだろ、俺様らしくて。それに、話しかけたのは人形の件もあったことだしな」
墓蒔の目線がリュックに向いているのを見て、試神が体をひねってリュックを遠ざける。
「ちぇ、残念」
ちっとも残念じゃなさそうに言って、墓蒔が先に進む。
「試神が召喚者ってことは、誰かこっちに呼び出した奴がいるんだよな?」
「……そういうことになるのかな?」
「……なんだその歯切れの悪い言い方」
「こっちにもいろいろあってな。詳しくはめんどくさいから省略するけど、俺はそのこっちに呼んだ奴の顔を見る前に、別の場所に移動させられちゃったわけだよ」
「んー……ますますわからん」
「いいよ別に、大したことじゃない」
試神がそれ以上話そうとしないところを見て、墓蒔も興味を失ったようだった。
「お互い大変だねえ」と軽薄に話しを打ち切った。
下り坂が終わってようやく平坦な道になったと思ったら、今度は先が見えないほどの暗闇が待っていた。
なぜ暗いのか。理由は単純で、今まであった灯りがそこから無くなっているからだった。
点々とあったランプのような灯りがない。
絶命洞窟は魔法より、洞窟全体が明るくなっているとロロロが言っていたが、友情崩壊ダンジョンにはそんな魔法はないようで、灯りがなくなった箇所からは、洞窟らしく真っ暗だった。
真っ暗で。
ただひたすらに、無音だった。
テレビで見ていたときと印象が違いすぎる。
キャスターの魅せ方がうまかったのか、それともカメラの映し方がうまかったのわからないが、試神が見ていたときが「自分でも行けそうかも」と思ってしまうほど簡単そうに見えたのだ。
事実、入るまではそう見えていたのだが。
そう見えすぎるぐらいで、逆に警戒してしまったほどなのだが。
(……まあ、アトラクション感は、ないよな)
目の前に広がる空間からは、『創作感』が一切ない。
事実しかなく、現実しかない。
お化け屋敷で死の恐怖を体験するのではなく。
古びた洋館で死の危険を経験するようなものだ。
あの闇の中に入ってしまったら、安全という言葉はなくなってしまうのだろう。
「試神は、ダンジョンのことってどれくらい知ってる?」
「え?」
「ここにくるぐらいだから基本知識くらいは仕入れてるんだろうけど、お互いに齟齬があってもヤだしな」
例えば、と墓蒔が人差し指を立てる。
「ダンジョンつーもんは、一日一回リセットされることとかさ」
それは知ってる、そう頷くと、墓蒔は説明が省けたとばかりに大きく笑った。
「そ。なら、ひとまずは安心かな。この中で一泊するつもりで来られても俺様困っちゃうし」
「そんなわけないだろ」
「その荷物を見てたら不安になったんだよ」
試神の背負うリュックに顎を向ける。確かに大きさからみれば、寝袋や着替えが入っていたとしてもおかしくない。
「つーか、なに入ってんだよ、そのリュック。テントとか入ってんじゃないだろうな」
「入ってるわけないだろ。単純に水とか着替えだよ」
「嘘だね。それ以外に余計なもんが山ほど入ってなきゃ、そのリュックの大きさはおかしい。白状しろよ。ここに捨てようと思って、なんか如何わしいもんでも入ってんじゃねえの?」
……如何わしいもんって。
「例えばなんだよ、それって」
「バラバラにした幼子の死体とか?」
予想の斜め上を行く答えに、試神の顔が曇る。
「冗談だよ」一切表情を変えずに、墓蒔が頭の後ろで手を組む「それともなに、本当に入ってんのか?」
「……入ってるわけないだろ。入ってるのは、大量の救急キットくらいだよ」
見せようかと訊くが「必要ないね」と断られる。
それでもリュックを下した試神を後ろにおいて、墓蒔はスタスタと歩き出してしまった。
「じゃあ、ちょいと真面目にいこうか。リセットがあることを知ってるならさ、不思議に思わんかった?」
先にいく墓蒔が振り返り、後ろを――試神より後ろを指す。
「なんで灯りがあるんだろうって」
「…………」
「リセットされんなら、あの灯りだって消えちまうはずだろ?」
「……そういえば」
リセットがどういうものかわからないが、言い方からすると一部分だけ――例えば地面に転がっているものだけが一新されるというわけではなさそうだった。
本当に、丸ごと変わってしまうのだろう。
そして、そうなってしまうのならば灯りも、ここに来るまで脇に付けられていたあのランタンもなくなってしまうはずだ。
まさか、誰かが毎日取り付けてくれているわけでもあるまい。
「『なぜでしょう』の答えは簡単でさ。灯りがある場所は、リセットがかからない場所ってことなんだよね」
墓蒔が言って、靴のつま先で地面をガシガシと掘った。
「まあ、俺様も詳しいことはわからんし、なんならこの世界の誰もがよくわからんと思うんだけど――友情崩壊ダンジョンはここからスタートするってこと」
「……なるほど」
なんとなく空気が変わったのは、そのせいか。
「……ようこそ、友情崩壊ダンジョンへって感じなのか?」
「おお、いいね。それ、かっちょいい」
俺様も次からそう言おう。
口だけで言って、本心が見えない墓蒔の隣に立つ。
「受け売りだよ」




