第67話 今回のエラーは
「えっと……今回のエラーは」と、ロロロがいつの間にか手に持っていたノートを開きながらつぶやく。さっきまで持っていなかったし、カバンのようなものもない。魔法でもってきたのだろう。
(こういう魔法なら……あってもいいなあ)
まだ魔法の詳細がわかっていないとはいえ、こんなリュックを持って移動するよりは絶対に楽に違いない。こことは別の場所にあるモノを持ってくる魔法ならいくつか候補が思いつくが、それを実行できるかはまた別問題だ。
(ダンジョンに入る前に、いくつかタタンに魔法をレクチャーしてもらおうかな)
「異世界人くん、ちょっと見れる?」
「――ああ、はい」
ノートを片手に持ったロロロが、コントロールパネルにあるLEDを指さしている。
「ここにあるLEDで、今どこがエラーになってるかわかるようになってるの」
「……この、光り方で、ですか?」
コントロールパネルについているLEDは8個。赤に光るタイプのLEDのようで、それが横に、等間隔に並んでいる。だが光り方はさまざまで、単純に全部消えていれば、もしくは光っていればOKということではなさそうだった。
「エラー内容がディスプレイに表示されるとかじゃないんですか?」
「そうなってくれたら嬉しいんだけどね」
ロロロがノートを試神の前で広げる。だいぶ使い込んでいるらしく、黄ばんでいるそれにLEDの絵が書いてあり、エラーの内容がメモしてあった。
「LEDは点灯、点滅、消灯の三つの状態があって、8個それぞれに意味がある。まあ、詳しく知りたければ仕様書を見てもらえればわかると思うけど、あたしのメモがあれば大抵はカバーできちゃうと思う」
あとでコピーあげる、とロロロが言って、ノートの一点を指さした。
「今回のエラーはこれかな?」
「LED1と3が点滅、7が点灯。ほかが消灯」
見比べると、確かにその状態で間違いないようだ。エラー内容は――
「通信エラー?」
「これがやっかいでね」
ノートをぱたんと閉じると同時、そのノートがロロロの手元から消えてしまった。手品を見ているような鮮やかさだ。
「ほかのエラーだったらなんとなくわかるんだけど、これは内部のエラーだからさ。見てわかるようなものじゃないんだよね」
「通信って、外部とつながっているネットが切れたとかですか?」
「そういうのもあるかもしれないけど、これはロボットの中だね。基板内部のマイコンが『キャタピラ、動かせ』とか『センサ、魔石の反応はあるか』とか体の中の適切な場所に信号を送って、その返答を見てるんだけど、それがうまくいっていない」
「……挨拶したけど返事がない、みたいな?」
「電源を入れなおしてるけどそのエラーが消えないってことは、まさにその状態だと思う。『どこどこ準備できたか?』ってマイコンが聞いてるんだけど、なにも帰ってこない」
「じゃあその場所が壊れてるから、そこが特定できれば」
「いいんだけど」
ロロロが肩をすくめた。
「それがどこか、今はわからない」
エラー内容が「通信エラー」なのだ。確かにエラーはエラーなのだが、どこどこが壊れているという内容を教えてくれるものではない。
通信ができていないのだから、再度通信を開始すればいいだけなのかもしれないが、それを強制的に行うのが再起動であったりするのだから、それすら拒否されていることになる。
「地球にいたときもありましたねー……。家にいるのに急にWi-Fiが切れるときが。あのときもどうやってもネットが復活せず、結局ルーターのコンセントぬいて再度入れ直したりしたらいつの間にか復活してましたが、それに近い状況ってことですね」
「……そのとおりだけど、キミの説明をきいていると緊張感がなくなっていくよ」
緊張感? と思うが、これは仕事なのだ。
エラーが起きた。直った。ですませていいものでもないのかもしれない。
「で、厄介って言った理由。これを解析するには、別のツールを用意しないといけない」
それが休憩室にあるんだけど、と言い淀む。そして、ロロロがおもむろに右手を上げると、なにも掴んでいなかったはずの手に、ノートが握られていた。
さっきみせてくれたのは違う、別のノートだ。
「その解析ツールに移動魔法をかけてないから、こうやって持ってくることができない」
例として見せてくれたのだろう。またノートを消す。
「失敗したなあ……」
「……解析ツールに移動魔法をかけてないって、大きいとかそういう理由ですか?」
「いや、ツール自体はノートパソコンだから大きくもないし、一応精密機械だけど、魔法を使うこと自体はなにも問題はない。単純に……そういう魔法を使ってないだけ」
「その理由とは?」
「……今までそんな魔法がなくてもやってこれたからです」
言い難そうに顔を背けられる。そうされてしまうと、試神もそれ以上なにも言えなくなってしまった。
「何度か魔法をかけ直そうとは思ってたんだけど、解析ツール自体の使用頻度も高くないからついつい後回しにしちゃうんだよね」
かけ直すと言っているあたり、もともとはそういう魔法があったらしい。それが時間的理由なのか回数的理由なのかわからないが、魔法が使えなくなってしまった、ということなのだろう。
「そのツールって、休憩室にあるんですか?」
「そうだね。前にヘルメット渡したでしょ? あの棚の中に入ってる」
「じゃあ、こっちにそのツールを持ってくるんじゃなくて、俺たちが休憩室に移動――ワープしたりできないんですか?」
「あたし一人だったらできるけど……異世界人くんを連れてだと自信ないなあ」
「じゃあ俺、ここで待ってますよ」
「うーん、それも考えたんだけど」ロロロが煮え切らない態度で言う。
「ここから休憩室に行くことはできても、休憩室からここに帰ってくることができないんだよね」




