第69話 なんで倒れてたのかしらね
試神が絶命洞窟の奥に消えてから、ロロロは一人、頭をかいた。
「うーん……どうしたもんかねえ」
解析ツールを取りに行かせる。
今回の問題はそれで、試神一人を休憩室に向かわせたのだが。
もっと確実に、楽な方法はあった、
試神とロロロ、二人が一緒に休憩室に戻ることだ。
そうすれば移動魔法は使えないかもしれないが、検索ツールが見つからなくて困るということもないし、もしロボットが発熱し、炎上したとしても周りに誰もいないのだから問題ない。
ロボットが燃えたとしても破裂したとしても、絶命洞窟にダメージはないはずである。それくらいではびくともしない魔法が、何重にもかかっている。
戻ってきたときに燃えた残骸を見つける程度だろうし、爆発してたら「そばにいなくてよかった」と安堵できる。中にあった魔石だけは砕けるか燃えてしまかもしれないが、絶命洞窟内で少し魔力の濃さが変わったとしても問題ないだろう。
ロロロがここに来てから絶命洞窟内で爆発、発火というものを見たことはないが、もしそんなことが起これば探索ロボットたちが何らかの処置をしてくれるに違いない。ひょっとしたら、ロロロが知らないだけで何台か処置されている可能性もある。ロロロとて、この中に何台のロボットが稼働しているかなんて把握できていないのだ。一台二台減っていたとしても気が付かない。
ロボットの内部に水や消火剤なんてものはないので鎮火はできないが、どこかの穴に捨てることぐらいはしてくれるだろう。
ただでさえ絶命洞窟は今もどこかで発掘作業が行われているはずなので、どこもかしこも穴だらけだ。発火し、爆発の恐れありとなった段階でロボットたちが集まり、どこかにもっていってくれるだろう。
壊れていなければ穴に落ちても上がってきてしまうが、発火していながら穴から這いずりでてくることはあるまい。
もしそうなってしまったら、それはまた別問題だ。
そしてその別問題こそが、ロロロがここに残った理由でもある。
「ともかく、あたしとロボット、一緒に休憩室に行こうとか言われないでよかったよ」
試神が提案したとしても、なんだかんだ理由をつけて断ったと思うが。
「……故障、久々だなあ。解析がすぐ終わればいいけど、泥沼にはまる可能性もあるし。…………うーん、こういうのも自動修復機能とかで直して、あとで報告だけメールで転送とかってできないのかな」
(そういう機能がある機種がないか、所長に相談してみようかな。でも、あったらすぐにでも導入されるだろうし、ないんだろうなあ)
「地球の人だったら、勝手にエラーとか直せるような技術がもうあるのかな。向こうは魔法がない代わりに、技術が発展してるみたいだし」
高度に発達した科学は、魔法と区別がつかない。
地球の技術力の高さを表現するためによく使われる言葉だ。
背中合わせの異球と地球で、その二つが同じような文明を築こうとしたとき――。
魔法がある異球に対し、地球は技術力で追いついてきた。
魔法という逃げ道がある異球に対し、地球は頭と手で乗り越えてきた。
異球の中には、地球の技術力が伝わってできたものが無数にあるのだろう。
「その調子で、いつかエラーを自動で直して壊れない機械を作ってほしいものだわ」
そのころまで、ロロロが生きているかわからないが。
「さて、いつまでもないものねだりしてても仕方ないか」と、ロロロがパンと手を打った。実際には分厚い手袋でポフという抜けた音にしかならなかったが、気持ちの切り替えは完了する。
ここに残った理由。
それを果たさなければ。
「――こいつ、なんで倒れてたのかしらね」
ロロロがここに残った理由。
それは、ロボットが横転していたからだった。
その場で止まるならまだわかる。
動いている途中でエラーがおき、停止したならわかるが――。
――倒れているとはどういうことだろう。
自分で起き上がれなかったのは、倒れたときに異常がおきて立ち上がれなかったとしても。
横から衝撃を加えられる、もしくは異常走行でもしないかぎり横転しないはず。
試神が起こしたときにそれなりの音がしたように、中は魔石があったのだ。満杯ではないが、それなりの重さがある。水のように揺れて重心が移動するものでもないので、相当ふらふらとしない限り倒れないはずなのだが。
「…………」
ロボットの傍で膝をつき、観察する。
「……打撃痕はない」
――が、それを見て攻撃がなかったと言い切るには情報が少なすぎた。
欠けや罅、打痕のような見かけの傷は自動修復が働きやすい箇所でもある。現に倒れたときにできたであろう傷はもうないし、そのときのログなんかも当然残らない。
外装の傷の修復もわかるようにしているのは、マシュマロのような最先端のものだけだ。探索ロボットのようなものは後回しになっている。
ロボットが攻撃を受けたとしても、わからないのだ。
「絶命洞窟だからありえないっていいたいとこだけど……。この魔王室前まで侵入されちゃってるし、入れる人がいてもおかしくないのよねえ」
固有魔法は日々新しいものが出てくるので、ロロロのような絶命洞窟特化の固有魔法が出てくる可能性だって十分ある。むしろ、<ダイオード>が知れ渡っている時点で、それを改良し、上位互換の固有魔法を作り上げていることだって十分考えられるのだ。
「今までになかったことだからこいつを目の届く場所に置いておきたかったし、かといって異世界人くん一人をこいつの傍に置いておきたくなかったけど……」
その結果、試神を一人にしてしまった。
一応、魔力が濃いマシュマロのほうに行くよう指示を出した。ロロロの完全上位互換の魔法使いが侵入していればどうにもならないが、それ以外ならあそこが一番安全だ。
「所長みたいにポンポン好きな場所に送れたら楽なんだけど。あれ、どんだけ練習すればいいのよ」
おおざっぱな場所でいいならできるかもしれないが、やってと言われてすぐにできるようなものではない。それに、近くに魔石がある状態でなれない魔法を使えるほど、腕に自信があるわけでもない。
「これも、最初に解析ツールに移動魔法をしかけてればなあ」
と、盛大に愚痴を言ったときだった。
かすかな起動音を立てて、ロボットが動き出した。
とっさに身構える。
が。
ロボットは彼女の隣を抜けると、何事もなかったかのように前進を始めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
背面パネルを開け、一時停止を行う。さっきは止まらなかったが、今回はしっかり停止してくれた。
いや、それだけじゃない。
さっきとはLEDの点灯が変わっている。
ノートを見なくてもわかる。
見慣れた光り方だ。
「……エラーがなくなってる」




