第73話 助けてください!
「――ん?」
視界の端にちらちらと光が見えて、ロロロは立ち止まった。
絶命洞窟の道すがら、マシュマロに続く道を歩いている途中である。
あれから、あまりに遅いということでロロロも行動を開始していた。
ロボットは完全に電源を落とし、その場に置いてきている。
念のためタタンにもその旨を報告し、もし魔法かなにかで動かされたときは対処をお願いした。
向こうからこちらの様子はわからないと思うが、それでもなにもしないよりましだ。
もしここでロロロと試神、二人が死んだとしても、理由がはっきりしている以上対策も打ちやすい。
まあ、その場合は絶命洞窟が知らない誰かに支配されたということでもあるのだが、その場合はタタンに処理をお願いするとしよう。
そんな折、ちらちらと動く光を見つけたのは。
ちょうどマシュマロまで残り半分ほどの距離まできたところだった。
「――なにか、いる?」
脇に見える小さな穴。
絶命洞窟にほどされている発光の魔法が働いていないところを見ると、できたばかりか、埋められる間近の穴なのだろう。
いつものロロロなら無視して先に進んでいる。
この程度の穴は、探索ロボットが開けているのを知っているからだ。
だが、見える先には魔石があるとすれば、埋められるところというわけではない。
しかもそれが不自然に輝いているとなれば、足を止めるのも当然である。
魔石は、下から伸びる光によって、乱反射していた。
細く、白い光線が魔石に当たり、きらきらと輝いている。
「…………」
しばらく観察しても、光は消えない。動き方もランダムで、機械的に制御された動きではなさそうだった。
絶命洞窟内で光線を出すものなど、ロロロは知らない。
もしそんな機能を持つものがあるとすれば、探索ロボットぐらいだろうが。
……そんな機能、あっただろうか。
いや、そもそも、そんな機能必要だろうか。
別に探索ロボットはカメラで魔石を見つけているわけではないのだ。明るくても暗くてもなにも問題ない。絶命洞窟が明るいのは、中に入る人のためを思ってのことだ。
暗い道を照らすため、と思えばいいのだろうが、そもそもそんな道に探索ロボットを連れて行こうとは思わない。ロボットだけ向かわせればいいだけである。
それに、ロボットに頼らなくても、あたりを照らす魔法を使えばいいだけである。
魔法を使えないならまだしも――
「……まさか」
ロロロが穴に入り、魔石に近寄る。
光が伸びているおかげで、下に穴が開いているのはすぐにわかった。
「……異世界人くん?」
呼びかけると、すぐに反応があった。
「ロロロさん!」
下で、ライトを手にした試神が手を振っていた。
「助けてください!」
「なにしてんの?」
「穴に落ちたんです!」
そこからはあっという間だった。ロロロが別の探索ロボットを見つけてきて、試神を穴の底から引き上げるよう指示を出したのだ。
ロボットの体にしがみつけるような場所がなく、また落ちるかと不安があったが、ロボットは魔石をとるときにつかうのであろう、アームのような腕で試神を掴むと、実にスムーズに上へと運んでくれる。お礼を言うまもなく去っていくロボットを見送ったあと、やっと試神は安堵の息を吐いた。
「ありがとうございました、おかげで助かりました」
「それはいいけど……なんでいきなりあんな場所に?」
「実は……」と、マシュマロに行く途中、穴とその先に魔石を見つけ、手を伸ばした瞬間落ちたと経緯を説明する。
「説明してなかったあたしも悪いけど……だめだよ、変な道に入っちゃ」
「身をもって知りましたよ……」
「で、怪我はないの?」
「はい、なんとか。……落ちたとき、なんでか体が浮いたんで」
「へー。すごい。魔法が使えんだ」
喜ばしいことのはずなのだが、なぜか試神は浮かない表情を浮かべている。
右腿の杖を触ったまま、肯定も否定もしなかった。
「でもそれじゃあ、なんでライトを使ったの?」
浮遊魔法が使えたのなら、そのままそれを使えばいいじゃないか。
彼女の顔がそう言っている。が、試神には魔法をつかった自覚がないのだ。同じものを使えと言われても無理である。
挑戦すら、していない。
魔法を使えるかと思っただけで、すぐやめてしまった。直後、リュックにライトが入っていることを思い出したのだ。
「魔石に当てたらいい感じに光ってくれて、これでなんとかなるかな、と」
「……最初からそれ使ってれば落ちなかったのに」
「そうなんですよねー……」
迂闊に薄暗い道に入ってしまったのは試神にとって許し難いミスだった。
怪我は気を抜いたときにおこるというが、まさにその通りなのだろう。
「ライトを置いていかなくてよかったですよ」
ロロロから離れるとき、バッグの中のものの大半は置いてきたのだ。その中でライトを入れていたのは唯一の幸運である。
「そういえば、ロボットはどうなりました」
ロロロがここにいるということは、ロボットはあそこに置いてきているのだろうか。
「んー、実はね、よくわからなくなっちゃってね」
「はい?」
休憩室に戻りながら、タタンとの会話を話す。
試神が離れたあと、なぜかエラーがなくなり、ロボットは正常に戻ってしまった。
それだけを端的に、いろいろ伏せて試神に話すと。
「それは……よかった……んですか?」
「どうだろう。エラーが起きたのは事実だから、問題を先送りにしただけかもしれないけど」
どこかで見た喩えだが、部屋の中でゴキブリを見かけたが、見失ってしまった状態だろうか。
ムズムズして、どこか落ち着かない。
「あ、それじゃあ……直っちゃったのなら、解析ツールは今更持ってっても無駄ですか?」
「いや、ログは取るように言われるし、異世界人くんの説明も兼ねてやるつもりだよ。で、そのあとは工場に持ってって詳しい検査をしてもらうつもり。だから運ぶのを手伝ってほしいんだけど」
「むろん、お手伝いしますよ。結局俺、なにも役立ててませんし」
それから、ロロロと共に解析ツールを見つけ、またロボットの場所に戻りログの読み出しを行ったのだが、やはり異常は見つからなかった。
それでも魔法による操作の影響の可能性も残っているため、放っておくわけにもいかない。
中にある魔石を全部抜き、それから魔王室までそれを運んでいく。
ずっと絶命洞窟で作業しており、かつ魔石を詰めていた探索ロボット。クリーンルームをなかなか抜けることができず、探索ロボットについた魔力を落とすためにエアシャワーを浴びること十数回。
へとへとになりながら、タタンにそれを引き渡して、ようやく今日の業務が終了となったのだった。




