第74話 お守りかな
その夜。
いつものよう、タタンの夕食に招かれた試神が今日あったことを報告していると案の定「なにやってるんですか」とあきれられてしまった。
「落ちて骨折でもしてたらどうするんですか。場所が場所なんですから、すぐに助けにいけないんです。気を付けてくださいよ」
「俺だって迂闊だと反省してるよ」
いつもだったらしないのに、と思う。
「ダンジョンにいくってことで、少し浮足だってたのかな」
「そんなんで本当に大丈夫なんでしょうか」
「まあ、怪我だけはしないようにするよ」
「怪我だけじゃなく、いろいろ気をつけてくださいよ。……ほんと、不安なんですが」
「俺だって大人だよ。自分の世話くらい自分でできる」
「……できてないじゃないですか。それに、18はまだ大人と呼べる年齢じゃないですよ」
奥から洗濯機の止まる音が聞こえ、試神が立ち上がる。逃げたか、とタタンは思うが、止めはしなかった。
洗濯は試神の担当だった。特に決めたわけじゃなかったが、自然とそうなっている。今日は少し泥がついていたこともあり、試神の服だけわけて、先に洗っている。
部屋の隅に干す試神を見ながら、二人分、新しくコーヒーを入れた。
「泥汚れ、ちゃんと落ちました?」
「大丈夫だよ、それに、完璧に落ちなくてもなんとも思わん」
パンツとジャケット、それからインナー。手際よく干していき、最後に、洗濯用ネットをひとつ手に持った。
「……試神さん、それは?」
「これ? お守りかな。リュックにつけてたんだけど、いつのまにか汚れちゃってたから、一緒に洗ったんだ。知らない間に、どこか壁にこすったのかな」
洗濯用ネットから人形を取り出すと、頭についている紐を洗濯バサミに挟んで吊るす。
「……なんというか、あまりいい趣味とはいえない人形ですね」
「このくらいがなんかお守りとしてききそうじゃん?」
「地球からの持ち物ですか?」
「いや、違う」
じゃあどこからこれを?
タタンが効く前に、洗濯物を干し終えた試神が洗濯かごを持って脱衣所に戻っていく。
今度は試神とタタン、二人の服を洗いに行くのだ。
「……人形のお守り……ですか」
なんとなく、干してある人形に近づいて、よく見てみる。
お守りと言われれば、そう見えないこともないが。
――あれ? これって。
なにか思いだそうとして。
「――――――タタン」
遠くから名前を呼ぶ声がして、思考が中断された。
「洗剤って新しいのどこにある? そろそろなくなりそうなんだけど」
「ああ……そういえばそんなこと言ってましたね。新しいのを買っているんで、今持って行きます」
二人分だと、減りが早い気がしますね。そこまで量は変わってないんですが。そんなことを思いながら試神のもとに向かっているうちに、人形のことは頭から抜けてしまった。
タタンにしては珍しい、ひとつのミスだった。
―― 第七章 完 ――




