第82話 ダンジョン探索の始まり始まり
「にしても、お前、ほんとに変わってんな。マジで出身地教えてほしいわ。今時、治癒魔法とかパーティーとかいう奴、久々に見たわ。特にパーティーなんて言葉、俺様ぐらいしか使わんと思ってた。ダンジョンなんて無縁のところなんだろうな、こっちには観光かなんかで来てんのか?」
観光。
それに出身地。
田舎者田舎者と言われてばかりいて気が付かなかったが。
その言葉で、ようやく合点がいった。
「…………ああ、そっか」
「あん? どったの?」
「いや」
俺、実はさ、と試神が言うのと同時。
とうとう、そこに着いた。
テント中央、むき出しの地面にポツンとある、土を集めて洞穴状に固めたもの。
強いていえば、公園の砂山を巨大化させた感じだろうか。
そんな表現しかできないそれが、友情崩壊ダンジョンの入口なのだろう。
思わず足を止めた試神に。
「あれ、見るのは初めて?」
と、墓蒔が訊いた。
声に、出さずに頷―――きかける。
「いや、テレビで放送してたのは見てたけど」
そして。
「なんか、イメージが違ったな。テレビで見る感じはもっと……仰々しかったんだけど……なんだろう、今見ると案外、普通なんだな」
「おどろおどろしくね?」
うはは、と笑い、墓蒔がソレに歩み寄っていく。
おどろおどろしいというより。
危機感もなにも抱かないことに、試神は驚いていた。
こんなところに隔離されていなかったら、うっかり入ってしまいそうなほど、それは異常性を全く感じない。
周りに人なんていない。
ダンジョンの入口しかない。
静寂に満ちた空間。
なのに、神聖な雰囲気を一切感じないのはなぜだろう。
家の玄関をくぐるような感覚で、そこに入ってしまいそうだ。
「んー。声も聞こえんし、出てくる人はいないっぽいね」
ダンジョンの入口で耳をすませた墓蒔が言った。「ちょうどいいタイミングだし、とっとと入っちまおうぜ」
手招きされて、ふらふらと歩み寄る。
入口の大きさは、試神と墓蒔が並んで入ってもまだ余裕があるほどだろうか。扉なんてものはなく、覗けば延々と道が続いているのが見える。
友情崩壊ダンジョンの入口が砂山のように見えるのは、入ってすぐに急な勾配になっているからだろう。ダンジョンそのものは地下に続いているため、入口だけこうして見えているらしい。
中は、絶命洞窟のような土でできた洞穴、といった感じだった。
ただ、人に配慮してわざと明るくしている絶命洞窟と違い、友情崩壊ダンジョンのほうは壁に灯りが点々と取り付けられていた。形状はランタンに近いが、中にあるのは炎のようでなく、配線もないことからLEDでもないらしい。
おそらく魔法だろう。
灯り自体はそこまで強くないが、中を見る分には困らないくらいの光量はある。
「さて、じゃあダンジョン探索の始まり始まり」
にやにやとした墓蒔が先に入り。
「…………」
試神も、後に続く。
Φ
テレビクルーが入ったときの様子はしっかり見ていたつもりだったが、いざ自分で体験してみると、なるほど、結構大変なことがわかった。
入ってすぐの下り坂。角度はそこまでではないが、階段のように足をかけるもののない道が延々と続いているだけである。絶命洞窟はまだ滑りにくい土であったが、ここの土は少し滑りやすい。靴底のしっかりしている靴でなければ、何度か転んでいただろう。今でさえ、気を抜けばズリッと足を持っていかれてしまいそうだのだ。
「ちゃんとついてきてるよなー?」
「まあ……ね」
苦戦している試神に対し、墓蒔は平然そのものだった。
靴も普通のスニーカーだし、滑り止めに差があるわけではなさそうだ。それなのに、階段を下りる幼児と大人くらいの差がある。
試神がそれなりの荷物を持ち、対して墓蒔はバッグ一つ持っていないため身軽そう……というのは一応あるのだが、そこまで大きな差があるとは思えない。体格だってあまり変わらないのだ。見た感じ、あまり鍛えてもいないようにも見える。
(……となると)
「魔法か……?」
「え? なに」
独り言に反応し、墓蒔が寄ってくる。
彼からしたら登り坂なのだが、下るときとペースは変わらなかった。
「いや、墓蒔がそんな楽そうなのは、魔法のおかげなのかって」
「うはは! んなわけねえじゃん。単に俺様の体幹がすげえだけよ」
まだ入って10分も進んでいないのにうっすら汗ばんでいる試神に対し、墓蒔はまだまだ余裕そうだ。
「いったろ、これでもダンジョン経験者だって。ダンジョンの中には歩きやすいものもあるけど、基本は舗装なんてされてねえの。進むのも戻るのも自分の足ひとつでやらなきゃいけない。それりゃあ体幹が鍛えられるし、足腰も強くなるわな」
そういって、自分の太ももをペチンと叩く。
「単純な疑問なんだけど、ここって移動魔法とかは使えないのか?」
「移動魔法?」
「行きは……まあ形が変わるから無理としても、帰りくらいはできるんじゃないかなって」
試神が移動魔法を使えないのでよくわからないが、ロロロから聞いた話をまとめると帰るくらいならできそうな気がしている。行き、つまり目的地はわからないが、帰着地はダンジョンの入口に決まっている。
そこが決まっているのなら、戻れるのではないかと思っただけだ。
「まあ、せっかくのダンジョンなんだから、帰りだけ楽をするのは野暮なのかもしれないけどさ」
「いや、俺様はいいと思うけどね」
うはは、と墓蒔が笑う。
「移動魔法ね……。使えるには使えると思うけど、異物っていう収集アイテムがある以上、足で帰ってくるやつが多いかな。怪我して動けないとか緊急時には戻ることはあるだろうけど」
「……異物か」
「ダンジョンに入る目的ってそれだかんな。別にゴールとかあるわけじゃないし、一番奥に最強のレアアイテムがあるわけでもない。そもそも一番奥なんて探してたら、時間切れでアウトだろうしな。どこにあるかわかんねえお宝を探すんだから、そりゃあ足頼みになるっつーことだ」
「どこまでもアナログだ………」
「穴だけにっつってな。うはは。それに俺様、魔法あんま使えねえの。だからもともと移動魔法なんかに頼らないってのもあるかもしんねえけど」
「そうなのか?」
「ま、一応使えることは使えんだけど、今は本当に微々たるもんよ。移動魔法どころか、歩きやすくするための魔法なんてのも無理」
だから、これは俺様の自前の運動能力よ。
そういって、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる墓蒔。確かにその体は身軽そうだが、本当に魔法を使っていないかなんて、試神にはわからなかった。
見る人がみればわかったのかもしれないが、魔力の流れなんてわからない試神はその動きを目で追うだけである。
十数回飛び跳ねても息一つ乱さず、墓蒔が言う。
「ま、そんなわけだから、魔法が使えん同士なかよくやろうや」
「……それなんだけどさ」
「あん?」
「俺、魔法が使えないのは、召喚者だからなんだよ」
ぴたり、と。
墓蒔の動きが止まった。
「召喚者、それも俺……地球からの召喚だから」
「にゃるほど。魔力を貯める器官がないってわけね」
うはは。
と。
墓蒔が笑った。




